竜剣《タルカ》

チゲン

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第六幕 子供の皮を被った羊の物語

5頁

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 郊外にある孤児院に、クラッセとセラコは住んでいた。
 もっとも孤児院とは名ばかりで、実際は子供たちだけの寄合所帯よりあいじょたいである。二人の他に、四人の子供がいた。
 女は、年長で十九歳のクラッセ。次に、十三歳のしっかり者フーリー。十歳の泣き虫マキと、四歳のセラコ。
 男は、十一歳の腕白レギーと、八歳の甘えん坊ジャミン。
 六人は、ここで子供だけの生活をいとなんでいた。
 クラッセの生業なりわいは、酒場の女給と、市場の手伝いだった。昼間は子供たちの面倒を見がてら、内職もしているらしい。
 睡眠時間は、酒場が閉店してから市場が開くまでの僅かな時間だけだ。
 よく音をあげないものだと、セカイは半ば感心し、半ばあきれていた。
「そうでもしないと、暮らしてけないよ」
 クラッセは、年に似合わぬ苦笑いを浮かべた。
まずしい孤児院の面倒見てくれるほど、この町も豊かじゃないからね」
 住み処にしても、取り壊し寸前のあばら家を、半ば強引に借りているのだ。
 その日その日を何とか食い繋ぐような、かつかつの生活だった。
「ただでさえ、あたしたちは鼻つまみ者だし」
 先程の、町の住人たちの反応が、それを如実にょじつに表していた。
 傭兵を恐れただけなのかもしれないが、誰もクラッセたちに手を差し伸べようとはしなかった。
「やめやめ、こんな話。暗くなっちゃうってば」
 クラッセは殊更ことさらに明るい声で、話を打ち切った。
 少女の泣き声が聞こえてきた。マキだ。
「レギーがわたしの人形取ったぁ!」
「こら、レギー!」
「悔しかったら、取り返してみな!」
 マキが大事にしている人形を奪った腕白レギーが、部屋のなかを駆け回る。
 クラッセが代わって追いまわすものの、なかなか小回りの利く少年で、その手をちょこまかと掻いくぐる。
「もう、うるさい!」
 小難しそうな本を読んでいた十三歳のフーリーが、怒鳴り声をあげる。
 平たい石に炭で絵を描いていたジャミンが、不思議そうに二人の追いかけっこを眺めている。
 蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
 ふと、セカイは懐かしさを覚えた。父と過ごした漁村での風景が蘇る。
 誰かが右のそでを引いた。
 セラコだった。絵本を差しだしてくる。
「読め、というの?」
 セラコが頷いた。
 絵本を受け取ると、セラコがセカイの膝に乗っかるようにして、ページを覗き込んできた。
 セカイは静かな声で、絵本を朗読ろうどくした。
 それは『人間の皮を被った羊の物語』だった。
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