王手☆スイーツたっぷりオフィスラブ ~甘い恋愛なんて将棋しか取柄の無い根暗な私にはマジ無理な世界だよ~

御実ダン

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1.この女、根暗である。

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 シャカシャカシャカ……カーテンを閉め切った薄暗い部屋に、歯磨きの音が響く。洗面台に置かれたクマ柄のコップに手を伸ばしたが――引っ掛けて中の水が排水溝に流れた。

 もうすぐ出勤する時間ね。

 一般的な黒のタイトスカートに黒のストッキング、トップスは白のレディースシャツに茶色のカーディガンを楽に羽織る。

 洋服をビシッと決めた私は玄関に向かい、黒の革靴を履いた。至って普通の会社員。

 ただ、ちょっと髪が腰まで伸びた程度のロングヘアーで、オシャレをそんなに知らなくて、毎日の服選びに困らないような会社に就職しただけの、そんな大人の女の子が私。

 紀国安奈きのくにあんな。25歳、独身。

 今日から新年度が始まる。


 ――満員電車とはいえ、女性専用車両のおかげで苦労したことは無い。いつものように毎日決まった時間の電車に乗り、乗車時間の30分を使って趣味に没頭するのだ。

 私は立ったまま車両ドアの脇に寄りかかり、スマホを取り出してアプリを起動する。

 これも、いつものオンライン将棋対戦アプリ。

「(▲7六歩、△3四歩、▲2六歩、△8四歩……相掛かりがいいなぁ)」

 祖父の影響で、私は物心がついた頃から『将棋』を指していた。

 面白いのよね、将棋って。25歳の誕生日を迎えた先月も一人で将棋を指していたわ。

 そう、私は人生で一度も彼氏が出来たことのない独身女。だから胸を張って言える、「将棋が恋人よ」ってね。あーあ、将棋の駒が擬人化してイケメンになったらどんなにステキなことか。

「(……▲3一角成、△1二玉、▲1四歩――)」

 もうすぐ新宿に到着する。スマホを操作する私の指はもう止まっていた。相手の手番、もう詰ませているので投了を待っている所だ(私の勝ち)。

 この相手が時間切れまで粘るのか、潔く投了するのか。今日一日の運勢が決まると私は勝手に思っていた。将棋の世界は、指し方(駒の動かし方)や戦法(決まっている型)などでプレイヤーの性格が出やすい。

 もし素直に「参りました」と言ってくれるのなら、今日はきっと良い一日になる。さぁ、決めてちょうだい。今日の私の運勢は――

「……接続切れ勝ち……」

 私の中では大凶。最悪な一日になりそうだなぁ。
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