異世界召喚女子×人間嫌いの魔王

くりくりさん

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3 副官エリウス

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 カカカカカッと、変な鳥の鳴き声で目が覚めた。

 私は布団のなかにいた。
 
 そのことにほっとする。
 朝のまどろみが心地いい。
 
 昨日の夢は最悪だった。
 ファンタジーの世界とか、よく知らないのに。夢だとああもすらすら、出てくるものなんだなぁ。
 いつも恋愛ものの漫画を好んで読む私には、ついていけない世界でした、まるっと。

 悪夢は忘れるに限る。頭を切り替えなきゃ。

 えっと、今日はなんの授業だったっけ?
 教科書とかは靴箱のロッカーに入れてるからいいとして、バレーの部活がーー

「朝練! 今日、朝練の日だった!」

 なんでアラームかけてないのよ! 絶対、早朝過ぎてる!

「遅刻したら先輩におこ、られ、る……ーーえっ?」

 がばっと起き上がった目に映ったのは、見慣れた私の部屋じゃなかった。

 下手したら私の家一軒分くらいあるんじゃないかってくらい、だだっ広い部屋。
 贅を凝らすって言葉があるけど、それがピッタリ当てはまる。
 
 何個か繋げて置かれたクローゼットはツヤツヤの高級そうな素材で作られていて、テーブルと椅子には綺麗な彫刻があしらわれている。
 絨毯は踏んで汚したらどうしようって思うくらいふかふかそうで、壁にはどこか外国の風景を描いた大きな絵画がかけられていた。

 そして、私が寝ていたのは、これまた大きなベッドだ。

 三人はゆうに眠れるんじゃないかって広さで、体に触れる生地は、自分の家の某ショッピングモールで購入した物と比べるのも失礼なほど、サラッとして不快感が全くない。
 天蓋っていうんだろうか。ベッドを囲うようにカーテンが垂れていて、いつか結婚したら買いたいなと憧れてたものだった。

「おはようございます、アイリ様」

 起き抜けのぼうっとした頭で、間抜けっぽい顔をしてただろう私に、声がかけられた。

 ビクッとする。
 その人物は枕元にいたから、私は気づいてなかった。

「誰?」

 言いながら、私はそちらに目を向けた。

 天蓋のカーテンに、小さなシルエットがあった。
 そのカーテンが幼さのある手で開かれて、可愛らしい女の子が姿を見せた。

 弟と同じくらいの歳で、中学生かな?
 目鼻立ちがはっきりしてる。
 肩までのウェーブの金髪が綺麗で羨ましい。
 今は校則があるから無理だけど、似合わなくても一度は挑戦してみたい色だった。

 外国人モデルみたい。成長したらもっと美人になりそう。
 だけど、その子が着ているのは、メイド服だった。

 メイド服って。秋葉原じゃあるまいし。
 お帰りなさいませご主人様、とか言われても私は興味ないよ?

わたくし、アイリ様の身の回りのお世話を仰せつかりました、セシリアと申します。どうぞ、セシリアとお呼びください」

 凛として言葉遣いも綺麗。日本人より日本語が上手。
 そういえば、昨日の魔王とか言ってた痛い人も、すらすら日本語を話してたっけ。

「私は桜田愛莉」

「存じておりますわ。
 ご主人様から一通りの事情は伺いましたので、こちらの部屋にいらっしゃる時は、どうぞ心安らかにお過ごしください」

 うっわ~、ご主人様って言ったよ、この子。
 しかも言い慣れてる感じ。

 って、そうじゃなくて。

 色々、確認するのが怖いんだけど……、聞かなきゃ始まらない。

「ここはどこ?」

 セシリアは一瞬、不思議そうな顔をして、すぐに笑顔で打ち消した。

「アイリ様が目覚めたらすぐに呼ぶようにと、とある方から命じられておりますの。
 その…、寝巻きで殿方にお会いになるのもどうかと思うのですが、すぐにという命令ですのでお呼び致しますね」

「ちょっ、ちょっと!」

 呼び止めようとしたけど、セシリアはお辞儀をすると部屋を出て行ってしまった。

 殿方って古風な言い方だけど、男の人ってことだよね。
 その男の人を呼んでくるって。

 寝巻きって……

 自分の体を見下ろす。ぺたんこの胸もおへその感じも分かるくらいスケスケの。

「!」

 こんなの寝巻きでもないよ! 単なる下着でしょ!
 でも、セシリアは呼びに行ってしまった。
 上着でもあればいいけど、人の家のクローゼットなんて漁れないし、仕方なく布団を胸まで上げることで隠した。

 しばらくして、コンコンと扉がノックされた。

「失礼致します」

 声がして扉が開く。
 入ってきたのは声の主のセシリアと、もう一人知らない男の人だった。

 夢の中のルークにどこか似た雰囲気をしていた。
 ただルークが黒髪金眼の眼鏡が似合うインテリっぽいのに対して、こっちの男の人は、青髪碧眼の細マッチョって感じ。
 どこが似てるって言われると困るけど、こっちを見る眼ざしの冷たさが、だろうか。

 着ている服は制服のような正装なのに、腰には危ない物を吊り下げていた。
 外に出たら一発で警察に銃刀法違反で捕まりそうな。

 刀? 

 模擬刀みたいな偽物かと思ったけど、それにしては使い込まれてて、デザインもシンプルだった。

 ぞくりと背筋を鳥肌が立った。
 頭の中で赤信号が光る。
 これって命の危険ってやつ?
 
 彼が先頭に立って、私のいるベッドの横まで来ると、

「下がっていいですよ。また呼ぶまで待機をお願いします」

 と後ろのセシリアに退出を促す。

 行かないで。こんな危険人物と二人きりにしないで。 

 私の心の声も虚しく、「畏まりました」とセシリアは逆らわず、本当に部屋を出て行ってしまった。

 扉が閉まるのを確認してから、彼は口を開く。

「さてと。自己紹介から始めましょうか。
 私はエリウス・レドモンド。魔王さまの副官をしています」

「……魔王さまの副官?」

 ヤバい。忘れようとしてた悪夢が蘇ろうとしてる。
 いや、自分の家じゃないって時点で、薄々気づいてたけどさ。

 これは夢なんかじゃないって。

 でも、聞きたくない。知ってしまったら、これが現実になってしまうから。

「ちょっと。お願いだから、ちょっと待って!」

「残念ですが、私は忙しい身なんですよ。
 あなたに付き合っている時間が惜しい。さっさと終わらせて、仕事をしなければ」

 このドSが!

「魔王さまにも困ったものです。
 だから、人間界の物を無闇に召喚しないように言ったのに。

 挙句に、こんな小娘の言葉を聞いて、最低限の防具すら貸し与えるなど、正気の沙汰とは思えません。
 帷子を着込むのが重い、堅苦しいと嘆くから、コートにしたというのに。
 勇者に攻め込まれたら、どうするつもりなんでしょうか?」

 エリウスはそう愚痴る。
 あのコートって防具だったの? そんなに重くなかったけど。

 それ本人に言ってよ。
 明らかに私のせいじゃないじゃん。

「おや、何か言いたそうですね。人間のくせに」

 不満が顔に出てたのか、エリウスがこっちを見てクッと笑った。

 ここまで人を馬鹿にした笑いができますよ、っていう見本みたいだ。
 外見の爽やかな格好よさとは正反対。
 そうやって見ると、陰湿な引きこもりみたいだ。
 あっ、ちょっと古典の先生思い出した。年齢が全然違うけど。

 心の弱い子ならここ黙っちゃうんだろうけど、私は無理だ。
 人間ってだけで馬鹿にされちゃたまんない!

「その人間のくせにって言うの、やめてよ。
 確かに人間だけど、それだけで馬鹿にされる理由にはならないわ」

「あなたは知らないだけです。
 この国では、人間というだけで、なんの罪を犯していなくても、駆除する対象なんですよ」

「駆除って……、人を虫みたいに」

「虫のほうがまだマシですね。死んでも食べれる。
 でも、人間の臭さと言ったら、埋めるか焼いて灰にでもしなければ耐えられません。

 なんなら、今すぐここで死んでくれてもいいんですよ?」

 うっわ。なんてストレートな台詞。
 思春期まっ只中の女子高生に向かって言うなっての。
 一歩間違えば、本当に死ぬよ?

「あなたも人間でしょ。なんでそんな酷いこと言うのよ」

 青髪碧眼だけど、見た目は普通の人間に見えた。
 姿形が一緒で、人間のくせにと言われても、いまいちピンとこない。

「人間? この私が?」

 エリウスの声が低くなった。

 その瞬間、ビリッと空気が震えた。

 ガタガタと突然、窓が揺れ始める。
 驚いて見てみると、そのガラスの上を雷みたいな光が走った。

「! 何が起こってーー」

 その時、前から風にドンと押されて、視線を元に戻す。

「きゃっ!」

 私は思わず悲鳴を上げていた。
 目の前にいたエリウスの姿が変わっていた。

 なに、これ……。
 鬼?

 怒りの表情を浮かべたエリウスの頭から、曲がった角が二本生えていた。
 伸びた犬歯が口に収まりきれずに、口端から出ている。
 それに加えて、肌が黒く変質して手の爪が伸びていた。

 目を離したのは一瞬だったのに。
 なんて、恐ろしい姿なんだろう。

 恐怖に固まる私の首に、エリウスはその鋭い爪先を突きつけてきた。

「私のこの姿を見ても、人間だと? 

 いくら魔王さまがあなたを優遇しろと言っても、魔族を愚弄する者を放置することはできません」

「…………」

 目が怖い。
 射抜かれるんじゃないかってくらいの怒りをたたえた目は、白目の部分がなくなって紺碧一色になっていた。

 これって、夢じゃないの?
 CGにしても出来過ぎだよね。映像でもないのに、こんな一瞬で、人の姿が変わるはずないんだから。

 信じたくない。

 信じたくない、けど。

 私、異世界召喚されちゃったの?
 しかも魔王に。
 それで、この国の人は私をーー人間を殺したいくらい恨んでるってこと?

 目の前のエリウスは、逃げようとする私の首根っこを捕まえて、痛いくらいに伝えてくる。

 現実を見ろって。

 本当に信じたくないんだけど。
 とりあえず信じてみなくちゃ始まらないみたい。

 だったら信じてやろうじゃないの。
 それで一日でも早く、家に帰ってやる!
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