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2呪 怪しい美人呪術師
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吉原。
江戸時代に幕府の公認遊郭として栄え、今では浅草千束の三丁目と四丁目と改められ消された地名の一つであり、江戸の名残として今尚日本人に通じる日本有数のソープ街だ。
夕方の吉原は客引きとスカウトの嵐だ。
少年少女以外の男女がそこを通れば年齢問わずそこで被害……もしくは客や人材として入り、男女の欲を満たす場である。
そんな吉原でも当然住宅はある。
四丁目の小さな旧遊郭の達筆な字で『屋飴楼太金』と横書きの看板が二階付近の外壁に飾ってあった家に京次は引き戸を引いて入って行った。
中は遊郭だった土間の内装を住宅向けに改築されているが、純和風で歴史を感じさせる様な素晴らしい出来だった。
また、靴を入れる戸棚の上には遊郭時代で飾られてあった年代物の鶴と亀が描かれた花瓶が置かれており、それに見合わない薔薇の造花が数輪差してあった。
鈍感でなければ察すると思うが、こここそが京次の家である。
「たでェまァ~」と下品な言葉遣いで母親に帰りを報告する京次はふと土間に置いてある履き物を見て疑問を抱く。
(偉ェ小綺麗な靴と小せェ靴だなァ。京一の野郎は委員会やってっから居ねェ筈なんだが……物取りなら土足で来るしなァ)
土間に置かれた靴は下ろしたてのアメリカ製のバスケットシューズと23.5センチの男物としてはやや小さい濃い茶色のローファーだった。
この小さなローファーについては京次は心当たりのある人物がすぐに思い浮かんだが、このバスケットシューズに関しては誰かもが分からなかった。
「はァ」と小さな溜息を京次はすると、土間から居間へとゆっくり移動し、その戸を力強く引き開けた。
「やっぱお前ェか。馬琴」
「でっけェ音出すなよ。びっくりして飯溢しちまうだろ」
そこに胡座をかいて居座っていたのは可愛らしい下睫毛が特徴的なハッキリとした二重で、まるで紅玉をそのまま眼窩に嵌め込んだ様に澄んだ瞳と、艶のある黒髪の前髪を軽く掻き上げた中性的な見た目をした学ランを羽織った美少年……伊達馬琴だった。
眼窩に丸いアスファルトの様な輝きが無い瞳、ボサボサの鳶色の髪、だらし無く着崩した学ランを着た野暮ったい見た目の京次とは偉い違いである。
「何だ……? 誰かが俺を唐突に馬鹿にした気がする……」
「くっちゃべてねェでさっさと食えよ。お前ェの母ちゃんが作ってくれた飯だぜ? 魚の身が硬くなんぞ」
「いやここ俺ん家だぞ」と言いながら京次はドンッと大きな音を立て、馬琴の反対側のちゃぶ台に座った。
嘉永6年の頃に出来たこの居間の2つの欄間には、荒々しいく表現された八岐大蛇の討伐とおどろおどろしい大百足の討伐の英雄譚が彫られており、外見では把握出来ない繊細な当時の匠の技術が集結された内装だ。
そして、件の質問を馬琴に問いかける。
「おう馬琴、土間に謎の靴が置いてあったんだけどよう。他に誰か来てんのかィ?」
「あ? ありゃ俺んのだよ」
普通ならおかしな話である。
すかさず京次はツービートのビートきよしが如く速度で疑問を投げる。
「な訳ゃねェだろ。お前ェの蟻みてェな足じゃァブカブカで履けねェだろうが」
「だから本当に俺のなんだって」
「じゃァどこで買ったんでィ?」
「その質問を待ってました!」と言わんばかりに被せ気味で馬琴は返答した。
「貰ったんでィ」
「……あ?」
「神奈川の藤沢ってとこだったか? 修学旅行で浅草に来てたみてェでよう。ガン付けて来やがったから気に入らねェんでブッ飛ばしたんだよ。んで、あいつ等の総番が高そうな靴持ってやがったモンだから仲直りの印に貰ったんだよ! いやァ~! 田舎者ってのは心と懐がデカくて良いねィ‼︎」
武勇伝を語る豪傑が如く、馬琴はそう京次に自慢すると美貌に良く似合う可愛い笑顔を作りながらポケットから馬琴の趣味ではなさそうな全面に鋲が埋め込まれた長財布を取り出し見せびらかした。
お分かり頂けただろうか?
歴史上最速のエ○マックス狩りと強盗である。
「ばっ……馬鹿野郎! 何でその事を俺に言わねェんだ! んで、その田舎者はどこでィ?」
「不忍池の方に行ったぜィ」
「おかのした!」
そう言うと京次はすぐに件の田舎者を追おうと不忍池に向かう為、廊下に飛び出ようとした。
しかし、そんな蛮行を見過ごす程ここの家の番人は優しくはない。
「そんな事やりに行くんじゃなくて……ご飯食べな! ご・は・んッッ‼︎」
引き戸を開けた瞬間、京次の母がご飯を盛った茶碗を京次の目の前に差し出し進行を阻んだ。
「止めるな母ちゃん! 飯より田舎者にヤキ入れんのが先だ! シティーボーイの俺達を舐めてる奴にゃァ詫びを入れさせねェといけねェ‼︎」
下町の男達が面子や体裁を気にする事を棚に上げ、京次は誰がどうみてもバレバレの嘘を言い放った。
だが、次の母の言葉を聞いて京次は憤慨する事となる。
「何がシティーボーイだい! どっちかっつーとあんたの方が田舎者じゃないかい‼︎ そんな馬鹿やる前にご飯食べな! じゃないと、あたいみたいな良い嫁さん捕まえれる良い男にゃなれないよ‼︎」
京次の母の容姿は客観的に見ても醜くない。
むしろ美人の域である。
馬琴と同様に二重でパッチリとした目を持ち、鼻はやや高く、色っぽい唇は世の男性を二度見させる程だ。
では、京次は何に怒ったのか?
田舎者と呼ばれた事であろうか?
シティーボーイでないと言われたからだろうか?
答えは更に後の言葉である。
「何が良い嫁でェ……? 町中に親父の再婚相手は21歳とか風潮してる奴がどこが良い嫁でィ! つーか今年で36だろ‼︎ 何なら、最初から親父と結婚して俺達を産んだだろうがィ‼︎」
80年代はバブル真っ只中の年である。
ホワイトカラーやブルーカラーの職問わず、働けば働く程稼げる時代ではあったが江戸の頃から飴細工職人を続けて来た田造家にとってはあまり良い影響は来なかった。
したがって、集客の為に吉原で芸妓をやっていた京次の母の経歴を少~し改竄し、集客に努めたのだ。
そのお陰か、新作の『惑星飴細工』や『富嶽三十六景飴細工』が飛ぶ様に売れ、何とかバブルの波に乗る事が出来た。
「良い女でしょうよ! 現にこうやって食べるモンを苦労せずに食べれるようになってんだから!」
「そのデッケェ尾鰭を引き摺って町中に広がるから問題だっつってんだよ‼︎ そんなんやってっから客に色目付けられんだよッ‼︎」
「何だってェ⁉︎」
「……まーた始まったよ」
馬琴と京次は小学校に入る前からの親友であり、それぞれの家でご飯をよばれる事もある程の仲だ。
少し小馬鹿にするかの様に喧嘩する二人の光景を見て食事を再開しようとした。
「……良いなァ。京次って」
馬琴がポツリと小言を言ったその時——。
「——ごめん下さ~い!」
ギャーギャーと怪獣の様に喧嘩をしている居間に、突如一人の女性が現れた。
特筆すべきは日本人離れした身長と僧には不釣り合いなその胸である。
身長は180……いや、190センチはあるだろう。
居間に入る際、体を屈み「狭いお家ね~」と呟いたのだが、一切母は反応出来なかった。
そして、胸は服の上からでも大きさがはっきりと分かる程の大きさであり、贈答用のメロンの様な大きさである。
また、女性は腰まである長髪を茶色い瞳とは不釣り合いな程目がチカチカする程の赤色で染色しており、何故か五条袈裟を着ているのにも関わらずその上にピンク色の梅の花が大量に描かれた白地の着物を羽織っていた。
文字通り、お洒落化け物の襲撃により居間の室温が体感5度ぐらい下がったように思えた……が。
「……お姉さんだ!」
京次の母と馬琴がドン引きしている中、京次はその女性を引くばかりかむしろ惚れており、電話番号を聞く為に左ポケットから人差し指程の長さの鉛筆とメモ帳を取り出した。
この行為を見た京次の母は一瞬で正気に戻り、すぐに彼女の応対をした。
「あ、すみません今日はもう終わりなんですよ~」
「いえいえお母様! 今日は飴を買いに来たんじゃなくて……彼に会いに来たんです……!」
そう女は言うと右人差し指を京次の方に指し、不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「初めまして、京ちゃん! 私は蘆屋家の分家である九字家28代目当主の天才的な大呪術師こと九字萩火で~す‼︎ よろしくね‼︎」
そう言うと彼女……萩火は京次に近付き、襟から名刺を取り出し「はい!」と京次に渡した。
それにはさっき言っていた身分がそのまま記載されており誰が見ても胡散臭さしか感じない。
しかし、京次の頭の中は——。
(おおおおおっぱいから出てきた温かい良い匂い美人でお姉さんんん——……)
萩火のボインな胸元のみにしか思考を向けていなかった。
鼻の下の人中(鼻と口に繋がる溝)で素麺ぐらいなら流せそうな長さまで伸ばし、完全に上の空だった。
「助平餓鬼みてェに鼻の下伸ばしてんじゃねェ!」
そう言うと馬琴はその場から立ち上がり、155センチの身長とは思えない脚の長さの左足裏で直立している172センチの身長を持つ京次の後頭部を大きく揺らす様に前蹴りした。
ぐわんぐわんと首振り人形の様に揺れた京次であったが今度は鼻血を出し始めた。
無論、萩火の胸元による出血だ。
そして、彼女の手を真綿を触れる様に優しく両手で触れ二枚目俳優の様なキメ顔を決めながらこう言った。
「萩火さん、もしかしてですが今見える蠍座が僕と貴女を赤い糸で結び、導いてくれたのでしょう。貴女のお気持ちは十分に察しました。こんな狭い家ですが、奥で9人ぐらい子供が出来るよう布団の上で会議しましょう」
ドセクハラである。
当然、馬琴と母は箒と麺棒を持って袋叩きを開始した。
「あんたって子は! どーしてこうも女を不快にさせる事しか言えないんだい⁉︎」
「お前ェはちったァロクな事ァ言えねェのかィ! お前ェがダチで恥ずかしいやィ‼︎」
「お前ェ等! ちったァ加減しろ加減をォ‼︎」
「え、今四月で18時頃よね? 蠍座なんて見えたかしら……?」
この三人のドリフ顔負けの行動速度を萩火は一切動じず、下らない京次の口説き文句のどうでもいい粗に疑問を感じ眉を顰めた。
「ま、どーでも良いわ~! 京ちゃん、貴方って結構モテるでしょ?」
(デートのお誘いか——⁉︎)
ボコボコに殴られ鬼饅頭の様になっていた京次の顔面は、萩火の言葉を聞いた一瞬で元に戻り二枚目モードの継続を開始した。
「自慢じゃないですがね、結構女性には人気があるようなんですよ。でもですね、貴女の様な美しく嫋やかな女性には何故か嫌われるのですよ……それはそうと、お姉さん住所とか電話番号とかを——」
「自重しろィベラボウがよ」
ナンパ行為に独走し続ける京次を止めるかの様に、馬琴は前蹴りを背中に入れた。
「お誘いのところ悪いんだけど私はね、貴方って言うよりはね……」
そう言うと、萩火は自身の唇を軽く舐り京次の首筋を絹を扱うが如く指し示していた右人差し指で優しくなぞり、これまた彼の唇を同様の優しさで触れた。
萩火の頬はセロイド人形の様に赤らませていた。
そして、彼女は恥じらう様に上目遣いをしながらこう言った。
「貴方の体が望みなの……!」
江戸時代に幕府の公認遊郭として栄え、今では浅草千束の三丁目と四丁目と改められ消された地名の一つであり、江戸の名残として今尚日本人に通じる日本有数のソープ街だ。
夕方の吉原は客引きとスカウトの嵐だ。
少年少女以外の男女がそこを通れば年齢問わずそこで被害……もしくは客や人材として入り、男女の欲を満たす場である。
そんな吉原でも当然住宅はある。
四丁目の小さな旧遊郭の達筆な字で『屋飴楼太金』と横書きの看板が二階付近の外壁に飾ってあった家に京次は引き戸を引いて入って行った。
中は遊郭だった土間の内装を住宅向けに改築されているが、純和風で歴史を感じさせる様な素晴らしい出来だった。
また、靴を入れる戸棚の上には遊郭時代で飾られてあった年代物の鶴と亀が描かれた花瓶が置かれており、それに見合わない薔薇の造花が数輪差してあった。
鈍感でなければ察すると思うが、こここそが京次の家である。
「たでェまァ~」と下品な言葉遣いで母親に帰りを報告する京次はふと土間に置いてある履き物を見て疑問を抱く。
(偉ェ小綺麗な靴と小せェ靴だなァ。京一の野郎は委員会やってっから居ねェ筈なんだが……物取りなら土足で来るしなァ)
土間に置かれた靴は下ろしたてのアメリカ製のバスケットシューズと23.5センチの男物としてはやや小さい濃い茶色のローファーだった。
この小さなローファーについては京次は心当たりのある人物がすぐに思い浮かんだが、このバスケットシューズに関しては誰かもが分からなかった。
「はァ」と小さな溜息を京次はすると、土間から居間へとゆっくり移動し、その戸を力強く引き開けた。
「やっぱお前ェか。馬琴」
「でっけェ音出すなよ。びっくりして飯溢しちまうだろ」
そこに胡座をかいて居座っていたのは可愛らしい下睫毛が特徴的なハッキリとした二重で、まるで紅玉をそのまま眼窩に嵌め込んだ様に澄んだ瞳と、艶のある黒髪の前髪を軽く掻き上げた中性的な見た目をした学ランを羽織った美少年……伊達馬琴だった。
眼窩に丸いアスファルトの様な輝きが無い瞳、ボサボサの鳶色の髪、だらし無く着崩した学ランを着た野暮ったい見た目の京次とは偉い違いである。
「何だ……? 誰かが俺を唐突に馬鹿にした気がする……」
「くっちゃべてねェでさっさと食えよ。お前ェの母ちゃんが作ってくれた飯だぜ? 魚の身が硬くなんぞ」
「いやここ俺ん家だぞ」と言いながら京次はドンッと大きな音を立て、馬琴の反対側のちゃぶ台に座った。
嘉永6年の頃に出来たこの居間の2つの欄間には、荒々しいく表現された八岐大蛇の討伐とおどろおどろしい大百足の討伐の英雄譚が彫られており、外見では把握出来ない繊細な当時の匠の技術が集結された内装だ。
そして、件の質問を馬琴に問いかける。
「おう馬琴、土間に謎の靴が置いてあったんだけどよう。他に誰か来てんのかィ?」
「あ? ありゃ俺んのだよ」
普通ならおかしな話である。
すかさず京次はツービートのビートきよしが如く速度で疑問を投げる。
「な訳ゃねェだろ。お前ェの蟻みてェな足じゃァブカブカで履けねェだろうが」
「だから本当に俺のなんだって」
「じゃァどこで買ったんでィ?」
「その質問を待ってました!」と言わんばかりに被せ気味で馬琴は返答した。
「貰ったんでィ」
「……あ?」
「神奈川の藤沢ってとこだったか? 修学旅行で浅草に来てたみてェでよう。ガン付けて来やがったから気に入らねェんでブッ飛ばしたんだよ。んで、あいつ等の総番が高そうな靴持ってやがったモンだから仲直りの印に貰ったんだよ! いやァ~! 田舎者ってのは心と懐がデカくて良いねィ‼︎」
武勇伝を語る豪傑が如く、馬琴はそう京次に自慢すると美貌に良く似合う可愛い笑顔を作りながらポケットから馬琴の趣味ではなさそうな全面に鋲が埋め込まれた長財布を取り出し見せびらかした。
お分かり頂けただろうか?
歴史上最速のエ○マックス狩りと強盗である。
「ばっ……馬鹿野郎! 何でその事を俺に言わねェんだ! んで、その田舎者はどこでィ?」
「不忍池の方に行ったぜィ」
「おかのした!」
そう言うと京次はすぐに件の田舎者を追おうと不忍池に向かう為、廊下に飛び出ようとした。
しかし、そんな蛮行を見過ごす程ここの家の番人は優しくはない。
「そんな事やりに行くんじゃなくて……ご飯食べな! ご・は・んッッ‼︎」
引き戸を開けた瞬間、京次の母がご飯を盛った茶碗を京次の目の前に差し出し進行を阻んだ。
「止めるな母ちゃん! 飯より田舎者にヤキ入れんのが先だ! シティーボーイの俺達を舐めてる奴にゃァ詫びを入れさせねェといけねェ‼︎」
下町の男達が面子や体裁を気にする事を棚に上げ、京次は誰がどうみてもバレバレの嘘を言い放った。
だが、次の母の言葉を聞いて京次は憤慨する事となる。
「何がシティーボーイだい! どっちかっつーとあんたの方が田舎者じゃないかい‼︎ そんな馬鹿やる前にご飯食べな! じゃないと、あたいみたいな良い嫁さん捕まえれる良い男にゃなれないよ‼︎」
京次の母の容姿は客観的に見ても醜くない。
むしろ美人の域である。
馬琴と同様に二重でパッチリとした目を持ち、鼻はやや高く、色っぽい唇は世の男性を二度見させる程だ。
では、京次は何に怒ったのか?
田舎者と呼ばれた事であろうか?
シティーボーイでないと言われたからだろうか?
答えは更に後の言葉である。
「何が良い嫁でェ……? 町中に親父の再婚相手は21歳とか風潮してる奴がどこが良い嫁でィ! つーか今年で36だろ‼︎ 何なら、最初から親父と結婚して俺達を産んだだろうがィ‼︎」
80年代はバブル真っ只中の年である。
ホワイトカラーやブルーカラーの職問わず、働けば働く程稼げる時代ではあったが江戸の頃から飴細工職人を続けて来た田造家にとってはあまり良い影響は来なかった。
したがって、集客の為に吉原で芸妓をやっていた京次の母の経歴を少~し改竄し、集客に努めたのだ。
そのお陰か、新作の『惑星飴細工』や『富嶽三十六景飴細工』が飛ぶ様に売れ、何とかバブルの波に乗る事が出来た。
「良い女でしょうよ! 現にこうやって食べるモンを苦労せずに食べれるようになってんだから!」
「そのデッケェ尾鰭を引き摺って町中に広がるから問題だっつってんだよ‼︎ そんなんやってっから客に色目付けられんだよッ‼︎」
「何だってェ⁉︎」
「……まーた始まったよ」
馬琴と京次は小学校に入る前からの親友であり、それぞれの家でご飯をよばれる事もある程の仲だ。
少し小馬鹿にするかの様に喧嘩する二人の光景を見て食事を再開しようとした。
「……良いなァ。京次って」
馬琴がポツリと小言を言ったその時——。
「——ごめん下さ~い!」
ギャーギャーと怪獣の様に喧嘩をしている居間に、突如一人の女性が現れた。
特筆すべきは日本人離れした身長と僧には不釣り合いなその胸である。
身長は180……いや、190センチはあるだろう。
居間に入る際、体を屈み「狭いお家ね~」と呟いたのだが、一切母は反応出来なかった。
そして、胸は服の上からでも大きさがはっきりと分かる程の大きさであり、贈答用のメロンの様な大きさである。
また、女性は腰まである長髪を茶色い瞳とは不釣り合いな程目がチカチカする程の赤色で染色しており、何故か五条袈裟を着ているのにも関わらずその上にピンク色の梅の花が大量に描かれた白地の着物を羽織っていた。
文字通り、お洒落化け物の襲撃により居間の室温が体感5度ぐらい下がったように思えた……が。
「……お姉さんだ!」
京次の母と馬琴がドン引きしている中、京次はその女性を引くばかりかむしろ惚れており、電話番号を聞く為に左ポケットから人差し指程の長さの鉛筆とメモ帳を取り出した。
この行為を見た京次の母は一瞬で正気に戻り、すぐに彼女の応対をした。
「あ、すみません今日はもう終わりなんですよ~」
「いえいえお母様! 今日は飴を買いに来たんじゃなくて……彼に会いに来たんです……!」
そう女は言うと右人差し指を京次の方に指し、不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「初めまして、京ちゃん! 私は蘆屋家の分家である九字家28代目当主の天才的な大呪術師こと九字萩火で~す‼︎ よろしくね‼︎」
そう言うと彼女……萩火は京次に近付き、襟から名刺を取り出し「はい!」と京次に渡した。
それにはさっき言っていた身分がそのまま記載されており誰が見ても胡散臭さしか感じない。
しかし、京次の頭の中は——。
(おおおおおっぱいから出てきた温かい良い匂い美人でお姉さんんん——……)
萩火のボインな胸元のみにしか思考を向けていなかった。
鼻の下の人中(鼻と口に繋がる溝)で素麺ぐらいなら流せそうな長さまで伸ばし、完全に上の空だった。
「助平餓鬼みてェに鼻の下伸ばしてんじゃねェ!」
そう言うと馬琴はその場から立ち上がり、155センチの身長とは思えない脚の長さの左足裏で直立している172センチの身長を持つ京次の後頭部を大きく揺らす様に前蹴りした。
ぐわんぐわんと首振り人形の様に揺れた京次であったが今度は鼻血を出し始めた。
無論、萩火の胸元による出血だ。
そして、彼女の手を真綿を触れる様に優しく両手で触れ二枚目俳優の様なキメ顔を決めながらこう言った。
「萩火さん、もしかしてですが今見える蠍座が僕と貴女を赤い糸で結び、導いてくれたのでしょう。貴女のお気持ちは十分に察しました。こんな狭い家ですが、奥で9人ぐらい子供が出来るよう布団の上で会議しましょう」
ドセクハラである。
当然、馬琴と母は箒と麺棒を持って袋叩きを開始した。
「あんたって子は! どーしてこうも女を不快にさせる事しか言えないんだい⁉︎」
「お前ェはちったァロクな事ァ言えねェのかィ! お前ェがダチで恥ずかしいやィ‼︎」
「お前ェ等! ちったァ加減しろ加減をォ‼︎」
「え、今四月で18時頃よね? 蠍座なんて見えたかしら……?」
この三人のドリフ顔負けの行動速度を萩火は一切動じず、下らない京次の口説き文句のどうでもいい粗に疑問を感じ眉を顰めた。
「ま、どーでも良いわ~! 京ちゃん、貴方って結構モテるでしょ?」
(デートのお誘いか——⁉︎)
ボコボコに殴られ鬼饅頭の様になっていた京次の顔面は、萩火の言葉を聞いた一瞬で元に戻り二枚目モードの継続を開始した。
「自慢じゃないですがね、結構女性には人気があるようなんですよ。でもですね、貴女の様な美しく嫋やかな女性には何故か嫌われるのですよ……それはそうと、お姉さん住所とか電話番号とかを——」
「自重しろィベラボウがよ」
ナンパ行為に独走し続ける京次を止めるかの様に、馬琴は前蹴りを背中に入れた。
「お誘いのところ悪いんだけど私はね、貴方って言うよりはね……」
そう言うと、萩火は自身の唇を軽く舐り京次の首筋を絹を扱うが如く指し示していた右人差し指で優しくなぞり、これまた彼の唇を同様の優しさで触れた。
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