灰の瞳のレラ

チゲン

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第33幕

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 ドレスをまとったまま、横たわる白骨。
 その眼窩がんかからは闇が覗いている。
 ユコニスは呼吸も忘れて、その様を見つめていた。
「サンドラ…伯母さん……?」
 地下水路の片隅で、十年もの間ずっと晒され続けていた骸。
「そんな……」
 幼い彼にカボチャのタルトを作ってくれた優しい人。
「お母さん、なの……?」
 レラの声は震えていた。
 覚悟はできていた。だが現実を前に、身も心も抑えられなかった。
 ふらり。
 突然、レラの体がかしいだ。
「レラ!」
 ユコニスが咄嗟に松明を手放し、両手で彼女の体を支える。松明が床の上を二、三度跳ねるが、幸い水路にまで転がり落ちることはなかった。
「しっかり!」
 レラは、完全に意識を失っているようだった。
 無理もない。彼女の心情をおもんぱかると、胸が痛んだ。
 彼が今できるのは、哀れな娘の体を抱き止めてやることだけだった。
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