【完結】おまえが可愛いのが悪すぎるっ。

塚銛イオ

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やっぱりサヨナラするよ。


囲い込まれている事に気付いたら、それまで平気だった事が急に気になってしょうがなくなってきた。

例えば隣を歩いている時の肩の近さとか。
向き合って話す時の瞳の強さとか。
ふとした瞬間に俺の意識に入り込んでくるさり気ない動作にドキドキする。
そして、そんなタイガを見るたびに俺はタイガってこんなに格好良かった?と思う事が増えていった。

「ちょ、離れてくれない?」
「何でだよ~。俺はハルカの隣を歩きたいだけだし。」
「だ、だって歩きにくいよ。こんなに近づいて歩くことないじゃん。」
「そんな事言うなって。俺はこの距離がいいんだよ。」

そんな風に言って肩を抱いて歩く。
距離感がおかしい。
俺はちょっと居心地が悪そうに、タイガは幸せそうに笑っている。

触れ合っている温かい体温がまるで俺を守るように包み込んで安心する。
本当は俺だってタイガと心から笑い合ってみたい。
でも何だか自分があまりにも簡単にタイガに心を奪われてしまっているようで、素直に笑えない。

好き、好き、って言われて。
優しくされて、優しく触れられて。

そうしたら、あれ?俺ってコイツの事好きか、も?
なんて思って。

正直自分の気持ちが分からない。

トオルの言葉に返事をしなかったことで、俺とタイガは恋人同士になったと思われている。
押されに押された俺がとうとう絆されたって図式らしいけれど。
俺はそう言われる度に「お試しだからっ」「(仮)だってば。」
と否定するところから入っている。

俺がそうやって否定するたびに、タイガが少し寂しそうに笑う事に気付いてはいたけど。
お試しがお試しじゃなくなる事が怖かった。

だって、恋人なんていた事ない。
俺を好きだと言ってくれた人だっていない。
付き合いだした恋人達がどんな風に同じ時を過ごしていくのか、まるで想像なんて出来ない。

こっちが本気で好きになったらどうなるのか。
ずっとずっと幸せに暮らしましたなんて、おとぎ話のような結末を迎えるって、本気で思える?

そんな風に思ったらタイガの傍にいるのが怖くなった。
前に感じていた恐怖とは違う。

自分がどうなっちゃうのか分からない恐怖。
タイガの存在がもっと大きくなることへの恐怖。

嬉しい、楽しい、幸せ、なんてプラスの気持ちで溢れてもいいはずなのに。
何故か俺の心の中は不安でいっぱい。

だから。
やっぱりタイガとは付き合えない。

これ以上タイガに明け渡す事なんて出来ない。
俺の心も。
俺の身体も。

タイガの大きな手で撫でられて、触れられる心地良さに。
そのまま流されてしまえって、心の声が俺を諭すけど。

ごめん、俺、自分にそこまで自信がないんだ。

タイガの好意をずっと繋ぎ止めて置ける自信がない。
ずっとタイガを好きでい続ける気持ちの強さも持ってない。

だから逃げる。
やっぱり逃げる。

タイガの前からだけじゃなくて。
タイガの心から。
タイガの全部から。



「俺、やっぱりタイガとは付き合えない。お前の事好きになれない。」
「だから、俺がハルカの事好きだから平気だって、言っただろ。」
「そういう事じゃなくって!……そうじゃなくって……俺…これ以上タイガの傍にいたくない。タイガを見たくない…。」
「ハルカ…?」
「ごめん。もう俺に話しかけたりしないで。俺も、もうタイガと話したりしないから。」
「ハルカ……。」
「さよなら、タイガ。」

告げた言葉に泣きそうな目で俺を見たタイガの顔に、ズキンと胸の痛みを感じたけれど。
これ以上一緒にいたら、さっき告げた酷い言葉を撤回してしまいそうで。

俺は慌てて踵を返した。

残されたタイガが、俺の姿をどんな顔で見つめていたのかなんて知る由もなく。
俺は自分を守るためにタイガの前から姿を消した。


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