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第二幕 女たちの饗宴
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煌びやかな白亜の宮殿。
色とりどりの草花に満ちた、偽りの庭園。
それが、最後の魔女モリバラの住処。
彼女が息を吐くと、全ての生命が息吹を取り戻す。仮初の息吹を。
彼女が言葉を紡ぐと、宮殿は輝きに溢れ、鳥は歌い死に、花は咲いて裂かれる。
彼女が笑うと、まはゆく淀んだ光が満ちる。
主の帰還を、パレージュは離宮にいても知らざるを得なかった。
「やれやれ」
出迎えねばなるまい。
パレージュは重い腰を上げ、ベッドから降りた。
隣で眠っていた裸身の少女が、名残惜しげに細く白い手を伸ばす。
その手に口づけをする。
お茶とおしゃべりに興じていた二人の少女が、絹の衣を差しだしてきた。パレージュはそれらに身を包むと、本殿へ向かった。
本殿の玉座では、案の定モリバラが彼を待ちあぐねていたようである。
匂い立つような美女だ。玉座で足を組む仕草は、ひどく艶かしい。
「お戻りなさいませ、母上」
「ふふ」
モリバラが含み笑いを浮かべる。
手のなかで、奇妙な形をした短剣を弄んでいる。
赤い、刀身が波のようにうねった短剣。
「どうじゃ、パレージュ。ついに手に入れたぞ」
「そのようで」
「おまえの言った通りじゃ。リベアンめ、とんだ腑抜けになっておったわ。たった一度、おまえに負けたくらいでのう」
「おや?」
パレージュは秀麗な眉をひそめた。
「少々お疲れのようですね。術を使い過ぎたのでは?」
「ん。そうか……」
珍しく、モリバラが言葉を濁した。
「はしゃぎすぎて、少々疲れたようじゃ」
「それは、ご奇特なことでございます」
年甲斐もなく、とは付け加えなかった。
「しかし、ご自愛くださいませ。大事な御身なのですから」
「このくらいは造作もない。だが愛しい息子の言なら、聞かねばなるまいな」
「恐れ入ります」
二人は微笑みあうと、一旦、深い口づけを交わした。
「さても、いかにして力を解放させるか」
モリバラが赤の竜剣に夢中になり始めたので、パレージュは静かに一礼して御前を下がった。
離宮に戻ると、少女がグラスを差しだしてきた。なかの水を半分ほど含み、口を濯いで窓から吐き捨てる。
残りの半分を口に含むと、グラスを運んできた少女に口移しで飲ませた。
「いかがなされました?」
唇の端から滴を垂らしながら、少女が怪訝そうな顔をした。
「少し気になることがな」
「まあ、それは何でしょう」
口に出そうとして、パレージュは心変わりした。
「そなたの蜜が、どんな味だったかと」
少女の背中に手を回し、紐をほどいた。薄いワンピースは、それだけでするりと床に落ち、少女の白い裸身が露わになった。
その、さらりとした恥丘に鼻を寄せながら、パレージュは含み笑いを浮かべた。
「主様……」
少女が身悶え、小さく声をあげた。
「それは」
「オイタが過ぎますわ」
二人の少女がやってきて、快感に酔い痴れる少女の体を、左右から抱き止めた。
「さて、赤の竜剣よ。新たな主を誰に定める」
それがモリバラではないことだけは、パレージュの目には明らかだった。
舌は、蜜を味わっていた。
色とりどりの草花に満ちた、偽りの庭園。
それが、最後の魔女モリバラの住処。
彼女が息を吐くと、全ての生命が息吹を取り戻す。仮初の息吹を。
彼女が言葉を紡ぐと、宮殿は輝きに溢れ、鳥は歌い死に、花は咲いて裂かれる。
彼女が笑うと、まはゆく淀んだ光が満ちる。
主の帰還を、パレージュは離宮にいても知らざるを得なかった。
「やれやれ」
出迎えねばなるまい。
パレージュは重い腰を上げ、ベッドから降りた。
隣で眠っていた裸身の少女が、名残惜しげに細く白い手を伸ばす。
その手に口づけをする。
お茶とおしゃべりに興じていた二人の少女が、絹の衣を差しだしてきた。パレージュはそれらに身を包むと、本殿へ向かった。
本殿の玉座では、案の定モリバラが彼を待ちあぐねていたようである。
匂い立つような美女だ。玉座で足を組む仕草は、ひどく艶かしい。
「お戻りなさいませ、母上」
「ふふ」
モリバラが含み笑いを浮かべる。
手のなかで、奇妙な形をした短剣を弄んでいる。
赤い、刀身が波のようにうねった短剣。
「どうじゃ、パレージュ。ついに手に入れたぞ」
「そのようで」
「おまえの言った通りじゃ。リベアンめ、とんだ腑抜けになっておったわ。たった一度、おまえに負けたくらいでのう」
「おや?」
パレージュは秀麗な眉をひそめた。
「少々お疲れのようですね。術を使い過ぎたのでは?」
「ん。そうか……」
珍しく、モリバラが言葉を濁した。
「はしゃぎすぎて、少々疲れたようじゃ」
「それは、ご奇特なことでございます」
年甲斐もなく、とは付け加えなかった。
「しかし、ご自愛くださいませ。大事な御身なのですから」
「このくらいは造作もない。だが愛しい息子の言なら、聞かねばなるまいな」
「恐れ入ります」
二人は微笑みあうと、一旦、深い口づけを交わした。
「さても、いかにして力を解放させるか」
モリバラが赤の竜剣に夢中になり始めたので、パレージュは静かに一礼して御前を下がった。
離宮に戻ると、少女がグラスを差しだしてきた。なかの水を半分ほど含み、口を濯いで窓から吐き捨てる。
残りの半分を口に含むと、グラスを運んできた少女に口移しで飲ませた。
「いかがなされました?」
唇の端から滴を垂らしながら、少女が怪訝そうな顔をした。
「少し気になることがな」
「まあ、それは何でしょう」
口に出そうとして、パレージュは心変わりした。
「そなたの蜜が、どんな味だったかと」
少女の背中に手を回し、紐をほどいた。薄いワンピースは、それだけでするりと床に落ち、少女の白い裸身が露わになった。
その、さらりとした恥丘に鼻を寄せながら、パレージュは含み笑いを浮かべた。
「主様……」
少女が身悶え、小さく声をあげた。
「それは」
「オイタが過ぎますわ」
二人の少女がやってきて、快感に酔い痴れる少女の体を、左右から抱き止めた。
「さて、赤の竜剣よ。新たな主を誰に定める」
それがモリバラではないことだけは、パレージュの目には明らかだった。
舌は、蜜を味わっていた。
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