34 / 79
14章
イゾルデ ①
しおりを挟む「ねぇ、イスカンダー。ちょっと話たい事があるんだけど。」
「私は今忙しい……。」
イスカンダーの書斎へ押しかけソファーにドカリと座るとイゾルデはそう切り出した。
ノックもせずに入ってきたイゾルデの態度に眉を上げて抗議の意を示したが、イゾルデは気にした様子もなく侍女にお茶を頼んでいる。
艶やかな銀色の髪に淡い紫の瞳。
豊満な胸元は細い腰を強調するドレスに包まれ優雅な動作でカップを上げる。
そこいらの男なら一目見ただけで心を奪われてしまうだろう。
それ程イゾルデの姿は魅惑的であった。
イスカンダーはそんなイゾルデの姿を一瞥して再び書類に注意を戻した。
「相も変わらずね、イスカンダー。」
「何がだ。」
「あなたって本当に愛想の欠片もない男だなって。昔から一緒に遊んだり楽しんだりした記憶がまるでないもの。」
「それを言うならこちらもだ。」
イスカンダーは素っ気なくそう答える。
視線はピクリとも動かない。
この2人、双子で姉弟ではあっても性格が合わないのか、実はあまり仲が良くない。
忌み嫌うわけではない。ただ話していても何となくイライラしてしまう。
相手の考えや行動、殆どの事は理解できるしその理屈も分かる。
だのに、姉が、弟が、思っていた通りの事をしてしまうと、腹が立つ。
小さな頃は周囲が2人を一緒にしたがった。
行く場所も同じ。食べる食事も同じ。
2人は僅かな差異はあっても基本的に好みは同じなので、周りはずっと2人は仲良しでお互いを唯一無二な存在だと思っていると考えていた。
それがただの幻想だと知ったのは2人が大人になってから。
成長してイゾルデは他の男に恋をしてこの地を出て行った。
イスカンダーにとってそれは何よりも幸運な事で、イゾルデにとっても自らの幸せを自らで決める事が出来たと言える。
この世界では、血は理由にはならず、性別も理由にはならない。
ただ次代への血の継承自体は重んじられる事が多いのが厄介ではあった。
「アンセルはどうした?勉強は終わったんだろう?」
「そうね、今日は初日だから早めに切り上げたけれど、あの子凄いわね。吸収率が良いって言うか、まるで植物が水を吸ってるみたいに飲み込みがとても速かったわ。」
「ああ、きっと地頭が良いんだろう。」
イスカンダーの言葉にイゾルデは頷いた。
「基本的な文字列もすぐに覚えたわ。簡単な本ならすぐに読めるようになったし。今は『月と太陽』を読んでいるわ。」
イゾルデの言葉にイスカンダーの眉がまたしてもピクリと動いた。
「ねぇ、アンセルは一体どこに住んでいたのかしら。あの本はこの国の住人なら誰でも知っていると思っていたのにアンセルったら初めて見たらしいのよね。」
「平民に本は贅沢品だろう。大体、字も読めない輩に本は必要ないしな。」
「だとしても、あの本の内容は常識といってもいいでしょ?この国に住んでいるなら尚更。アンセルはよっぽど田舎にいたのね。お話としても『月と太陽』を知らなかったわ。」
「両親ともに人間だったという話だ。アンセルの住んでいた場所に私たちのような混ぜ者はいなかったのだろう。」
紫のアメジストのような瞳の色がキラリと光った。
イゾルデの瞳も同じ色をしている。
ただ、イスカンダーの瞳の方が濃い紫色に見えたが。
イゾルデは苛立たし気に手を振ってイスカンダーの言葉を遮る。
「やめて、その言葉。私大嫌いよ。」
「何故だ?この国で混ぜ者なんて珍しくもないだろうに。」
「だとしても、よ。それに私たちみたいに獣と魔族の混ぜ者は珍しい。イスカンダーだって知ってるでしょ。強い魔力があるが故に私もあなたも酷く窮屈な思いをしたわ。ロランに会わなければ私は未だにこの地であなたに縛り付けらていたかもしれない。あなた個人の意見など気にも留めない人達の所為で。」
「この国に暮らしている以上、制約を課されるのはしょうがない事なのかも知れないがな。ロランには未だに頭が上がらん。北の辺境伯など煩わしいだけの役職を真面目にこなし、お前のような傍若無人な者を娶ってくれたのだから。」
「あら、ロランは私に首ったけよ。もちろん、私もロランを愛しているわ。」
「それは良かった。」
話は終わり、とばかりにイスカンダーはイゾルデに退出を促す。
イゾルデはそんなイスカンダーに肩を竦めながらも部屋を出て行った。
37
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【8話完結】魔王討伐より、不機嫌なキミを宥める方が難易度「SSS」なんだが。
キノア9g
BL
世界を救った英雄の帰還先は、不機嫌な伴侶の待つ「絶対零度」の我が家でした。
あらすじ
「……帰りたい。今すぐ、愛する彼のもとへ!」
魔王軍の幹部を討伐し、王都の凱旋パレードで主役を務める聖騎士カイル。
民衆が英雄に熱狂する中、当の本人は生きた心地がしていなかった。
なぜなら、遠征の延長を愛する伴侶・エルヴィンに「事後報告」で済ませてしまったから……。
意を決して帰宅したカイルを迎えたのは、神々しいほどに美しいエルヴィンの、氷のように冷たい微笑。
機嫌を取ろうと必死に奔走するカイルだったが、良かれと思った行動はすべて裏目に出てしまい、家庭内での評価は下がる一方。
「人類最強の男に、家の中まで支配させてあげるもんですか」
毒舌、几帳面、そして誰よりも不器用な愛情。
最強の聖騎士といえど、愛する人の心の機微という名の迷宮には、聖剣一本では太刀打ちできない。
これは、魔王討伐より遥かに困難な「伴侶の機嫌取り」という最高難易度クエストに挑む、一途な騎士の愛と受難の記録。
全8話。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる