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乞い ①
しおりを挟む「アンセル、今日も温室に行くのか?」
「はい、イスカンダー様。僕の仕事はあそこですから。」
アンセルの言葉にイスカンダーの顔がほんの少し歪む。
それは目の前にいるアンセルにも気付かれない程些細な変化で、イスカンダーがアンセルの行動に不満を持っている事の表れだった。
しかし、それはほんの小さな変化すぎてアンセルは気付かない。
「脚は大丈夫か?そんな急にたくさん動いて何か不都合はないのか?」
イスカンダーの言葉にアンセルは感激したように頷いた。
「大丈夫です。流石に前みたいにはまだ動かせませんし、今はまだ杖があったほうが動きやすいですけど。それでも前よりもずっと動けるようになったんですよ。」
単純にアンセルはイスカンダーが自分を心配してくれている事に感激したのだ。
花屋で働いている時も店主は知り合いからの紹介だからこそアンセルを雇ってくれたが、それ以上の心遣いをしてくれる事は特になく。仲間の従業員もまた小さなアンセルを揶揄いこそすれ、労い労わる(ねぎらいいたわる)者などいなかった。
ユーゴはよく声を掛けてくれはしたが、どうにも強引で大きな身体から放つ圧のようなものがあって苦手だったし、従業員の中でも粗暴な部類のユーゴに目を付けられていたアンセルに声を掛けようとする他の従業員などいるはずもなかった。
「イスカンダー様、僕やっとイスカンダー様のお役に立てるんです。あのイスカンダー様から預かっている花の種、絶対に咲かせてみせますから。」
勢い込んでイスカンダーに告げるアンセルはあの花を咲かせる事がイスカンダーの願いの全てだとそう考えていた。
以前のアンセルならば挑戦する前から躊躇していた事だろう。
名前も何も分からない花を咲かせる事は、種を植え水を与え続ければいいというものではない。
その花にあった栽培方法があるはずなのだ。
それを無視して育てていけばかなりの確率で花は葉もつけず、蕾も付けず、花を咲かせる事はないだろう。
そんなある意味、賭けのようなことをやりたいとは思っていなかった。
けれど、アンセルは知識を得た。
今まで知らなかったやり方。見知らぬ育成方法。
試してみたい事は沢山ある。
温室はそのアンセルの期待に応える設備を持っていた。
そして何より、アンセルはイスカンダーの期待に応えたかった。
アンセルを救ってくれたイスカンダーに恩返しがしたかった。
それが今のアンセルの原動力になっていた。
そんな生き生きとしたアンセルを見つめるイスカンダーの瞳の奥には仄暗い小さな炎が時折灯る。
それはちょっとした事で点いたり消えたりを繰り返していたが、やる気に満ちたアンセルは気付かない。
「…………あまり無理をするな。」
「はい!!」
イスカンダーの言葉に、アンセルは益々瞳をキラキラとさせて返事をした。
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