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第一章「悪役の運命」
語られなかった皇太子と悪役令嬢2
しおりを挟む彼女と皇太子は、似た者同士だということをきっかけに互いを信頼し合うようになっていた。
それまで怠っていた交流も徐々に増やし、他愛ない話をして。
最初は友人関係のようなものだったが、今ではかけがえのない存在に等しく欠けてはならない関係性を築き上げた。
婚約者ならではの扱いにも慣れ、皇太子と会う日を楽しみにするように変化していたものの、変わらぬ魔力差別を日頃から受け続け疲弊していることは事実だ。
茶会では笑われ、嫌がらせも増えた。
皇太子と仲が良くなればなるほど嫌がらせは酷くなっていき、少女を心身ともに衰弱させたのはそういった要因も大きいのだろう。
ククーナは覚束ない足取りで公爵邸を歩き回る。
(私がいけないの……?)
──私達には魔力が無い。たったそれだけなのに、どうしてこんな扱いを受けなければいけないの。
彼は立派な皇族で、何時だって努力を欠かさなくて素晴らしい人なのに。
不満を晴らすことも愚痴を溢すことも出来ない環境下は少女を負の感情へ追いやるに十分だ。
魔力さえあれば何もかもが変わっていた。
魔法が使えれば帝国に貢献も出来ただろうし、皇太子や自分があのような目に合うことも無かったはず──悩みに悩んでいた時、ククーナは気が付けば誰かの部屋に迷い混んでいた。
帰ることも出来そうにない、扉の無い部屋。
それはガーラ帝国城の一室であるものだと、古代皇后の肖像画を見て気付く。
古代の皇帝や皇后は帝国の歴史上、名前しか語られなかった存在。その存在は頑なに秘匿され続けていた為、肖像画は贋作しか残っていないはずだった。しかし本物にはある特徴がある。
額縁の内側に古代皇帝の髪束が入っているという──
「ひっ……」
光の魔力が込められた髪ということは、ほぼ間違いなく皇族の本物であることは容易に想像がついた。
あるはずの無いものが目の前にあることでククーナは混乱する。
驚いた拍子にどうやら肖像画を落としてしまったらしい、拾おうと壁を見れば部分的に押せそうな凸凹がある。それに気付いた彼女は好奇心に負けて指を当て、力を入れていく。
大きな石を引きずったような低い重圧のかかった轟音と共に、階段が姿を現す。恐る恐る、下へ下へと歩を進めていくと僅かながら奇妙な紫色の光が見えた。
アイオライトの光だ。
少女はその光を頼りに奥を目指し腕で覆える程度の大きさの、一つの古びれた宝箱を見つける。
蓋をゆっくりと開けてみれば、中に入っているのは二つだけ。
男性用、女性用であろう指輪が左右に分かれて仕舞われている。丁度女性用の指輪はククーナの右手にある薬指にぴったりと嵌まりそうだ。
誘われるように彼女がその指輪を着けてみると、内側から力が沸いてくるような感覚が響く。
試しに手を正面に翳してみた。
すると、手の内に魔力が溜まっていくのが分かった。
──魔法が使える?
「なんてこと……殿下にお伝えしなきゃ!」
帰り道の無い部屋から出る方法も、魔法が使えればなんてことはない。
上級者にしか扱えないと言われる移動魔法さえ、今の自分には出来ると確信して魔力を練る。
目を閉じて、目が覚めれば移動はきちんと出来ていた。
そして皇太子に会う日、少女は指輪を着けてから魔法が使えるようになったことを話し、男性用の指輪を少年に渡す。
彼も最初の内は信じられないようだったが、ククーナと同じように薬指に着けた後、その効果を実感したようだった。
シルヴィとククーナは喜んだ。
目一杯彼女に感謝して、彼は言った。
この指輪には魔力を増幅する効果があるのだろうと。
このことは二人だけの秘密にしようと。
どうしてあんな場所にあったのかという疑問は歓喜に溺れて見えなくなり、気にすることもなく日々は過ぎていく。
最初の内は良かった。
ただ魔力が増えただけ。
着け続けていく内に二人にはある変化が起こった。
心優しくおしとやかなククーナはほんの些細なことで苛立ち、使用人や家族を騙しては泣かせる冷酷な性格に歪み、
魔力以外は完璧だとされていたシルヴィは魔力を手に入れたことで周囲を疑い、蔑むようになり、傲慢さに拍車を掛けていったそうだ。
その後、禁忌である闇の神獣と契約をし、二人はどんどん欲張りになっていった。
欲張りになればなるほど強くなっていくのも分かった。
だからだろうか、止める気も無かった。
幼い頃から魔力で上下を決める縦社会。それに飽き飽きしていたに他ならない。
顔付きも変わっているというのにそれを指摘する者ももういない。
周囲の者達は、魔力があると分かるなり手のひらを返して持て囃していたが、今では恐れて近寄ることさえ億劫になっていた。
それから暫くして、シルヴィは小国を侵略したらしい。
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