異世界召喚女子×人間嫌いの魔王

くりくりさん

文字の大きさ
11 / 17

11 ルークの謝罪

しおりを挟む
「ルーク? なんで……」

 自分がルークに謝るためにここに来たのに、なぜかルークに謝られてる。

 確かに、謝罪されても簡単には許せない。
 だって、どんなに家に帰りたいって思っても、帰れないんだから。

 まだ自分が、大学進学か何かで都会に上京して、家族や友達に会えないから寂しいってホームシックになるだけならいい。

 でも、私は突然失踪してしまった。

 私だけの問題じゃない。
 みんなにそれ以上の心配や迷惑をかけてるんだって考えるだけで、胸がぎゅっとして張り裂けそうになる。

 私は無事でこの世界にいるから安心してね、って一言でも伝えられたら、心穏やかになれるのに。
 叶わないから、余計に辛いんだ。

 今はただ、あまり心配し過ぎて体を壊さないように願うしかない。
 いつか必ず帰るから、それまで元気でいてほしい。
 
 そんな今の状況を作った張本人のルークに、腹が立たないはずがない。
 それこそ間違いでなく、わざと私を召喚したんだったら、単純に恨んでニュースとかに載る凶行に及んでいたかもしれない。

 でも違う。
 私は間違って召喚されてしまった。

 すぐに言葉が出てこない私をどう思ったのか、ルークは複雑な表情を浮かべながら続ける。

「腹心たちから、魔王がーー王が容易く頭を下げるものではないと言われた。
 特に相手が人間なら尚更だと。

 だが、我は本当にそれで良いのかと自問したのだ。
 自分の落ち度で召喚しておきながら、人間だからと非を認めぬことが、果たして王たり得るのか。

 潔く間違いを間違いと認め、次の行動に生かす方が、王としての資質だと我は思う。
 
 だから、我はアイリが許してくれなくとも、謝るべきだと思った」

 きっと、昨日私が気絶してしまってから、そのやりとりをしたんだろう。
 腹心に反対されても、私に危害が及ばないように苦労して手配してくれたのは、言われなくてもよく分かる。

 人間は殺していいと思ってる魔族に、そのことを了承させるのは、どんなに大変だったんだろう。

 それだけ、間違って召喚してしまった私に、ルークは申し訳ないと思ってくれている。
 
 いくら心の中で腹を立てていても、謝って頭を下げてくれている相手に、酷い言葉を投げつけることは、私にはできなかった。

「許すよ。
 その代わり、絶対私を元の世界に戻してね」

 もう謝らなくていいという想いを込めて、私が笑顔でそう言った。
 ルークもそれを見て、ようやく肩の荷が下りたんだろう。ほっと息を吐いた。

「我はあの時、アイリを家に帰すと我が名に誓った。
 この世界ではなく異世界だった訳だが、その誓いは有効のままだ。 

 魔法の存在しないアイリの世界では、ただの約束でしかないかもしれぬが、我ら魔族において名にかける、誓うとは、特殊な意味合いを持つ」

「特殊な意味合い?」

「破れば死ぬ」

「!」

「どうだ? 安心しただろう」

 ルークはそう言いながら笑った。
 本当に私がその言葉で安心すると思ってるみたいに。

 いや、安心しただろうって……。

 私あの時、無理って一言で片付けちゃったけど、そんなに重い言葉だったの?

 それを出会ったばかりの、どんな相手かも分からない、しかも人間の私にどうして言っちゃったの?

「……ルークの目には、私がそんなに卑怯な人間に見えてるの?」

「アイリ?」

「過ちを命で償えって言うような人間に見えてるかって聞いてるの!」

 突然、感情を爆発させた私を、どうしていいか分からない様子で見ていたが、

「泣いてるのか……?」

 驚くようにルークに言われて、頬を涙が伝っているのに気づいた。

 だって、ルークが悪いんだよ。勝手にそんな重い約束して、私がどう思うかなんて全然考えてないんだから。

 私のせいで誰かが死ぬって考えただけで、ぞっとする。

「私、もし家に帰れなくても、ルークに死んで欲しいなんて思わない。

 この世界の人間のことは分かんないけど、少なくても私は知ってる人が死んだら悲しくて泣くよ。
 家族や友達でもそう。もちろん魔族だって同じ。

 だって、同じ命じゃない。
 それが、私のせいで死ぬなんて、絶対に嫌だ。

 だから、今すぐそ取り消して。そんな約束、私には重すぎる」

「同じ命……」

 ルークは、私の言葉を噛み締めるように呟いた。

「やはり、アイリは変わっているな。
 人間は、我が死ねば喝采を上げると言うのに」
 
 ソファから腰を浮かせて中腰になると、そっと手を伸ばして私の頬の涙を、その繊細な指で拭う。

 それが、私の言うことを理解してくれていないように聞こえて、懇願するように言葉を重ねた。

「私はこの世界の人間じゃない。
 お願いだから自分が死ぬ話を、そんなに淡々としないで。
 もっと、残されるみんなの気持ちを考えてよ」

 新しい涙が次から次へと溢れてくる。
 感情がうまくコントロールできない。

「真実を言ったつもりなのだが、また泣かせてしまったな。

 だが、アイリの気持ちはよく分かった。確かに我の勝手な思い込みだったようだ。
 約束を取り消してやりたいが、一度名に誓ってしまったものは取り消せぬ。
 
 ただ、我も死ぬ気はないのだぞ。勝算がなければ、名になど誓わん」

「……本当?」

「ああ、今日から召還魔法の習得に励むつもりだ。

 専門家に確認したが、他の召還魔法を使える者では、アイリを元の世界に戻すことはできぬらしくてな。
 次元を超えた世界は、それこそ数多存在するが故、アイリの世界の特定が困難らしいのだ。

 我は偶然アイリを召喚してしまったが、あの時の感覚は覚えている。
 だから、召還魔法さえ習得できれば、アイリを元の世界に帰すことができるはず。

 だから、もう泣くな。

 ……アイリに泣かれるとなぜか気が狂いそうになる」

「最後、何て言ったの?」

 ぼそっと言われたので聞き取れなかった。

「気にするな」

「痛っ!」

 強く頬の涙を擦られて、思わず声を上げると、ルークは笑って腰を下ろした。

 その痛みで、涙が止まったみたい。
 私はほっとして、手の甲でゴシゴシと涙を拭った。

 そして、ルークはようやく、冷めてしまったお茶に手を伸ばしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...