【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
47 / 91
四章 夏本番、近付く距離

4‐06 傷付くのは俺だけでいい

しおりを挟む
 一度トイレへ寄って口をゆすぐと、龍冴は昇降口へ向けて足早に廊下を歩いていた。

(やべぇ、絶対待たせまくってる!)

 雅玖には後でメッセージを送ると言い、永睦と仁には試験が終わってからしっかりと灸を据えると言い残した。

『お、お手柔らかにお願いします……』

『ちょっと言っただけじゃん? けどまさか他の子達に言うとは思わなくてさぁ』

 永睦はその場で土下座でもする勢いで許しを乞い、仁に至っては自分のした事から完全に開き直っていた。

 互いに良いところも悪いところもあるが、今回ばかりは相手が悪くて中学の頃とは勝手が違うと思う。

 永睦が噂好きなのは今に始まった事ではないが、あまり首を突っ込み過ぎると逆に災難が降りかかりそうなのだ。

 現に永睦が椰一の噂を話した日から返信がなくなり、この二週間で完全に見限られたと言っても過言ではないだろう。

 けれど近いうちに椰一から何かしらの反応があるとして、周囲の友人らに関わろうとするのは避けたい。

(俺には嫌がらせでもなんでもしていいのに)

 自分一人が傷付いて友人らの平穏を守れるのならば、易いものだ。

 しかし、友人の一人である──個性の強い友人らに埋もれているだけなのだが──羚架に手を出しそうになっているとあれば、また話は変わってくる。

 羚架は傍目から見ても可愛らしくて、同性でも守ってあげたくなる部類だった。

 本人は『この容姿で居て嫌な時期があった』と言っていたためか、親近感が湧いたというのもある。

 もっとも、羚架の場合は同性が中心だったらしく、中でも屈強な者が多かったらしい。

 女のような容姿が庇護欲を擽るのか、はたまた寄ってくる相手に変な趣味があるのか分からないが、苦労したのだという。

 けれどその中の一人である男と最近まで付き合っていたようで、酷い暴力を受けていたらしい。

 ただし、これは高校に入学する前の、ごく短い期間の出来事だったようだ。

 羚架とあまり話した事がないのは否めないが、未だに同性であっても鍛えていたり高身長の人間に対して苦手意識があるようだ。

 他のクラスに友人は居るようだが、休み時間に誰かと話しているのはあまり見なかった。

 むしろ授業が終われば、そそくさと帰っているのが常なように思う。

「頼ってくれるのは嬉しいけど」

 龍冴はぽつりと誰にともなく呟く。

 ほとんど羚架の人間関係について知らないものの、まさか椰一が距離を詰めようとしているとは思わなかった。

「……胃が痛ぇ」

 キリキリと胃が痛むのはつい先程まで吐き気があったからか、もしくは周囲から不穏な気配を感じ始めているからか。

 考えるたびに胃の奥が気持ち悪く、ともすれば胸が痛む。

 けれど大和を待たせているとあっては、己の体調や考え事など二の次になってしまうから不思議な気持ちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートなど、本当にありがとうございます! ひとつひとつが心から嬉しいです( ; ; ) ✩友人たちからドライと言われる攻め(でも受けにはべったり) × 顔がコンプレックスで前髪で隠す受け✩ スカウトをきっかけに、KEYという芸名でモデルをしている高校生の望月希色。華やかな仕事だが実は顔がコンプレックス。学校では前髪で顔を隠し、仕事のこともバレることなく過ごしている。 そんな希色の癒しはコーヒーショップに行くこと。そこで働く男性店員に憧れを抱き、密かに推している。 高二になった春。新しい教室に行くと、隣の席になんと推し店員がやってきた。客だとは明かせないまま彼と友達になり――

処理中です...