灰の瞳のレラ

チゲン

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第39幕

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 人気の無い城の庭で、剣戟の音が鳴り響く。
「まさかあんたと、ここで殺りあうことになるとはね」
 シンシアの短剣がレラの喉元に迫る。
 身を反転させてかわすと、レラはその勢いでシンシアの背に短剣を叩き込んだ。だがシンシアも、身をひねって回避する。
 二人の暗殺者は距離を取った。
「いつもより動きがにぶいわよ。記憶が戻った代わりに、戦い方を忘れちゃったの?」
「違います、シンシア姉様」
「あら。これも随分ずいぶんはっきり否定するのね。そんなハキハキと物を言うような性格だったとは知らなかったわ」
「まだ力が馴染なじんでないんです」
「馴染む……力が?」
 次の瞬間レラの姿が掻き消え、シンシアの背後に出現した。僅かばかりの風圧を伴って。
「!」
 シンシアが咄嗟に前方に転がる。斬撃ざんげきが肩をかすめる。
「勢いが付きすぎてしまうんです」
「あんた……」
 肩先が少し切れていた。
「まさか、魔力の封印まで解けて……」
 シンシアは、かぶりを振った。
「そんなはずない。あんたの魔力は、母様たちが二人がかりで封印したのよ。記憶だけならまだしも、その封印まで破れる訳がないわ」
「お母さんが解いてくれましたから」
「ばかなこと言わないで。サンドラ伯母様は……魔女サンドラはあのとき死んだのよ」
「いいえ。お母さんは、あの暗い水路で、ずっと私が来るのを待っててくれたんです」
ごとを……」
 だがシンシアは否定しきれなかった。
 目の前に立ちはだかる事実。レラから溢れる魔力の脈動が、彼女の言葉を何より証明していた。
 かつて二人の魔女から無意識に力を奪おうとした……貪欲どんよくで底知れない器。
 魔女の子に生まれながら、自分が決して得ることのできなかった力を持つ娘。
「やっぱり……」
 シンシアは歯を食いしばった。
「やっぱりあのとき、あんたもいっしょに殺しておけばよかったわ」
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