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第1章 新世界創造

17 責任のとりかたは神(人)それぞれ

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「直接殺しに行くって、君……。確かにそれなら出来るが、他の神だったらどうするんだ?

 単なるデータだと思っているなら、それは大きな間違いだ。
 多分、精神体が入り込んでいる——これを殺したら本体にも影響が出るんだぞ」

「データでも精神体でも、俺にとっては関係ない。駄目なのか?」

 腹が立っている今のマナトには、データでも精神体でも——もしかすれば生身だとしても関係なかった。
 軽い口調で聞き返すと、ルキナは戸惑った。

「いや、マナトの世界にいる以上、直接殺しに行くのであれば問題はない。
 だが——」

「……ルキナの知り合いの神なのか?」

 考えてみればその可能性もあると、今更ながらに気がついた。
 ルキナが知人の神にマナトのことを話し、その神が面白がってハッキングした——そう考えればド素人のマナトの世界が狙われたのも説明がつく。

「昨日の深夜三時……。エアレズは寝てる、はずだ」

「エアレズ?」

 ルキナが初めて匂わす私生活の部分に、マナトは眉根を寄せた。
 明らかに男の名前だったからだ。
 そう考えて、マナトははっと我に返った。
 ルキナにどんな恋人や友達がいても、マナトには関係がないことだ。

 ルキナはパソコンに目をやっていたので、マナトの不機嫌には気づかなかった。

「友達でな。奴の性格ならやりかねないなと思ったんだが……、深夜ならもうぐっすり寝ているはずだ。
 早寝早起きだからな」

「…………」

 彼女が気安くエアレズのことを語るのを聞くと、マナトは戒めたばかりなのに、心がモヤモヤするのを感じた。

 その沈黙をルキナは、庇う行為を非難されていると思ったのか、慌てて言葉を紡いだ。

「確認してみる。精神体を飛ばしているのならば、連絡がつかないはずだ」

 そう言ったきりルキナは沈黙する。
 マナトは不審に思って身体を揺さぶったが、目を閉じたままピクリともしなかった。

 エアレズに確認するために精神体を飛ばしているのだ、と気づくのと、ルキナが帰ってくるのが同時だった。

「……留守だった」

 明らかに落胆するルキナを見て、そんなにそのエアレズが心配なのかと思うと、マナトの心はさらに冷える。

「——いい。ルキナの友達じゃないんだろ?
 俺、もう行くよ」

 だからセキュリティーかけて、と頼むとルキナは思案するように腕を組んだ。
 上から覗き込める位置に立っていたので、そうすると胸の谷間がよく見える。
 慌てて目をそらしながら訊ねた。

「どうした?」

「——私も行く」

「なんで?」

 エアレズのためか、と口に出しかける。
 だが、ルキナの返答は違っていた。

「知的生命体を創りたくないと言ったマナトに、私はそれでいいと認めた。

 それなのに私が甘く見ていたせいで、マナトの世界が意志と全く反する物になってしまった。
 取り返しはつかないが、本来なら私が後始末をつけなければならない問題だ。
 だから、一緒に行く」

「ルキナ……」

 内心、怒り狂っていたはずなのに、その言葉で気分が浮上するのだから、現金なものだ。

 実際、直接殺しに行くと言っても、どうすればいいのか分からなかったので心強いし、マナトは単純に嬉しいが。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺はルキナのせいだなんて思ってないから。
 こんなによくしてくれたのに恨んだら、バチが当たるだろ。

 だから、罪の意識を感じる必要はないし、責任感を感じてついてくなくていいんだ」

「君は私に責任も取らせてくれないつもりか?」

「いやそんなことは——」

 ない、と言う前に、ルキナが先じた。

「それとも……、私と一緒は嫌なのか?」

 消え入りそうになる言葉に、マナトはブンブンと頭を振って否定する。

「嫌なわけないだろ!」

 焦って言ったために、少し怒鳴るようになってしまった。
 ルキナはそれを聞くと、花がほころぶように笑った。
 その笑顔に惹きつけられそうになって、ごほんと咳払いをして誤魔化す。

「本当に……いいのか?」

「それは私の台詞だ。マナト本当に行くのか?
 後は私に任せて、待ってくれていていいんだぞ」

 真剣な顔でお互いが譲り合う。
 どちらが、笑い始めるのが早かったか。
 いつしか、マナトとルキナは笑い合っていた。

「やはり、君は変な人間だよ——と、今は神だったな。
 まずは、セキュリティーを強化しよう」

 キーボードを操作して、数列を流れるような速さで打ち込んでいく。『Enter』を小指で弾くと、マナトも見慣れた元の画面に戻って、門が閉じられるイラストが流れた。

「これでいい。さてと。
 後は自分の世界にリンクするだけだ。と言っても、初めてだと下準備が大変だぞ」

 シャキシャキと動くルキナを、改めて頼もしく思うマナトだった。
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