【完結】『人間が太陽と呼ばれている世界で求婚されたけど、それを知らなかった所為で監禁される事になった話』

塚銛イオ

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14章

イゾルデ ①

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「ねぇ、イスカンダー。ちょっと話たい事があるんだけど。」

「私は今忙しい……。」

 イスカンダーの書斎へ押しかけソファーにドカリと座るとイゾルデはそう切り出した。
 ノックもせずに入ってきたイゾルデの態度に眉を上げて抗議の意を示したが、イゾルデは気にした様子もなく侍女にお茶を頼んでいる。


 艶やかな銀色の髪に淡い紫の瞳。
 豊満な胸元は細い腰を強調するドレスに包まれ優雅な動作でカップを上げる。

 そこいらの男なら一目見ただけで心を奪われてしまうだろう。
 それ程イゾルデの姿は魅惑的であった。


 イスカンダーはそんなイゾルデの姿を一瞥して再び書類に注意を戻した。


「相も変わらずね、イスカンダー。」

「何がだ。」

「あなたって本当に愛想の欠片もない男だなって。昔から一緒に遊んだり楽しんだりした記憶がまるでないもの。」

「それを言うならこちらもだ。」


 イスカンダーは素っ気なくそう答える。
 視線はピクリとも動かない。


 この2人、双子で姉弟ではあっても性格が合わないのか、実はあまり仲が良くない。
 忌み嫌うわけではない。ただ話していても何となくイライラしてしまう。
 相手の考えや行動、殆どの事は理解できるしその理屈も分かる。
 だのに、姉が、弟が、思っていた通りの事をしてしまうと、腹が立つ。


 小さな頃は周囲が2人を一緒にしたがった。
 行く場所も同じ。食べる食事も同じ。
 2人は僅かな差異はあっても基本的に好みは同じなので、周りはずっと2人は仲良しでお互いを唯一無二な存在だと思っていると考えていた。


 それがただの幻想だと知ったのは2人が大人になってから。
 成長してイゾルデは他の男に恋をしてこの地を出て行った。
 イスカンダーにとってそれは何よりも幸運な事で、イゾルデにとっても自らの幸せを自らで決める事が出来たと言える。

 この世界では、血は理由にはならず、性別も理由にはならない。
 ただ次代への血の継承自体は重んじられる事が多いのが厄介ではあった。




「アンセルはどうした?勉強は終わったんだろう?」

「そうね、今日は初日だから早めに切り上げたけれど、あの子凄いわね。吸収率が良いって言うか、まるで植物が水を吸ってるみたいに飲み込みがとても速かったわ。」

「ああ、きっと地頭が良いんだろう。」


 イスカンダーの言葉にイゾルデは頷いた。


「基本的な文字列もすぐに覚えたわ。簡単な本ならすぐに読めるようになったし。今は『月と太陽』を読んでいるわ。」


 イゾルデの言葉にイスカンダーの眉がまたしてもピクリと動いた。


「ねぇ、アンセルは一体どこに住んでいたのかしら。あの本はこの国の住人なら誰でも知っていると思っていたのにアンセルったら初めて見たらしいのよね。」

「平民に本は贅沢品だろう。大体、字も読めない輩に本は必要ないしな。」

「だとしても、あの本の内容は常識といってもいいでしょ?この国に住んでいるなら尚更。アンセルはよっぽど田舎にいたのね。お話としても『月と太陽』を知らなかったわ。」

「両親ともに人間だったという話だ。アンセルの住んでいた場所に私たちのような混ぜ者はいなかったのだろう。」


 紫のアメジストのような瞳の色がキラリと光った。
 イゾルデの瞳も同じ色をしている。
 ただ、イスカンダーの瞳の方が濃い紫色に見えたが。


 イゾルデは苛立たし気に手を振ってイスカンダーの言葉を遮る。


「やめて、その言葉。私大嫌いよ。」

「何故だ?この国で混ぜ者なんて珍しくもないだろうに。」

「だとしても、よ。それに私たちみたいに獣と魔族の混ぜ者は珍しい。イスカンダーだって知ってるでしょ。強い魔力があるが故に私もあなたも酷く窮屈な思いをしたわ。ロランに会わなければ私は未だにこの地であなたに縛り付けらていたかもしれない。あなた個人の意見など気にも留めない人達の所為で。」

「この国に暮らしている以上、制約を課されるのはしょうがない事なのかも知れないがな。ロランには未だに頭が上がらん。北の辺境伯など煩わしいだけの役職を真面目にこなし、お前のような傍若無人な者を娶ってくれたのだから。」

「あら、ロランは私に首ったけよ。もちろん、私もロランを愛しているわ。」

「それは良かった。」


 話は終わり、とばかりにイスカンダーはイゾルデに退出を促す。
 イゾルデはそんなイスカンダーに肩を竦めながらも部屋を出て行った。

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