異世界召喚女子×人間嫌いの魔王

くりくりさん

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2 異世界召喚されました?

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「……ええっと。とりあえず、なんて呼べばいいのかな?」

 色々言いたいことを飲み込んで、私は聞いた。
 さすがに人の趣味にケチつけたら駄目だよね。

「人間は、魔王ルークと我を呼んでいるはずだが。
 別にルークだけで構わぬ」

「ルークか。うん、そう呼ばせてもらうわ」

 よかった~。
 魔王ルークと呼べなんて言われたら、私も痛い子になるところだった。

「アイリは変な娘だな。ここまで人間らしくない反応をされたのは初めてだ」

 ルークはそう言って首を傾げる。

 いやいや、私を仲間に入れようとしなくていいから。
 私は正真正銘人間です。

「ルーク。そんなことより事情を説明してくれるって言ってたよね。
 どうして私がこんなところにいるか知ってるの?」

 仲間にされたらたまったもんじゃないので、話題を変える。
 確かルークは、あのときそう言ったはずだ。

 私がここにいる理由を教える、と。

 夢なら早く覚めてほしいけど、そんな気配がない。
 現実だとしたら、ついさっきまでお風呂に入ってたはずの私が、どうしてこんなところにいるの?

 強盗に連れ去られて、何かの理由で置き去りにされた?
 それとも、お風呂から出るときに転んで頭でも打って、病院に運ばれた?

 どっちにしても、気づかないほど馬鹿じゃないし、この西洋っぽい建物にいる理由にもならない。

 ルークが少し気まずそうな顔をしながら言った。

「それは我が間違えてアイリを召喚したからだ」
「…………はぁ?」

 なんですと?
 召喚って、あれだよね。ゲームの世界でマジシャンみたいなのが、何もないところから、何かを呼び出すってやつ。

 人が真剣に困ってるっていうのにこいつは……。

 まだその設定を出してくるか普通。

「じゃあ、ルークが原因で、私はこんなところにいるってわけ?」

 痛い発言を除けば、そういう意味になる。
 自分こそが主犯者だって。

 そういう聞き方をすれば、慌ててその設定をやめて謝ってくると思ったのに、ルークは頷いた。

「そうだ。本当は人間界の書物が欲しかったのだが、なぜかアイリが呼び出されてしまったのだ。
 我もこのような失敗は初めてで困惑している」

「もう、いい加減にして!」

 私は気づいたら怒鳴っていた。
 
 気持ちがこんがらがってる。
 気がついたらこんな所にいて、ただでさえ不安で仕方ないのに、意味不明なことを言って追い打ちをかけてくるルークに腹が立った。

「私、本当に困ってるんだよ!
 魔王とか召喚とか、そんなくだらないこと、人と場所を選んで言ってよ! 
 それでもまだ召喚したって言うなら、同じ魔法使って早く家に帰して!」

「あ、アイリ?」

 最初の裸を見られたとき以外は、普通に会話してたからびっくりしたのだろう。

「怒ってるのか?」

 当たり前のことをルークが言ってくる。

 私は無視した。

 返事がないことに戸惑いながら、ルークは続ける。

「言っている意味がよく分からないのだが、今すぐアイリを元の場所へ戻すことは我にはできぬ」

「……なんでよ」

 無視しようと思っているのに、つい聞いてしまう。

「なぜなら、我は今までこの魔法を、無機物にしか使ってこなかったからだ。返す必要がないと、返すほうの召還魔法は取得しておらぬ」

 いや、返そうよ。
 泥棒してますって宣言してどうする。
 魔法なんてあるはずないのに、心の中でつっこんでしまう自分が悲しい。

「だが、我の手落ちであることは事実。必ず、アイリを元の場所へ戻すことを約束しよう。ルーク・ベルル=ベルスフォードの名にかけて」

「無理」

「な、なんだと?」

 私が切って捨てると、ルークは慌てた。それを見て、ちょっと気持ちが晴れた。

「私、明日学校があるし、その前に家から失踪したら、お父さんもお母さんも弟も心配するじゃない。
 ルークが帰せないって言うんなら、私一人で帰るわ」

 高校一年を舐めんな。どこにいたって、一人で家に帰ることくらいできる。
 お金がないから、警察に頼らなきゃいけないけど。

「魔大陸を歩いて帰ると言うか。なかなか豪胆だな。
 だが、勇者でもないアイリが歩いて帰るなど、スライムが我に挑むより無謀というものだ。

 人間などどうなろうが構わんが、我の手落ちで召喚したアイリが殺されたとあっては、魔王としての恥。
 仕方がない、召還は出来ぬが、直接人間界まで送ってやろう」

 なんか知らないけど、送ってくれそう。
 やっと帰れる、そう思ったのに。

「で、アイリの家は、ローレル大陸のどの辺りにあるのだ?」

 ルークの口から飛び出したのは、聞いたこともない単語で。

「ローレル大陸、って何?」

「馬鹿を申すな。ローレル大陸は、人間どもの拠点ではないか。幼子でも知っておることだぞ」

「ローレルなんて学校で習ったことないもん」

「「……………」」

 二人とも黙り込んだ。

 だって知らないものは知らないんだもの。
 しょうがないじゃない。

 長い沈黙を破ったのは、ルークのほうだった。

「……そういうことか。
 どうやら、我は異世界からアイリを召喚してしまったようだ」
「い、異世界?」

 もうヤダ、この人。今度は何を言い出すの?

「召喚が次元を超えて作用する事故が稀にあるという。
 特に我の魔力は甚大で、与える影響も大きいから、人間どもよりも起こしやすかろう。

 アイリ、お前はどこから来た?」

「どこって、地球に決まってるでしょ」

 普段、地球なんて言わない。
 友達同士の会話でも、出身地を聞かれて都道府県を言うくらいだけど、ルークはまた知らないふりをするだろうから、そう言った。

 でも地球と大雑把に言ったって、普通通じる。
 だけど、ルークは首をひねった。

「ふむ、やはりな。我の知らぬ場所だ。
 これでようやく腑に落ちた。アイリが我を恐れぬことも我が名を知らぬことも。
 異世界の住人ならば、知らなくても当然だろう」

「…………」

 もう付き合ってらんない。一人で勝手にファンタジーごっこをしてればいい。

「アイリ、どこへ行く?」

 くるっと背を向けて、後ろのドアから出ようとした私の手首をルークが掴んだ。

「離して! 私は家に帰るんだから」

「だから、帰れぬと言っておるだろうに。
 それに、今この部屋から出れば、命の保証はできん」

「ほら、本性を出した!

 どうせ私を監禁して、身代金を要求してるんでしょ。だったら最初から縛って脅しとけばいいのよ。

 変に魔王だのなんだの、今度は異世界?
 私を馬鹿にしてんの? 子どもでも信じないわよ!」

「違う、我は本当のことをーー」

「魔王さま! 一体、なんの騒ぎです?!」

 そのとき、ドアが外側から開いて、誰かが飛び込んできた。

「!!」

 その異様な姿に、私は頭が真っ白になった。

 トカゲだった。しかも、二足歩行する。
 私より頭一つ分は大きい。
 口からチロリと覗く舌は、爬虫類独特の細長いものだった。

 は、爬虫類……ーー大嫌い! 
 小さくても気持ち悪いのに、大きいせいで細かいところまでが詳細に見えた。

 トカゲ男の生臭い息が、私の顔にかかった瞬間ーー

 ふっと意識が遠ざかった。

「おい!」

 ルークの慌てる声。
 ふわっと誰かに抱えられた気がした。

 あぁ、やっと夢から覚めるんだ。よかった。
 それにしても、人生最悪最低の夢だったなぁ。

 そして、私の意識は完全にブラックアウトした。
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