【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
75 / 91
六章 本当の終わりと始まり

6‐05 近付くな

しおりを挟む
(……それ、って)

 大和の声が一つ一つ耳に入り、そして絶句した。

 椰一のよくない噂や部活内でも好き勝手していた話を聞いてはいたが、生々しい出来事を聞いたのはこれが初めてだ。

 大和がちらりとこちらを見て、視線だけで『ごめんな』と言っているのを感じ取った。

 何も大和が龍冴の代わりに怒る必要など無いというのに、仮にも付き合っていた恋人の前で言うには気が引けたのかもしれない。

 その優しさが今ばかりは申し訳なくて、なのに『もっと言ってやって欲しい』『もっと怒りを引き出して欲しい』と思うのは、心から椰一を嫌っていて、幻滅しているからだ。

 椰一にとって、龍冴が泣くか怒るかすれば『自分は必要とされている、嫌われていない』と思えるのだろう。

 むろん、どんな心理で言っているのかは知りたくもないが、この男が憐れだと再確認した。

(やっぱりアンタは可哀想な奴だよ)

 好意を抱いてもらう過程がどうあれ、最終的に見限って捨てるのであれば、何もかもが堂々巡りになる。

 その事を分かっているのかいないのか、もしくは大和の言葉は真実なのか、椰一は何も反論しなかった。

 やがて大和は椰一に視線を戻すと、龍冴に向けていたものとは比べ物にならない鋭利な瞳を向ける。

「男も女も取っ替え引っ替えしてる奴が、雨宮の前であることないことけなして、また傷付けるようなこと言って……馬鹿じゃねぇの」

 腹の底から吐き捨てるような投げやりな口調は、紛れもない本音なのだろう。

 傍に居るからか、大和の内なる怒りを否が応でも感じてしまう。

「雨宮がそんな都合よく許すと思ったら、楽なもんはないよな。まぁ、俺が許さねぇけど」

 そこで大和は言葉を切ると、ゆっくりとした声で言った。

「後輩としてじゃない、一人の人間としてアンタに言う。もう雨宮を……龍冴を傷付けるな」

「っ……!」

 周囲の機械音や話し声が聞こえなくなるほど、はっきりとした声だった。

 無意識に傍に立っている大和の顔を見上げれば、どこまでも真剣な横顔が視界に入る。

 龍冴の名を呼んだことに気付いていないのか、大和はそろりと目を伏せて続けた。

「連絡先……は、消してるんだっけ。じゃあ話し掛けるのも、顔見せるのも、金輪際止めろ。もしもう一回、俺が居る前で出てきたら」

「先輩」

 尚も言葉を重ねようとする大和を遮る形で、龍冴はそっとシャツの裾を摑む。

「もういいです。……もう」

 そう言うだけで精一杯なのは、大和の言葉の意図を理解したのはもちろん、これ以上椰一を追い詰めないで欲しいと思ったからだ。

 擁護ようごするつもりは毛頭無いが、あと一言二言重ねれば取り返しがつかない事態になる、そう思った。

 大和はこちらの意図を汲んでくれたのか、しかし何を思ったか、一度唇を引き結ぶとぐいと手首を引き寄せられる。

「っ、先輩……!?」

 力強い手に、踏み出そうとする脚に、龍冴は半ば引き摺られる形で大和の後を着いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小石の恋

キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。 助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。 なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。 果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。/小説家になろう様でも公開しております。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...