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第一幕 父の死
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子供たちに読み聞かせていた童話は、勇者が捕らわれの王女を救うという、ありふれた内容だった。
そういった類いの本が、書棚には何冊か並んでいる。
ふと、本棚の隅に置いてあった、銀色の箱に目をやった。
蛇のような体をくねらせ、双翼を広げ、紅蓮の炎を吐く……美しい赤竜の意匠が施された、細長い箱。
すっと手を伸ばした。
埃を被っている。もう随分、この箱が開けられたところを見ていない。
それでも、ひんやりとした銀の冷気が、箱から伝わってくる。
「何をしている」
不意に声を掛けられて、セカイは箱を落としそうになった。
振り返ると、リベアンが立っていた。
「お帰りなさい、お父様」
「何をしていると聞いたんだ」
リベアンは、深酒のため赤く腫れ上がった目で、セカイを睨みつけた。
「本の整理をしてました」
リベアンの視線に気付いたセカイは、何食わぬ仕草で、銀の箱をもとの位置に戻した。
「言ったはずだ」
セカイが振り向いた瞬間、巨大な手の平が、左の頬を襲った。
乾いた音とともに、セカイの細い体は軽々と飛ばされた。
「赤の竜剣に触れるなとな!」
床に倒れ伏すセカイに、リベアンが怒声を放つ。
「でも、たまには手入れをしないと……」
「黙れ!」
起き上がったセカイの、今度は右の頬に、リベアンの平手が飛んだ。
再び乾いた音。今度は左手で張ったせいか、少し威力が削がれていた。いや、酒のせいで狙いが逸れただけかもしれない。
それでも口のなかで血の味がした。
「ごめんなさい、お父様」
静かに謝罪して、セカイは口中の血を拭う。
そんな娘を、リベアンは忌々しげに睨んでいる。
「……酒だ。早くしろ」
「はい」
二人が部屋を後にする。
おとぎ話と、埃を被った銀色の箱が残される。
そういった類いの本が、書棚には何冊か並んでいる。
ふと、本棚の隅に置いてあった、銀色の箱に目をやった。
蛇のような体をくねらせ、双翼を広げ、紅蓮の炎を吐く……美しい赤竜の意匠が施された、細長い箱。
すっと手を伸ばした。
埃を被っている。もう随分、この箱が開けられたところを見ていない。
それでも、ひんやりとした銀の冷気が、箱から伝わってくる。
「何をしている」
不意に声を掛けられて、セカイは箱を落としそうになった。
振り返ると、リベアンが立っていた。
「お帰りなさい、お父様」
「何をしていると聞いたんだ」
リベアンは、深酒のため赤く腫れ上がった目で、セカイを睨みつけた。
「本の整理をしてました」
リベアンの視線に気付いたセカイは、何食わぬ仕草で、銀の箱をもとの位置に戻した。
「言ったはずだ」
セカイが振り向いた瞬間、巨大な手の平が、左の頬を襲った。
乾いた音とともに、セカイの細い体は軽々と飛ばされた。
「赤の竜剣に触れるなとな!」
床に倒れ伏すセカイに、リベアンが怒声を放つ。
「でも、たまには手入れをしないと……」
「黙れ!」
起き上がったセカイの、今度は右の頬に、リベアンの平手が飛んだ。
再び乾いた音。今度は左手で張ったせいか、少し威力が削がれていた。いや、酒のせいで狙いが逸れただけかもしれない。
それでも口のなかで血の味がした。
「ごめんなさい、お父様」
静かに謝罪して、セカイは口中の血を拭う。
そんな娘を、リベアンは忌々しげに睨んでいる。
「……酒だ。早くしろ」
「はい」
二人が部屋を後にする。
おとぎ話と、埃を被った銀色の箱が残される。
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