6 / 10
彼女に嘘をついた男
5
しおりを挟む
夫婦と会うのは家を出たあの日以来だった。
私はおじさんとおばさんに彼女を紹介した。
二人は唐突で驚いていたけど、泣いて喜んでくれた。
家を後にして帰る途中、
ふと隣の彼女を見た。
彼女はまっすぐ前を向いて歩いていた。とても明るい表情を浮かべていた。
その横顔を見て、私は
はじめて
過去ではなく
5年後、10年後、その先の未来について考えた。
そんな時だった。
突然彼女の周りが青く光った。
それはほんの一瞬だった。
驚いたが、その時は気のせいだと思った。
春先、彼女と結婚した。
結婚しても、お互いの環境はあまり変わらない。
彼女は定期的に家を出て、地方に出向き、様々な物を仕入れては市場で売っていた。
一方、私は相変わらず弟子を続けていた。
もうやめようかと思っていたが、純粋に鍛冶の仕事をしてみると、その面白さに気づき、続けられた。もう親方への罪悪感はない。
ただ少し変化もあった。
画家さんですか?
あの日彼女に言われた言葉に勇気をもらってしまったのか
思い切って自分の絵を知り合いの画商の店に置いてもらった。
今となったら素人の自分が大胆なことをしてしまったなと恥ずかしく思う。
だけどある日、親子連れに一枚の絵を買ってもらえた。
本当にうれしかった。
だからと言って画家とは名乗れないから、どのみち彼女には本当のことを打ち明けるべきだったが
行商人の彼女は頻繁に家を出てしばらく帰ってこないこともあったから、それで言うタイミングを逃した。
というより、それを良いことに言わなかったのか
鍛冶の仕事もやりがいがあったけど、いつか彼女についた嘘を本当にしてみたいなという思いもあった。
幸いというべきか、その嘘がばれることはなかった。彼女から画家という職業について深く聞かれることはなかった。
彼女はただ、私の描いた絵を見て、笑顔になってくれた。
それが、これ以上ない幸せに思えた。
結婚して二度目の春が訪れた。
ある日、仕事の帰りだった。
「君はあの時の少年か?」
後ろから声をかけられた。ふりかえると
そこには白髪の長老が立っていた。
「大きくなったな、あれからもう何年たったことか。おじさんとおばさんは元気か?」
私は息を飲み込んだ。
その人はあの日の旅人だった。
後日、渡したいものがあると言われ、長老の家を訪れた。
部屋に案内され、私がテーブルの椅子に座ったのを見てから、長老は奥の廊下へと消えていった。
それからしばらくして、長老は何かを持って戻ってきた。
「君の父と母のものだ。」
長老はテーブルの上にひとつの木箱を置いた。
「えっ」
私は言葉を詰まらせた。
そして、その木箱のふたをあけた。
中には懐中時計と絵筆
父が丹精こめて作った懐中時計
母がずっと大切に使ってきた絵筆
あの日、父が殺されたと知った時、
家を着の身着のまま飛び出した。
だから父と母のものは何も持ってなかった。
「ありがとう……ございます」
涙がポロポロとテーブルの上に落ちていった。
それから長老は旅の話をしてくれた。
旅の先々で、最初のうちは地元の人々に警戒されることもあったが、
しばらくたてば、そういった警戒心も消え、皆、長老に対して親切だったそうだ。
長老の旅の話が終わると今度は私が、これまでのことを話した。
それで結婚の話もした。そのついでに青い光についても話した。
すると長老は目を細めてこう言った。
「君は憎しみを乗り越えることができたのだな」
その日の夜
家に帰ると、彼女が迎えてくれた。
私は彼女に目をつぶって欲しいと頼んだ。
「えっ?」て苦笑いした彼女だけど、目をつぶってくれた。
私は彼女をじっと見つめた。
すると、彼女の周りから少しずつ青い光が現れはじめた。
『その光は魔力によるものだ』
その青い光は強まっていく
『 それで相手の魔力を知ることができる』
さらに、さらに強くなっていく
『 今まで封印されていたが、解かれたようだな』
そして
最後の一瞬
視界は青一色に染まり、まるで空の中、雲ひとつない青空の中、彼女と私だけいる、そんな感覚になった。
光がおさまった。
彼女の魔力について分かった。
分かった時にはもう、彼女を抱きしめていた。
ありがとう
あなたのおかげで私はあの日、大切な人をまた失うところだった。
おろかな自分を導いてくれた。
頬の上に涙が伝った。
そんな私に
彼女は何も聞かなかった。それが彼女のやさしさだと思った。
だが、この日が彼女との別れの始まりとなってしまった。
私はおじさんとおばさんに彼女を紹介した。
二人は唐突で驚いていたけど、泣いて喜んでくれた。
家を後にして帰る途中、
ふと隣の彼女を見た。
彼女はまっすぐ前を向いて歩いていた。とても明るい表情を浮かべていた。
その横顔を見て、私は
はじめて
過去ではなく
5年後、10年後、その先の未来について考えた。
そんな時だった。
突然彼女の周りが青く光った。
それはほんの一瞬だった。
驚いたが、その時は気のせいだと思った。
春先、彼女と結婚した。
結婚しても、お互いの環境はあまり変わらない。
彼女は定期的に家を出て、地方に出向き、様々な物を仕入れては市場で売っていた。
一方、私は相変わらず弟子を続けていた。
もうやめようかと思っていたが、純粋に鍛冶の仕事をしてみると、その面白さに気づき、続けられた。もう親方への罪悪感はない。
ただ少し変化もあった。
画家さんですか?
あの日彼女に言われた言葉に勇気をもらってしまったのか
思い切って自分の絵を知り合いの画商の店に置いてもらった。
今となったら素人の自分が大胆なことをしてしまったなと恥ずかしく思う。
だけどある日、親子連れに一枚の絵を買ってもらえた。
本当にうれしかった。
だからと言って画家とは名乗れないから、どのみち彼女には本当のことを打ち明けるべきだったが
行商人の彼女は頻繁に家を出てしばらく帰ってこないこともあったから、それで言うタイミングを逃した。
というより、それを良いことに言わなかったのか
鍛冶の仕事もやりがいがあったけど、いつか彼女についた嘘を本当にしてみたいなという思いもあった。
幸いというべきか、その嘘がばれることはなかった。彼女から画家という職業について深く聞かれることはなかった。
彼女はただ、私の描いた絵を見て、笑顔になってくれた。
それが、これ以上ない幸せに思えた。
結婚して二度目の春が訪れた。
ある日、仕事の帰りだった。
「君はあの時の少年か?」
後ろから声をかけられた。ふりかえると
そこには白髪の長老が立っていた。
「大きくなったな、あれからもう何年たったことか。おじさんとおばさんは元気か?」
私は息を飲み込んだ。
その人はあの日の旅人だった。
後日、渡したいものがあると言われ、長老の家を訪れた。
部屋に案内され、私がテーブルの椅子に座ったのを見てから、長老は奥の廊下へと消えていった。
それからしばらくして、長老は何かを持って戻ってきた。
「君の父と母のものだ。」
長老はテーブルの上にひとつの木箱を置いた。
「えっ」
私は言葉を詰まらせた。
そして、その木箱のふたをあけた。
中には懐中時計と絵筆
父が丹精こめて作った懐中時計
母がずっと大切に使ってきた絵筆
あの日、父が殺されたと知った時、
家を着の身着のまま飛び出した。
だから父と母のものは何も持ってなかった。
「ありがとう……ございます」
涙がポロポロとテーブルの上に落ちていった。
それから長老は旅の話をしてくれた。
旅の先々で、最初のうちは地元の人々に警戒されることもあったが、
しばらくたてば、そういった警戒心も消え、皆、長老に対して親切だったそうだ。
長老の旅の話が終わると今度は私が、これまでのことを話した。
それで結婚の話もした。そのついでに青い光についても話した。
すると長老は目を細めてこう言った。
「君は憎しみを乗り越えることができたのだな」
その日の夜
家に帰ると、彼女が迎えてくれた。
私は彼女に目をつぶって欲しいと頼んだ。
「えっ?」て苦笑いした彼女だけど、目をつぶってくれた。
私は彼女をじっと見つめた。
すると、彼女の周りから少しずつ青い光が現れはじめた。
『その光は魔力によるものだ』
その青い光は強まっていく
『 それで相手の魔力を知ることができる』
さらに、さらに強くなっていく
『 今まで封印されていたが、解かれたようだな』
そして
最後の一瞬
視界は青一色に染まり、まるで空の中、雲ひとつない青空の中、彼女と私だけいる、そんな感覚になった。
光がおさまった。
彼女の魔力について分かった。
分かった時にはもう、彼女を抱きしめていた。
ありがとう
あなたのおかげで私はあの日、大切な人をまた失うところだった。
おろかな自分を導いてくれた。
頬の上に涙が伝った。
そんな私に
彼女は何も聞かなかった。それが彼女のやさしさだと思った。
だが、この日が彼女との別れの始まりとなってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる