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ノーラ婆さんの宿 ②
*
「じゃ、二階の端にある部屋を使いな。あんたなら、一晩泊まってもいいさ。」
ひひひ、と気味の悪い声で笑ったノーラ婆さんはなるほど魔女と言われるだけあるとアンセルを納得させる様相をしていた。
白く縮れた長い髪に尖った長い爪。
黒いワンピースに黒いマントを羽織りその丈は足元を隠すほど長かった。
とんがり帽さえ被っていなかったが、もじゃもじゃの頭のてっぺんには小さな小さな赤い帽子がちょこんと乗っていた。
笑った口の中が偶然見えて、黄ばんだ大きな歯が並んでいた。
その顔を見て背筋がゾクっとしてアンセルは慌ててイスカンダーの胸に顔を埋めた。
「ひひ、その坊やも一緒じゃろう?何か持っていくかい?」
ノーラ婆さんはそう言うと、ショーケースの扉をチラッと開けてイスカンダーに見せた。
鼻にツンとくるスパイスの香りがして、イスカンダーの興味をそそった。
「これは何だ?」
「おや、こんな街中の食べ物なんざ見た事がなかったかね。これはスパイスケーキ。ちょっとした茶菓子さ。」
ノーラ婆さんの言葉にアンセルもショーケースを覗き込む。
独特の香りがするスパイスケーキは酒漬けの木の実などが練り込まれているようでどっしりと重くそして美味しそうに見えた。
「スパイスケーキか。これと茶をもらおう。」
「分かった、用意しておくよ。」
そう言うとノーラ婆さんは部屋の奥に続くドアをくぐって行った。
「では私たちは二階の端の部屋へ行こう。少し休めば気分も良くなる。」
イスカンダーはそう言うと軽々とアンセルを抱えて階段を昇った。
建物には他に人影はなく、かといって物音一つしないわけでもない。
ガヤガヤとした人の動く音がどこからか聞こえてきて、何とも不思議な気持ちになった。
「ここか。」
イスカンダーがドアの前に立ち、アンセルを抱いたまま器用にドアを開けた。
鍵を受け取っただろうか? とアンセルは一瞬不思議に思ったが、それ以上に驚いたのは部屋の中に置いてあったスパイスケーキと大きなポットがティーテーブルの上に既に準備されていた事だった。
ノーラ婆さんが先回りして用意したのだろうか?
いや、それにしては早すぎる。
二階の端の部屋に回り込むには道も階段もない。
一体どうやって……?
不思議に思ったけれど、ここは魔女のノーラ婆さんの宿屋だ。
そんな事もあるか、とどこか納得してしまうのもまたノーラ婆さんの宿屋ならではなのかもしれない。
「ベッドに行くか?」
耳元で囁かれてビクッとする。
気付くとイスカンダーの顔はすぐ近くにあって、アンセルの顔を覗き込んでいた。
「だ、大丈夫です。さっきよりも気分はいいですから。それに僕もそのスパイスケーキ、食べてみたいです。」
そう言うと、イスカンダーは何か含みがありそうな顔でアンセルの頬に唇を寄せた。
「少し顔色も良くなったか。まぁ、いざとなったらここに泊まる許可はもらったしな。」
こんな下町の粗末な宿屋にイスカンダーが泊まることなどあり得ないだろう。
きっとイスカンダーの冗談だ、と思っている内にイスカンダーの唇はアンセルの首筋まで伸び、吸い付くだけでなく時に舐め、強弱をつけて刺激を強めていった。
「あっ……イスカンダー様っ。お、お茶が冷めますっ。」
今や耳にまで吸い付き舐め、しゃぶり始めたイスカンダーの愛撫は次第に熱を帯びつつあった。
必死に止めようとするアンセルをなだめるようにイスカンダーの口づけは激しくなって行った。
「ここは魔女の宿屋だ。お茶も冷めることなどないだろう。今はアンセル、お前が欲しい。」
そう言われ深く唇を合わされるとアンセルの意識も次第にとけていく。
身体を這うイスカンダーの大きな手がアンセルの反応を一つ一つ拾っていった。
「そう、私の事だけ考えればいい。お前は私の太陽なのだから。」
深く深く穿たれて、快感に翻弄されたアンセルにはイスカンダーの言葉は聞こえない。
ただ何度も何度も求められ、抱きしめられるその力強い腕の感触だけだアンセルの世界の全てだった。
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