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11 ルークの謝罪
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「ルーク? なんで……」
自分がルークに謝るためにここに来たのに、なぜかルークに謝られてる。
確かに、謝罪されても簡単には許せない。
だって、どんなに家に帰りたいって思っても、帰れないんだから。
まだ自分が、大学進学か何かで都会に上京して、家族や友達に会えないから寂しいってホームシックになるだけならいい。
でも、私は突然失踪してしまった。
私だけの問題じゃない。
みんなにそれ以上の心配や迷惑をかけてるんだって考えるだけで、胸がぎゅっとして張り裂けそうになる。
私は無事でこの世界にいるから安心してね、って一言でも伝えられたら、心穏やかになれるのに。
叶わないから、余計に辛いんだ。
今はただ、あまり心配し過ぎて体を壊さないように願うしかない。
いつか必ず帰るから、それまで元気でいてほしい。
そんな今の状況を作った張本人のルークに、腹が立たないはずがない。
それこそ間違いでなく、わざと私を召喚したんだったら、単純に恨んでニュースとかに載る凶行に及んでいたかもしれない。
でも違う。
私は間違って召喚されてしまった。
すぐに言葉が出てこない私をどう思ったのか、ルークは複雑な表情を浮かべながら続ける。
「腹心たちから、魔王がーー王が容易く頭を下げるものではないと言われた。
特に相手が人間なら尚更だと。
だが、我は本当にそれで良いのかと自問したのだ。
自分の落ち度で召喚しておきながら、人間だからと非を認めぬことが、果たして王たり得るのか。
潔く間違いを間違いと認め、次の行動に生かす方が、王としての資質だと我は思う。
だから、我はアイリが許してくれなくとも、謝るべきだと思った」
きっと、昨日私が気絶してしまってから、そのやりとりをしたんだろう。
腹心に反対されても、私に危害が及ばないように苦労して手配してくれたのは、言われなくてもよく分かる。
人間は殺していいと思ってる魔族に、そのことを了承させるのは、どんなに大変だったんだろう。
それだけ、間違って召喚してしまった私に、ルークは申し訳ないと思ってくれている。
いくら心の中で腹を立てていても、謝って頭を下げてくれている相手に、酷い言葉を投げつけることは、私にはできなかった。
「許すよ。
その代わり、絶対私を元の世界に戻してね」
もう謝らなくていいという想いを込めて、私が笑顔でそう言った。
ルークもそれを見て、ようやく肩の荷が下りたんだろう。ほっと息を吐いた。
「我はあの時、アイリを家に帰すと我が名に誓った。
この世界ではなく異世界だった訳だが、その誓いは有効のままだ。
魔法の存在しないアイリの世界では、ただの約束でしかないかもしれぬが、我ら魔族において名にかける、誓うとは、特殊な意味合いを持つ」
「特殊な意味合い?」
「破れば死ぬ」
「!」
「どうだ? 安心しただろう」
ルークはそう言いながら笑った。
本当に私がその言葉で安心すると思ってるみたいに。
いや、安心しただろうって……。
私あの時、無理って一言で片付けちゃったけど、そんなに重い言葉だったの?
それを出会ったばかりの、どんな相手かも分からない、しかも人間の私にどうして言っちゃったの?
「……ルークの目には、私がそんなに卑怯な人間に見えてるの?」
「アイリ?」
「過ちを命で償えって言うような人間に見えてるかって聞いてるの!」
突然、感情を爆発させた私を、どうしていいか分からない様子で見ていたが、
「泣いてるのか……?」
驚くようにルークに言われて、頬を涙が伝っているのに気づいた。
だって、ルークが悪いんだよ。勝手にそんな重い約束して、私がどう思うかなんて全然考えてないんだから。
私のせいで誰かが死ぬって考えただけで、ぞっとする。
「私、もし家に帰れなくても、ルークに死んで欲しいなんて思わない。
この世界の人間のことは分かんないけど、少なくても私は知ってる人が死んだら悲しくて泣くよ。
家族や友達でもそう。もちろん魔族だって同じ。
だって、同じ命じゃない。
それが、私のせいで死ぬなんて、絶対に嫌だ。
だから、今すぐそ取り消して。そんな約束、私には重すぎる」
「同じ命……」
ルークは、私の言葉を噛み締めるように呟いた。
「やはり、アイリは変わっているな。
人間は、我が死ねば喝采を上げると言うのに」
ソファから腰を浮かせて中腰になると、そっと手を伸ばして私の頬の涙を、その繊細な指で拭う。
それが、私の言うことを理解してくれていないように聞こえて、懇願するように言葉を重ねた。
「私はこの世界の人間じゃない。
お願いだから自分が死ぬ話を、そんなに淡々としないで。
もっと、残されるみんなの気持ちを考えてよ」
新しい涙が次から次へと溢れてくる。
感情がうまくコントロールできない。
「真実を言ったつもりなのだが、また泣かせてしまったな。
だが、アイリの気持ちはよく分かった。確かに我の勝手な思い込みだったようだ。
約束を取り消してやりたいが、一度名に誓ってしまったものは取り消せぬ。
ただ、我も死ぬ気はないのだぞ。勝算がなければ、名になど誓わん」
「……本当?」
「ああ、今日から召還魔法の習得に励むつもりだ。
専門家に確認したが、他の召還魔法を使える者では、アイリを元の世界に戻すことはできぬらしくてな。
次元を超えた世界は、それこそ数多存在するが故、アイリの世界の特定が困難らしいのだ。
我は偶然アイリを召喚してしまったが、あの時の感覚は覚えている。
だから、召還魔法さえ習得できれば、アイリを元の世界に帰すことができるはず。
だから、もう泣くな。
……アイリに泣かれるとなぜか気が狂いそうになる」
「最後、何て言ったの?」
ぼそっと言われたので聞き取れなかった。
「気にするな」
「痛っ!」
強く頬の涙を擦られて、思わず声を上げると、ルークは笑って腰を下ろした。
その痛みで、涙が止まったみたい。
私はほっとして、手の甲でゴシゴシと涙を拭った。
そして、ルークはようやく、冷めてしまったお茶に手を伸ばしたのだった。
自分がルークに謝るためにここに来たのに、なぜかルークに謝られてる。
確かに、謝罪されても簡単には許せない。
だって、どんなに家に帰りたいって思っても、帰れないんだから。
まだ自分が、大学進学か何かで都会に上京して、家族や友達に会えないから寂しいってホームシックになるだけならいい。
でも、私は突然失踪してしまった。
私だけの問題じゃない。
みんなにそれ以上の心配や迷惑をかけてるんだって考えるだけで、胸がぎゅっとして張り裂けそうになる。
私は無事でこの世界にいるから安心してね、って一言でも伝えられたら、心穏やかになれるのに。
叶わないから、余計に辛いんだ。
今はただ、あまり心配し過ぎて体を壊さないように願うしかない。
いつか必ず帰るから、それまで元気でいてほしい。
そんな今の状況を作った張本人のルークに、腹が立たないはずがない。
それこそ間違いでなく、わざと私を召喚したんだったら、単純に恨んでニュースとかに載る凶行に及んでいたかもしれない。
でも違う。
私は間違って召喚されてしまった。
すぐに言葉が出てこない私をどう思ったのか、ルークは複雑な表情を浮かべながら続ける。
「腹心たちから、魔王がーー王が容易く頭を下げるものではないと言われた。
特に相手が人間なら尚更だと。
だが、我は本当にそれで良いのかと自問したのだ。
自分の落ち度で召喚しておきながら、人間だからと非を認めぬことが、果たして王たり得るのか。
潔く間違いを間違いと認め、次の行動に生かす方が、王としての資質だと我は思う。
だから、我はアイリが許してくれなくとも、謝るべきだと思った」
きっと、昨日私が気絶してしまってから、そのやりとりをしたんだろう。
腹心に反対されても、私に危害が及ばないように苦労して手配してくれたのは、言われなくてもよく分かる。
人間は殺していいと思ってる魔族に、そのことを了承させるのは、どんなに大変だったんだろう。
それだけ、間違って召喚してしまった私に、ルークは申し訳ないと思ってくれている。
いくら心の中で腹を立てていても、謝って頭を下げてくれている相手に、酷い言葉を投げつけることは、私にはできなかった。
「許すよ。
その代わり、絶対私を元の世界に戻してね」
もう謝らなくていいという想いを込めて、私が笑顔でそう言った。
ルークもそれを見て、ようやく肩の荷が下りたんだろう。ほっと息を吐いた。
「我はあの時、アイリを家に帰すと我が名に誓った。
この世界ではなく異世界だった訳だが、その誓いは有効のままだ。
魔法の存在しないアイリの世界では、ただの約束でしかないかもしれぬが、我ら魔族において名にかける、誓うとは、特殊な意味合いを持つ」
「特殊な意味合い?」
「破れば死ぬ」
「!」
「どうだ? 安心しただろう」
ルークはそう言いながら笑った。
本当に私がその言葉で安心すると思ってるみたいに。
いや、安心しただろうって……。
私あの時、無理って一言で片付けちゃったけど、そんなに重い言葉だったの?
それを出会ったばかりの、どんな相手かも分からない、しかも人間の私にどうして言っちゃったの?
「……ルークの目には、私がそんなに卑怯な人間に見えてるの?」
「アイリ?」
「過ちを命で償えって言うような人間に見えてるかって聞いてるの!」
突然、感情を爆発させた私を、どうしていいか分からない様子で見ていたが、
「泣いてるのか……?」
驚くようにルークに言われて、頬を涙が伝っているのに気づいた。
だって、ルークが悪いんだよ。勝手にそんな重い約束して、私がどう思うかなんて全然考えてないんだから。
私のせいで誰かが死ぬって考えただけで、ぞっとする。
「私、もし家に帰れなくても、ルークに死んで欲しいなんて思わない。
この世界の人間のことは分かんないけど、少なくても私は知ってる人が死んだら悲しくて泣くよ。
家族や友達でもそう。もちろん魔族だって同じ。
だって、同じ命じゃない。
それが、私のせいで死ぬなんて、絶対に嫌だ。
だから、今すぐそ取り消して。そんな約束、私には重すぎる」
「同じ命……」
ルークは、私の言葉を噛み締めるように呟いた。
「やはり、アイリは変わっているな。
人間は、我が死ねば喝采を上げると言うのに」
ソファから腰を浮かせて中腰になると、そっと手を伸ばして私の頬の涙を、その繊細な指で拭う。
それが、私の言うことを理解してくれていないように聞こえて、懇願するように言葉を重ねた。
「私はこの世界の人間じゃない。
お願いだから自分が死ぬ話を、そんなに淡々としないで。
もっと、残されるみんなの気持ちを考えてよ」
新しい涙が次から次へと溢れてくる。
感情がうまくコントロールできない。
「真実を言ったつもりなのだが、また泣かせてしまったな。
だが、アイリの気持ちはよく分かった。確かに我の勝手な思い込みだったようだ。
約束を取り消してやりたいが、一度名に誓ってしまったものは取り消せぬ。
ただ、我も死ぬ気はないのだぞ。勝算がなければ、名になど誓わん」
「……本当?」
「ああ、今日から召還魔法の習得に励むつもりだ。
専門家に確認したが、他の召還魔法を使える者では、アイリを元の世界に戻すことはできぬらしくてな。
次元を超えた世界は、それこそ数多存在するが故、アイリの世界の特定が困難らしいのだ。
我は偶然アイリを召喚してしまったが、あの時の感覚は覚えている。
だから、召還魔法さえ習得できれば、アイリを元の世界に帰すことができるはず。
だから、もう泣くな。
……アイリに泣かれるとなぜか気が狂いそうになる」
「最後、何て言ったの?」
ぼそっと言われたので聞き取れなかった。
「気にするな」
「痛っ!」
強く頬の涙を擦られて、思わず声を上げると、ルークは笑って腰を下ろした。
その痛みで、涙が止まったみたい。
私はほっとして、手の甲でゴシゴシと涙を拭った。
そして、ルークはようやく、冷めてしまったお茶に手を伸ばしたのだった。
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