その美人、執着系攻めにつき。

月城雪華

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第一部 二章

突然の王宮生活 6 ★

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 その夜、アルトはテーブルの上をじっと見つめていた。

 そこには昼間ルシエラに宛てて書いたばかりの封筒があり、羽が二枚交差している紋章で封がされている。

 これはムーンバレイ家のものらしく、なぜそんなものがあるのかと思ったが少し考えれば検討は着く。

(あらかじめ俺が誰かに宛てて書くのを見越していたみたいな……そんな気がする)

 王家以外の紋章を作ってもいいものなのか、アルトはそこまで詳しくない。

 しかし、少しでも無駄になるかもしれないものを作る意味が分からなかった。

(それくらい金があるってことなんだろうけど、それにしても)

 必要なものを持ってきてくれた時のフィアナの様子があまりにも挙動不審で、少なからず疑問を覚えたのは否めない。

『あ、えっと、こちらです』

『ありがとう』

 アルトに向けて差し出してくれたトレイを持つ手は震えており、声もどこか緊張気味だった。

『じゃ、じゃあ私はこれで……あっ』

 退出しようときびすを返した拍子に脚がもつれたのか、アルトが手を伸ばす間もなく盛大に顔から転けた。

『だ、大丈夫か……!?』

 慌ててアルトがフィアナに手を差し出し、立ち上がらせると不自然なほど目を泳がせていた。

『すみませんすみません、いつもならこんな事絶対にないのに……!』

 フィアナは終始平謝りで、それに疑問を覚えないという方が無理からぬ事だった。

「……おかしい」

 己が鈍感なたちではないと自負している。

 しかしその答え合わせをする相手は現れそうにない、というのも分かっていた。

 アルトのあずかり知らないところで何かが動いている、そんな気がしてならなかった。

「俺に言えない事、ってなると結構絞れるよな。誰に聞くかは別として」

 邸へ帰らせない理由を一番に、少しずつアルトの外堀を埋めていると予想した。

「……結婚、か」

 エルと謁見の間で出会った時のことが思い起こされ、アルトはなんとも言えない気持ちになった。

『貴方が泣いて頷いてくれるまで、分からせるしかないな』

 あの時は絶対に嫌だと思っていたが、今となっては悪くないのではないかと思いつつあった。

 しかし、そもそもエルは王太子なのだ。

 その気になれば見合った王女と結婚もできるのに、同性であってももっといい相手が居るかもしれないのに、己に執着する意味が分からなかった。

「俺よりももっと」

「──もっと、なんだ?」

「……っ!」

 いつの間にかエルが扉の前に立っており、アルトは小さく息を呑む。

「いつから──っ」

 聞いていたんだ、と訊ねるよりも早くエルの顔が眼前に迫る。

「……だ」

「え?」

 至近距離であっても声が小さすぎて何を言ったのか聞き取れず、エルを見つめるしかできない。

「──どういうことだと聞いている」

っ……」

 ぎりりと肩を摑まれ、アルトは苦悶の表情を浮かべる。

 苛立ちの募った声音は、紛れもないエルから発されたものだ。

 しかしそれ以上に何を言っているのか、アルトには分からなかった。

 ここはエルの寝室のため、ノックもせずに入ってくるのは仕方ない。

 けれど問い詰められている理由に心当たりはまったく無く、どう言ったものか頭を働かせても上手い言葉は出てこなかった。

「な、にが……?」

 アルトは当たり障りのない言葉を紡ぐだけで精一杯で、それ以上に摑まれている肩が痛い。

 いつになく険しい顔色も、普段ならば絶対に有り得ない強引さにさえ、アルトは瞬き一つできない。

「とぼけるな。──ソルライトの人間に手紙を出そうとしてる、とフィアナから聞いてるんだ」

「っ……!」

「あそこの人間は、悪い噂しか聞かない。よもや貴方と繋がっていたとは……」

 エルの眉間の皺が深くなる。

 それでも尚美しい顔立ちは何かを懸命に堪えているような、そんな表情だ。

「ま、待てよ! そんな、ルシエラはそんなんじゃ」

 有り得ない。

 実際、ルシエラとはまだ出会って間もないと言ってもいい。

 しかし『アルト』との付き合いとなると話は違い、こちらに対する気安さを見るにルシエラは悪い人間ではない。

 そう、アルトは信じたかった。

「ルシエラというのか、送ろうとした相手は」

「っ」

 まずい、と思った時にはアルトの身体は浮遊感に襲われていた。

 ベッドに丁重に下ろされたかと思えば、すぐにエルが乗り上げてくる。

 腰の位置に跨られ、アルトは身動き一つできない。

「そういうやからから、本当は俺が守ってやらないといけないのに」

 ふとエルの声音が低く、いやに冷たく響いた。

「──貴方は隠すんだね」

(また……?)

 これで隠し事は二度目のような口振りだ。

「っ、何を」

 訊ねようとした声は、そこから言葉になる事はなかった。

 エルの口角がゆっくりと上がり、服の上から手の平が這う。

 腹を撫で上げたかと思えば、アルトの反応を見るように胸を辿った。

「エ、ル……?」

 こちらを見下ろす瞳は氷のように冷たく、感情は読み取れない。

 それでも手つきは優しくて、アルトは目を白黒させるしかできなかった。

「……困るのは貴方なのに、俺の言うことも無視して」

 本当に困った子、とエルはまるで幼子に語り掛けるように呟く。

 瞬間、ぞくりとした恐怖が背中に走った。

 今までとは違う声音に、アルトの本能が『逃げろ』と警鐘を鳴らす。

 しかし、頭では分かっていても身体は言うことを聞いてくれなかった。

 そんなアルトのことを分かっているのか、エルの指先が鎖骨から首筋を辿り、耳に触れる。

「悪い子には──ちゃんと良い子になってもらわないと」

 低い声音が直接鼓膜に響き、それだけでくらりと目眩がした。

 エルの唇が耳を食み、形をなぞるようにゆっくりと動く。

 時折舌で舐められ、耳の中に入って来ようとする。

「ひ、っ……」

 あえかな喘ぎを漏らしそうになり、アルトは無意識に腕で口元を抑えた。

「駄目だよ、アルト」

 それに目敏めざとく気付いたエルに腕を摑まれる。

 そう力を込められていないのに、アルトは抵抗できなかった。

「貴方が声を出さなかったら……苦しいだけだ」

「……え」

 ぽそりと呟かれた言葉の意味を理解するよりも早く、エルが薄く微笑むのが見えた。

 二度三度と瞬いた時にはエルの顔が視界いっぱいに広がり、唇を重ね合わされる。

 それは強引で、しかしどこか優しいキスにアルトは目を見開く。

「っ、ん……ぁ」

 早急に歯列を割って舌先が入り込み、口腔をあますことなく舐め尽くされた。

 時折上顎を掠めるように舐められ、ぞくりとした愉悦が腰の奥に溜まる。

 怯えて縮こまるアルトの舌を誘い出し、吸い上げては甘く噛んでを交互に繰り返す。

 ちゅくちゅくと粘膜が擦れる音が耳に響き、何も考えられなくなった。

 無意識にエルの腕を摑むと、安心させるように頭を撫でられる。

 まるで壊れ物を扱うような手つきにアルトの胸に甘い疼きが湧き起こり、それは瞬く間に身体中に広がった。

 ほどなくして唇を解かれ、首筋に舌を這わされる。

 熱くぬめる舌先はゆっくりと鎖骨を通り、その中心に甘い痛みが走った。

「ん、んぅ……?」

 ふと胸元に冷気を感じ、アルトは薄く目を開く。

 見ればいつの間にかシャツのボタンをすべて外されており、アルトの上半身が露わになっていた。

「な……」

 次第に顔が熱くなるのが分かる。

 しかしエルはそんなアルトにお構いなしに、胸に顔をうずめた。

「や、あぁ……!」

 熱い舌がほんのりと赤くなった果実に吸い付き、強弱をつけて弄られる。

 軽く歯を立てられ、緩慢な動きで乳首を舐めしゃぶった。

 反対側も忘れていないというように、エルはもう片方に顔を近付ける。

 けれど、エルは唇が触れるか触れないかの距離で止まり、そっとアルトを見つめる。

 やや上目遣いになったエルは、どこか妖しい色香をまとわせていた。

「貴方はどうしてほしい……?」

 ゆっくりと唾液に濡れた唇が動き、弧を描く。

 アルトの口から言わせたいとでも言うのか、エルはじっとアルトからの言葉を待っていた。

「え、あ……」

 かたかたと唇が震え、しかし身体は意志とは裏腹に『舐めて欲しい』と言っていた。

「アルト」

 頬にエルの大きな手が触れ、囁く。

「このまま止めてもいいんだよ」

「っ」

 それは『お預け』を食らうということで、いつかの二の舞と同じだった。

 快楽をすんでのところで止められる事がどんなに苦しく惨めか、きっとエルは分かってやっている。

 アルトの反応を楽しむように頬を、首筋を、頭を撫でた。

「どうしてほしいか言ってごらん」

 歌うようにエルが囁き、柔らかく微笑んだ。

 それは悪魔の笑みにも等しく、アルトはぎゅっと瞼をきつく閉じる。

「……ほしい」

「うん?」

 もう一回言って、とエルはアルトの口元に耳を近付ける。

 分かっていて言わせてくる男を恨めしく思う反面、これから与えられる快楽に期待しているのか、雄からじわりと透明な雫が伝った。

「舐めて、俺の……」

 アルトが最後の言葉を言い終わるよりも早く、エルは菓子を食べるように乳首にむしゃぶりついた。

「あ、あぁぁぁ……!」

 待ち望んだ快感にアルトは脇目も振らず喘ぐ。

 乳暈にゅううんごと吸われ、鋭い快感がアルトの頭を支配した。

 反対側の乳首は指先で軽く引っ掻くように、時折引っ張られて弄ばれては堪らない。

 両方から違う快楽を同時に与えられ、これでおかしくならない方が無理な話だった。

「ひ、っあ……や、待って。エル、待っ……!」

 エルの頭を抑え込もうとするが、すぐに止まってはくれない。

 強く乳頭を吸われ、痛いほどの悦楽がアルトの脳内に湧き上がる。

 瞬間、目の前が白く染まると同時に、下着が熱く濡れた気配がした。

「っ、……ぁ」

 どくどくと心臓が早鐘を打つ。

 胸だけで達してしまうなど、何にも変え難い屈辱だった。

 泣きたくなるほどの羞恥心に駆られ、アルトは何も考えられない。

「……アルト」

 エルが名を呼ぶ気配に、アルトは顔を隠して弱々しく首を振る。

「や、……俺、なんで」

 唇が上手く動かない。

 夢かと疑いたくなる紛れもない現実に、アルトは消えてしまいたくなった。

 今はエルの顔を見れそうもない。

「──少しいじめたらもう出しちゃって。……これじゃあご褒美、になるのかな」

「……っ」

 その言葉の意味がなんなのか分からないほど、アルトとて疎くはない。

 それでも自分に起きてしまった事は取り消せず、手の平の下でアルトは唇を噛み締めた。

(二回も、エルに……。最悪、だ)

 顔から火が出そうなほどの羞恥に、段々とアルトの視界が潤む。

 またこの男に慰められてしまった罪悪感に加え、どうして自分はこうも流されてしまうのか。

 頭では駄目だと分かっていても、エルの手技がそうさせるのか、アルトはされるがままになるしかできないのだ。

 あまりにも甘美な快楽を一度でも覚えてしまったためか、もっともっとと身体が欲してしまう。

 それは自分の意思でも止められず、このままではアルトは壊れてしまう気がした。

「──まぁ、俺もそろそろ人の事は言えないんだけど」

 エルはそう呟くとアルトの手を取り、何かに触れさせる。

 触れたものは手の平よりも熱く、時折どくんと力強く脈打っていた。

「……っ!」

 それが何か分かった瞬間ぶわりと顔の熱が引いていき、涙も引っ込む。

 代わりに背筋を冷たい汗がいくつも伝った。

「分かる……? 今からこれが貴方の中に入るんだよ」

 くすりと微笑んだエルは官能的で、けれど確かな雄としての本能を漂わせている。
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