竜剣《タルカ》

チゲン

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第三幕 酔いの月は標(しるべ)を照らす

10頁

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「まさか、あの嬢ちゃんが、リベアンの娘だったとはな」
 トルファンが、感慨かんがい深げに、酒場のなかに目をやった。
 すっかり満腹になったセカイが、今度は女たちに頭を撫でられたり、抱き締められたりしている。
「言われてみれば、似てるな」
「そう見えますか」
 ミランは苦笑を浮かべる。
「あの戦の後、レイグリオの騎士になったと聞いたが……そうかあ、あいつも逝っちまったかあ」
 トルファンの声には、寂しさというより、虚しさのような響きがあった。同じ釜の飯を食ってきた者にだけ許された言葉だった。
「しかも、よりによって、あの魔女に殺られるなんてな。皮肉なもんだ」
「モリバラをご存知なんですか?」
 意外な展開に、ミランの酔いはすっかり醒めていた。
 トルファンは視線を落とした。
「……グルセンダ戦役には、俺も参戦してたのさ」
 グルセンダ国は竜鱗が多く採掘されるため、小さな都市国家にも関わらず、富も独立も保っていた。
 だが、その竜鱗を独占しようとした魔女モリバラと、彼の国と同盟関係にあったレイグリオ国が交戦し、灰燼かいじんしてしまった。
 戦で全てを失った幼いミランは、そこでリベアンに拾われたのだ。
「ひどい戦だった。トキヤを救えたのが、俺にとっちゃ、唯一の救いだ」
「えっ!?」
「どうかしたか?」
「……いいえ」
「まあ、あいつもガキだったから、あんまり覚えてないみてえなんだけどよ」
「そうですか……トキヤは、グルセンダ出身なんですか」
「いい娘だろ?」
「ええ」
 少しだけ寂しい眼差まなざしを、トルファンは夜空に向けた。
 その理由を探ろうとして……ミランは無粋ぶすいな自分を恥じた。
「でも、ちょっと親バカじゃないですか?」
 冗談半分にからかうと、トルファンは照れ笑いを浮かべた。
 ミランが微かに覚えているのは、瓦礫がれきの山と化した故郷の有り様だけだった。
 炎のなかに消えていった、母の姿だけだった。
「私たちが、魔女を追ってグルセンダに向かってるという話は、トキヤには……」
「言わねえよ。でないと、あいつ、全力でおまえさんたちを引き止めちまうからな」
 トルファンに釣られて酒場を見ると、セカイが、とうとうトキヤの肩にもたれて眠っていた。
「大事にしてやれよ」
「はい」
「あの跳ねっ返りが片付いてりゃあ、俺もついてってやれるんだがよ」
「トキヤには、まだまだ、あなたが必要ですよ」
 するとトルファンが、わざとらしいほど深い溜め息を吐いた。
朴念仁ぼくねんじんも、時に罪だよな」
「はっ?」
「何でもない」
 それからまた、酒場に目を向ける。
 ドンチャン騒ぎは、まだまだ終わりそうになかった。
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