灰の瞳のレラ

チゲン

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第28幕

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「やだ。タルト、カボチャのタルトがいい!」
 幼い私が、わがままを言って皆を困らせている。
「困ったわねえ。手違いで、カボチャが手に入らなかったのよ」
「やだやだ!」
 私の五歳の誕生日。
 まるで宮殿のように綺麗な部屋で、色々な人に祝福されて。
 あそこにいるのは、幼い頃のシンシア姉様とデイジア姉様か。二人ともドレスがよく似合っている。
 にしても、誕生日にカボチャのタルトがないくらいで癇癪かんしゃくを起こすなんて、私はなんてわがままな子供だったんだろう。
 そんな私を一生懸命なだめようとしているのは誰なのか。もやがかかっているせいで、顔がよく見えない。
「これで足りるかな?」
 そんなとき、大きなカボチャを手に現れた少年。
 ああ、そうだ。この少年こそ、ユコニスだ。やっぱり私は、彼とっていたんだ。
 どうして忘れていたんだろう。
「カボチャだ!」
「たんじょう日おめでとう、レラ姫」
「良かったわね、レラ」
「うん、ありがとう!」
 これが彼との出会い。
 ユコニスは、それからちょくちょく私と遊んでくれた。鬼ごっこをしたり、隠れんぼをしたり、厨房でこっそり摘み食いをして怒られたり。
 楽しかった。幸せだった。
 でも。
 不意に視界が炎で包まれる。
 逃げ惑う使用人たち。響く剣戟けんげきの音。
「レラ、こっちだ」
 幼い私を連れて、戦場と化した宮殿のなかを逃げるユコニス。謎の襲撃者たちが、手当たり次第に殺し、破壊していくなかを。
 悲鳴や怒号が聞こえる。
 震える私の手を、ユコニスはギュッと握りしめてくれた。
「レラは僕が守るから!」
 その声と温もりが、どんなに私を勇気づけたか。
 私は彼の手を、力いっぱい握り返した。
 懐かしい、暖かい手を。
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