竜剣《タルカ》

チゲン

文字の大きさ
13 / 110
第二幕 女たちの饗宴

1頁

しおりを挟む
 きらびやかな白亜はくあの宮殿。
 色とりどりの草花に満ちた、いつわりの庭園。
 それが、最後の魔女モリバラの住処。
 彼女が息を吐くと、全ての生命が息吹を取り戻す。仮初かりそめの息吹を。
 彼女が言葉を紡ぐと、宮殿は輝きに溢れ、鳥は歌い死に、花は咲いて裂かれる。
 彼女が笑うと、まはゆく淀んだ光が満ちる。
 主の帰還を、パレージュは離宮にいても知らざるを得なかった。
「やれやれ」
 出迎えねばなるまい。
 パレージュは重い腰を上げ、ベッドから降りた。
 隣で眠っていた裸身の少女が、名残なごり惜しげに細く白い手を伸ばす。
 その手に口づけをする。
 お茶とおしゃべりにきょうじていた二人の少女が、絹の衣を差しだしてきた。パレージュはそれらに身を包むと、本殿へ向かった。
 本殿の玉座ぎょくざでは、案の定モリバラが彼を待ちあぐねていたようである。
 匂い立つような美女だ。玉座で足を組む仕草は、ひどくなまめかしい。
「お戻りなさいませ、母上」
「ふふ」
 モリバラが含み笑いを浮かべる。
 手のなかで、奇妙な形をした短剣をもてあそんでいる。
 赤い、刀身が波のようにうねった短剣。
「どうじゃ、パレージュ。ついに手に入れたぞ」
「そのようで」
「おまえの言った通りじゃ。リベアンめ、とんだ腑抜ふぬけになっておったわ。たった一度、おまえに負けたくらいでのう」
「おや?」
 パレージュは秀麗しゅうれいな眉をひそめた。
「少々お疲れのようですね。術を使い過ぎたのでは?」
「ん。そうか……」
 珍しく、モリバラが言葉をにごした。
「はしゃぎすぎて、少々疲れたようじゃ」
「それは、ご奇特きとくなことでございます」
 年甲斐もなく、とは付け加えなかった。
「しかし、ご自愛くださいませ。大事な御身なのですから」
「このくらいは造作ぞうさもない。だが愛しい息子の言なら、聞かねばなるまいな」
「恐れ入ります」
 二人は微笑みあうと、一旦、深い口づけを交わした。
「さても、いかにして力を解放させるか」
 モリバラが赤の竜剣タルカに夢中になり始めたので、パレージュは静かに一礼して御前ごぜんを下がった。
 離宮に戻ると、少女がグラスを差しだしてきた。なかの水を半分ほど含み、口をすすいで窓から吐き捨てる。
 残りの半分を口に含むと、グラスを運んできた少女に口移しで飲ませた。
「いかがなされました?」
 唇の端からしずくを垂らしながら、少女が怪訝けげんそうな顔をした。
「少し気になることがな」
「まあ、それは何でしょう」
 口に出そうとして、パレージュは心変わりした。
「そなたのみつが、どんな味だったかと」
 少女の背中に手を回し、紐をほどいた。薄いワンピースは、それだけでするりと床に落ち、少女の白い裸身が露わになった。
 その、さらりとした恥丘に鼻を寄せながら、パレージュは含み笑いを浮かべた。
「主様……」
 少女が身もだえ、小さく声をあげた。
「それは」
「オイタが過ぎますわ」
 二人の少女がやってきて、快感に酔い痴れる少女の体を、左右から抱き止めた。
「さて、赤の竜剣よ。新たな主を誰に定める」
 それがモリバラではないことだけは、パレージュの目には明らかだった。
 舌は、蜜を味わっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...