汽車に乗りあてもない旅に出かけた。それは生まれ過ごした国へのーーーーーーーー

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彼女に嘘をついた男

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もし何かあれば私を頼りなさい。



あの時、父と母の形見を受けとった時、帰り際、長老は私にそう言った。

一度助けられたのに二度も助けられるわけにはいかない、

そう思っていたが、

誰も殺されないためにも長老に相談したかった。

私が事情を話すと長老は大きくうなづいた。

「よくぞ我慢して、王宮を出られた。後はまかせなさい」

「彼女を助ける方法があるんですか?」

私は驚いた。

「ある。 君は王の言う通りにしなさい」

彼女を助ける方法を教えてもらい、私は長老に深々と頭を下げた。



次の日、軍とともに出発した。

彼女のいる場所に心あたりがあった。

だから出発した次の日に見つかった。

ある町の市場に彼女はいた。軍にまず一人で会いに行けと言われた。


彼女は私を見て一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。

その笑顔を見て私は顔を少しうつむけた。

市場を離れ、彼女とふたり、しばらく野道を歩いた。




そして、私だけ歩みを止めた。


一歩、二歩、彼女が先に進んでいく。


私は手を伸ばし、後ろから彼女の左手首をつかんだ。


彼女は、振り返った。驚きの表情を浮かべていた。


「私は国王のスパイだ。君を捕まえにきた」


そう言った私に対して、彼女は何も言葉にせず、ただ私の顔を見つめていた。

その見つめる目から涙がこぼれた。

私は何か言いかけようとして口をつぐんだ。


兵に彼女が連れていかれる。

連れていかれる途中も彼女は私をずっと見ていた。






誰もいなくなった。

私は近くにあった石の上に腰掛け、

空を見上げた。



後はお願いします、と心の中で言った。






それから


長老のおかげで彼女は助かった。

彼女がいなくなったことで国中で大騒ぎとなり

深い落胆と怒りでうずまいていた。それほど彼女は皆から嫌われてしまっていたのだ。

ただ魔力があっただけで



そして数日後、

私は礼を言いに長老の家を訪ねた。


「無事彼女は国を出たよ。君には酷な決断をさせてしまった」

立ったまま、窓からの景色を眺めていた長老はそうつぶやいた。


「いえ、大丈夫です」

テーブルの椅子に座る私はそう答えた。



長老が彼女を助ける方法を教えてくれた時、

最後に言いづらそうに私にこう聞いた。

「君がスパイではないことは彼女には教えず、国から逃がしたいと思うのだが」
 
もしもスパイじゃないことを彼女が知ったら、私のところに戻ろうとするかもしれないのでそれは危険だと、長老はいう。

それに対して私は

うなづいた。

だけど彼女が真実を知ってもし帰ってきても、私は彼女に会わせる顔がないと思った。

彼女に私は助けられた。

なのに私があの日、魔力を使ったせいで

彼女は危険にさらされ、生まれ過ごしたこの国から出ていかなくてはならなくなった。 

それはもう紛れもない事実なのだ。


「確か、魔力判定師になれと国王に言われておったな」

長老は私のほうに顔を向けた。

「はい、魔力を持ってると疑われる人が見つかれば、王宮に呼ばれ、その人の魔力判定をさせられます」

「……そうか」

「私のせいで誰かが殺される。それは絶対避けたいのですが、家族には軍の見張りがついておりますので……」

「だが……きっとそれは大丈夫だろう。彼女の魔力は偉大すぎた」

長老のその言葉の意味を

私はすぐに理解できたので

あえて聞くことはしなかった。


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