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10 魔法の世界
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休憩と言うから、執務室かそれとも私の入ってきた扉から別の部屋に移るかと思ったのに、向かった先は隣室に繋がる片開きの扉だった。
ルークに続けて入ると、そこは昨日、私がこの世界に召喚された場所だった。
部屋の広さは執務室と同じくらいだった。
でも、こっちの部屋の方が凄く狭く感じる。
なんでかというと、壁一面を書棚が埋め尽くしていたからだ。
書棚には隙間が見当たらないくらい、ぎっしりと本が詰め込まれている。
執務室に入ったとき、それっぽい物がなかったのに図書館みたいな匂いがしたのは、この部屋の匂いが漏れていたからなのだろう。
この匂いが苦手な人もいるんだろうけど、私は好きだな。
中央には、テーブルとソファがある。
足が低い布製のソファは、お客さん用というより、寛ぐことを目的にした家用のカジュアルな感じがする。
仮眠室用の部屋なんだろう。
召喚された時の嫌な思いさえなければ、全体的に落ち着いていて、自分の部屋みたいに、一日中でもゴロゴロできちゃいそう。
「どこでも好きな所に掛けるがいい」
そう言いながら、ルークは小さな備えつけの棚に歩いていく。
そこにはいろんな茶葉が入ったビンと、ポットやティーカップが置かれていた。
ルークは手慣れた様子で、その茶葉に手を伸ばしている。
社長とかって、秘書とか事務員さんにお茶を持ってきてもらうイメージがあったから、ちょっと意外。
魔王って自分で動くんだね。
ルークが例外なのかもしれないけど。
手伝った方がいいのか迷ったけど、困ってる感じじゃないし、逆に自分の方が茶葉に詳しくないので止めておいた。
家ではティーバック派なもんで。
私はうんと言いながらもソファを逸れ、気になった本棚へと近づいていった。
ルークが私を間違って召喚したとき、人間界の本を召喚するつもりだったって言ってた。
ここの本棚には、そうやって集めた人間界の本が置かれているのだろう。
どんなジャンルをルークが好むかも、少し興味があった。
やっぱり政治とか経済学とかの難しい本だろうか。
意外と気晴らしに、アクションとか冒険物かもしれない。
そう思いながら、背表紙のタイトルを覗き込んだんだけど。
「何これ……」
全然見たことのない文字の形をしてる。
英語でもフランス語でも中国語でも、もちろん日本語でもない。
一番近いとしたら、歴史の教科書に載ってる象形文字かも。文字というよりは絵に近い。
えっ? だってみんな普通に日本語話してたよ?
それなのに、文字だけ日本語じゃないっておかしくない?
「どうかしたのか?」
ルークがお茶を淹れる手を止めて、聞いてくる。
私がそのことを伝えると、ルークは首を傾げた。
「日本語? それはアイリの世界の言葉のことか?
だが、アイリは最初から、創世言語を喋っているが」
「創世言語って……」
「この世界ーーカダルティスの統一言語のことだ。
神話の時代、魔族も人間も元は一つの種族だった。二つの種族に別れた後も、言葉だけは変わらず、ずっと今日まで続いている。
魔法にも深く関わる故、太古の昔より変質しておらぬ」
「私が、こっちの世界の言葉を喋ってる……?」
どういうこと?
みんなが日本語を喋ってるんじゃなくて、創世言語で喋ってるみんなの言葉を、私が勝手に通訳して日本語に直してたってこと?
それで、みんなはその逆。
何それ。それって、みんなにというより、私に魔法みたいな力がかかってない?
私、ただの人間なんだけど。
その困惑で、ルークも初めて私の世界の言葉が創世言語ではないことに思い至ったらしい。
顎に手を当てて考える仕草をした。
「次元を超えた際に、我の魔力がなんらかの形でアイリに作用したか?
そもそも召喚が次元を超える時点で、召喚物に保護の力が働かなければ、呼び出せたとしても原形を留めておらぬはず」
冷静に恐ろしいことを言うルーク。
やめてよー。
もしかして、この世界に召喚されるより前に死んでた可能性もあるってこと?
それに呼び出されたとき、もしもこっちの世界の言葉が理解できない状況だったら、ルークに問答無用で人間として消滅させられてたかもしれない。
深く考えちゃダメだ。
素直に感謝しとこう。うん。
それにしても、こっちの創世言語って大変だよね。絵の文字って書くの面倒くさくないのかな?
「アイリ」
全然分からない本をそれでも眺めていると、名前を呼ばれた。
振り返ると、ルークがテーブルにティーカップが乗ったソーサーを二つ置いている所だった。
「ありがとう」
ルークが先に座ってくれたので、私は迷わずにもう一つのお茶が用意されたソファに座ることができた。
目の前のティーカップには、いい香りがする紅茶みたいなのが注がれていた。
湯気がほわほわしていて、触れなくても温かいのが分かる。
あれ?
でも、お湯を沸かしてる様子がなかったんだけど。
あのポットが魔法瓶になってる訳ないだろうし。
っていうか、水もどこにあったの?
そのとき、ルークが右手の人差し指を立てた。
何かと思って見ると、その人差し指から野球ボールくらいの水球が生まれる。
ふわん、と浮いて綺麗だなと思っていると、突然ブクブク沸騰し始めて最後には蒸発してしまったので、びっくりした。
よっぽど、見入ってしまってたんだろう。
クス、と笑われる声で我に返った。
単純な手品に引っかかる子どもみたいに思われてる。
でも、不思議なものは不思議なのっ。
考えていることが丸わかりの自分が情けない。
「いただきますっ」
お茶を飲むことでごまかす。
香りもだけど、味も紅茶みたいだった。おいしい。
ルークはそんな私をおかしそうに見ていたけど、急に真面目な顔になった。
休憩しようと誘ったのはルークの方なのに、お茶を飲むでもなく、思いつめるように何かを考え込んでいる。
どうしたの?
そう聞ければ早いのに、なぜだか聞くのがためらわれる雰囲気だった。
やがて、ルークの中で葛藤に一区切りついたのだろうか。
重たい口を開いた。
「本当に申し訳なかった。
我のせいで、アイリに迷惑をかけていることを、改めて謝罪をさせて欲しい」
そう言うと、魔王ルークは私に深々と頭を下げていた。
ルークに続けて入ると、そこは昨日、私がこの世界に召喚された場所だった。
部屋の広さは執務室と同じくらいだった。
でも、こっちの部屋の方が凄く狭く感じる。
なんでかというと、壁一面を書棚が埋め尽くしていたからだ。
書棚には隙間が見当たらないくらい、ぎっしりと本が詰め込まれている。
執務室に入ったとき、それっぽい物がなかったのに図書館みたいな匂いがしたのは、この部屋の匂いが漏れていたからなのだろう。
この匂いが苦手な人もいるんだろうけど、私は好きだな。
中央には、テーブルとソファがある。
足が低い布製のソファは、お客さん用というより、寛ぐことを目的にした家用のカジュアルな感じがする。
仮眠室用の部屋なんだろう。
召喚された時の嫌な思いさえなければ、全体的に落ち着いていて、自分の部屋みたいに、一日中でもゴロゴロできちゃいそう。
「どこでも好きな所に掛けるがいい」
そう言いながら、ルークは小さな備えつけの棚に歩いていく。
そこにはいろんな茶葉が入ったビンと、ポットやティーカップが置かれていた。
ルークは手慣れた様子で、その茶葉に手を伸ばしている。
社長とかって、秘書とか事務員さんにお茶を持ってきてもらうイメージがあったから、ちょっと意外。
魔王って自分で動くんだね。
ルークが例外なのかもしれないけど。
手伝った方がいいのか迷ったけど、困ってる感じじゃないし、逆に自分の方が茶葉に詳しくないので止めておいた。
家ではティーバック派なもんで。
私はうんと言いながらもソファを逸れ、気になった本棚へと近づいていった。
ルークが私を間違って召喚したとき、人間界の本を召喚するつもりだったって言ってた。
ここの本棚には、そうやって集めた人間界の本が置かれているのだろう。
どんなジャンルをルークが好むかも、少し興味があった。
やっぱり政治とか経済学とかの難しい本だろうか。
意外と気晴らしに、アクションとか冒険物かもしれない。
そう思いながら、背表紙のタイトルを覗き込んだんだけど。
「何これ……」
全然見たことのない文字の形をしてる。
英語でもフランス語でも中国語でも、もちろん日本語でもない。
一番近いとしたら、歴史の教科書に載ってる象形文字かも。文字というよりは絵に近い。
えっ? だってみんな普通に日本語話してたよ?
それなのに、文字だけ日本語じゃないっておかしくない?
「どうかしたのか?」
ルークがお茶を淹れる手を止めて、聞いてくる。
私がそのことを伝えると、ルークは首を傾げた。
「日本語? それはアイリの世界の言葉のことか?
だが、アイリは最初から、創世言語を喋っているが」
「創世言語って……」
「この世界ーーカダルティスの統一言語のことだ。
神話の時代、魔族も人間も元は一つの種族だった。二つの種族に別れた後も、言葉だけは変わらず、ずっと今日まで続いている。
魔法にも深く関わる故、太古の昔より変質しておらぬ」
「私が、こっちの世界の言葉を喋ってる……?」
どういうこと?
みんなが日本語を喋ってるんじゃなくて、創世言語で喋ってるみんなの言葉を、私が勝手に通訳して日本語に直してたってこと?
それで、みんなはその逆。
何それ。それって、みんなにというより、私に魔法みたいな力がかかってない?
私、ただの人間なんだけど。
その困惑で、ルークも初めて私の世界の言葉が創世言語ではないことに思い至ったらしい。
顎に手を当てて考える仕草をした。
「次元を超えた際に、我の魔力がなんらかの形でアイリに作用したか?
そもそも召喚が次元を超える時点で、召喚物に保護の力が働かなければ、呼び出せたとしても原形を留めておらぬはず」
冷静に恐ろしいことを言うルーク。
やめてよー。
もしかして、この世界に召喚されるより前に死んでた可能性もあるってこと?
それに呼び出されたとき、もしもこっちの世界の言葉が理解できない状況だったら、ルークに問答無用で人間として消滅させられてたかもしれない。
深く考えちゃダメだ。
素直に感謝しとこう。うん。
それにしても、こっちの創世言語って大変だよね。絵の文字って書くの面倒くさくないのかな?
「アイリ」
全然分からない本をそれでも眺めていると、名前を呼ばれた。
振り返ると、ルークがテーブルにティーカップが乗ったソーサーを二つ置いている所だった。
「ありがとう」
ルークが先に座ってくれたので、私は迷わずにもう一つのお茶が用意されたソファに座ることができた。
目の前のティーカップには、いい香りがする紅茶みたいなのが注がれていた。
湯気がほわほわしていて、触れなくても温かいのが分かる。
あれ?
でも、お湯を沸かしてる様子がなかったんだけど。
あのポットが魔法瓶になってる訳ないだろうし。
っていうか、水もどこにあったの?
そのとき、ルークが右手の人差し指を立てた。
何かと思って見ると、その人差し指から野球ボールくらいの水球が生まれる。
ふわん、と浮いて綺麗だなと思っていると、突然ブクブク沸騰し始めて最後には蒸発してしまったので、びっくりした。
よっぽど、見入ってしまってたんだろう。
クス、と笑われる声で我に返った。
単純な手品に引っかかる子どもみたいに思われてる。
でも、不思議なものは不思議なのっ。
考えていることが丸わかりの自分が情けない。
「いただきますっ」
お茶を飲むことでごまかす。
香りもだけど、味も紅茶みたいだった。おいしい。
ルークはそんな私をおかしそうに見ていたけど、急に真面目な顔になった。
休憩しようと誘ったのはルークの方なのに、お茶を飲むでもなく、思いつめるように何かを考え込んでいる。
どうしたの?
そう聞ければ早いのに、なぜだか聞くのがためらわれる雰囲気だった。
やがて、ルークの中で葛藤に一区切りついたのだろうか。
重たい口を開いた。
「本当に申し訳なかった。
我のせいで、アイリに迷惑をかけていることを、改めて謝罪をさせて欲しい」
そう言うと、魔王ルークは私に深々と頭を下げていた。
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