異世界召喚女子×人間嫌いの魔王

くりくりさん

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17 盲目の美青年

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「君は?」

 怯えさせないように少し距離を開けて、私が声をかけると、男の人がこちらに顔を向けた。

 一瞬、見えてるのかなって思った。
 でも、やっぱりその目は閉じられていて、声のした方向に顔を向けただけみたい。

 近くで見ると、その整った顔が際立って見えた。
 男の人なんだけど、大人のお姉さんって感じ。身体の線が全体的に細くて、透き通る白い肌が銀髪と合っていた。

 彼のもっともな質問に、私は戸惑う。
 王城の裏庭にいるということは、この人も魔族だって考えていいんだよね。

 私には分からないけど、ルークたちには私が人間だと区別がつくらしい。
 だったら、人間だって言わなくても分かるかもしれないし、分からなかったら、それはそれで仲良くなるチャンスかもしれない。

 だって、今のところ話ができるのは、ルークとセシリアくらいなんだよ。でも、二人とも仕事があるから、私にばかり構っていられる訳じゃない。
 友達が欲しいなって思うのは悪くないはず。

「私はアイリ。怪しい者じゃありません」

 するっと出た言葉に、しまった!って思った。
 怪しい人間が、自分を怪しいなんて言うはずがない。
 何か疚しいことがありますよって、自分から宣言してるようなものだ。
 
 内心慌てる私に、彼は美しい顔を微笑ませた。

「そのようですね。可愛らしいお嬢さん。
 では、お願いいたしましょうか。取れなくて困っていたところなのです」

「可愛らしい……」

 するっとそんな単語を言われて、思わず赤面しかけて、違う違うと首を横に振る。

 だって、目が見えてないもん。

 きっと、誰にでもそう言ってるんだよね。
 もし三枚目の俳優さんとかが言ったら非難の的になるようなキザな言葉でも、彼が言うと様になる。

「どうかしましたか?」

「い、いえ! なんでもないです。
 あなたの名前を聞かせてもらってもいいですか?」

「ああ、申し訳ありません。女性にだけ名乗らせておくなんて、失礼にもほどがありますね。

 私はエルンスト・ブランシュ。私も怪しい者ではありませんよ」

 ふふふっと笑われる。
 やっぱり、彼も私が言った『怪しい者じゃない』って言葉に引っかかってたんだ。

「もう、からかわないでくださいっ」

 恥ずかしいっ。でも、笑ってくれているところを見ると、私のことを不審者だとまでは思っていなさそう。
 おかしな子、とは思われてるかもしれないけど……。

 私は気をとり直して、彼と木の間の前に向き合うように立って、枝に手を伸ばす。
 枝に絡まった彼の銀髪に触れると、その感触に驚いた。

 何これ! これが男の人の髪だなんて信じられない!
 サラサラ滑らか。傷んでない証拠に、陽が当っている箇所が光の帯になる。

「どうかしましたか?」

「綺麗だなぁって……あっ、ごめんなさい」

 髪を持って動かない私に、不思議そうにエルンストが聞いてきたので、正直に答えてしまってから慌てた。

 男の人に綺麗って、嫌がるかもしれないもん。

「そう言ってもらえて光栄です。
 毎日手入れは欠かさず行っているんですよ。

 昔から髪が長かったもので、こちらの方が落ち着くんです。
 よく、同僚からは男が髪を伸ばすなんて気持ち悪いから切れと言われますけどね」

「そんなことないです。凄く綺麗で羨ましいくらい。
 切るなんてもったいない!」

 全力で首を横にブンブンと振ると(エルンストには見えてないけど)、何となくの雰囲気は伝わったのか、くすりと笑った。

「ありがとうございます。
 そこまで真剣に言っていただけたのは、アイリが初めてですよ。
 同僚からの切れ!の催促にも、アイリのおかげで自信を持って断ることができそうです」

「そうですよ、切らないで下さいね! 私、ブランシュさんはこっちの方が絶対に似合うと思うもん」

「私のことはどうぞエルンストと呼んでください」

「えっ?」

「私もアイリと呼ばせていただきたいので、おあいこです」

「で、でも……」

 なんだろう、エルンストは「ブランシュさん」って感じがする。
 咄嗟になんでだか自分でも分からない。
 だって、ルークもセシリアもエリウスも呼び捨てにしてるのに、今さらって感じでしょ?
 ルークなんて魔王さまなのにね。

 ちょっと考えて見て、先生とかそんな感じに一番近いのかなって思った。
 物腰が柔らかくって、少し会話しただけだけど、話し方がすごい上手。惹きこむ力っていうか、初対面ってのを感じさせないくらい、言葉のキャッチボールができてる。
 それは、エルンストが私がうまく返せる言葉を投げかけてきてくれるからだ。

 誑しの才能なのかもしれないけど。
 絶対、女子にモテモテだよね。気づかないでやってるんなら、忠告してあげないとって心配になっちゃう。

「それとも、お願いしないと呼んでいただけませんか?」

「そ、そんなことないよ! 友達になれたみたいで嬉しい。
 ありがと、エルンスト!」

「友達……」

 友達って私の言葉に引っかかったみたいなので、どきっとした。初対面なのに、馴れ馴れしいと思われたかな。

「あっ、ごめんなさい。年下にそんな風に言われたら、気分を悪くしますよね。忘れてください」

 だけど、エルンストは首を横に振った。その顔は笑っていた。

「そんなことを言われるのも久しぶりです。
 私の周りには上司と同僚と部下しかいませんから、アイリが友達になってくれたら嬉しいです。
 アイリは、人を喜ばせるのが上手なんですね」

「じょ、上手なんかじゃないよ。
 エルンストのほうが、私の何万倍も上手だもん。
 私も友達ができてすごい嬉しい」

 二人で笑い合う。
 なんかいいな、こういうの。
 男女の間で友情は成立するのかって、よくテレビとかのテーマで出たりするけど、私はあると思う。
 性別が違ったら、必ず恋愛感情が発生するなんて、それじゃあ、男子とは気楽に遊んだりできなくなっちゃう。
 会話や趣味を一緒に楽しんだりする相手が、たまたま女子じゃなくて男子だってだけでしょ?

 でも、エルンストの話の内容がちょっと気になる。

 上司はともかく、同僚とか部下って仕事ではそうかもしれないけど、プライベートで友達じゃないのかな?
 バイトとかしてる子いるけど、今度先輩と遊びに行くんだ、とかって話よく聞くよ?
 私はまだバイトしたことないから、よく分からないんだけどね。
 エルンストは、実は上下関係に厳しいんだろうか。そんな感じには見えないんだけどな。
 きっと、何か理由があるんだろう。いずれそういうのも話し会える関係になれたらいいな。

 会話がいい感じに途切れたので、私はエルンストの髪を解く作業を始めた。
 うっ。これ、想像以上に難しいかも。
 枝にグルグルに絡みついてる。
 自分の髪だったら、途中でいーってなって、ちょっとくらい別にいいや、ってハサミで切るレベルだ。
 もちろん人の髪だし、綺麗だからそんなもったいないことしないけど。

 ああでもないこうでもないと、あやとりみたいなことをしていると、

「アイリ、難しかったら切ってくれて構いませんよ?」

 簡単には外れない雰囲気を察したのか、私を気づかってエルンストは言ってくれる。
 でも、自分が言い出したことだし、ちょっとずつ解けばいつかは外れそう。
 時間はかかるかもしれないけど。

「……だ、大丈夫、です」

 ううっ、全然大丈夫って感じじゃない返事をしてしまった。細かい作業って苦手なんだよね。
 でも、ここはやり遂げなくっちゃいけない!

 目の前の髪と格闘していると、どこかから笑い声が聞こえてきた。
 どこからしてるんだろうと顔を上げると、エルンストの肩が不自然に震えていて、見ればクスクスと笑っていた。
 えっ、なんで笑われてるの?

「エルンスト?」

 私が下手すぎて笑けてきたのかな。
 あっ、ちょっとそれ傷つく。
 私が名前を呼ぶと、エルンストはすみませんと、謝って、

「少し髪の話をしただけなのに、丁寧に扱ってくれているのが伝わってきて、つい。
 アイリは純粋で可愛らしいですね。

 ーーアイリみたいな人だったら、私も賛成できるんですけどね」

 可愛いと言われて、恥ずかしさに顔を赤くしたけど、最後の一言は私のことじゃないみたい。
 疑問が伝わったのか、エルンストは少し気まずそうに言った。

「あなたが目の前にいるのに、仕事の愚痴を漏らすなんていけませんね。
 アイリといると、まるで心の鍵を外されたように油断してしまうから困ります」

 そう言って、エルンストは照れたように笑う。

 うわー、殺し文句だ! 
 なんでこんなにサラッとキザなことが言えるかな。エルンストが言うとカッコよすぎて、こっちが困るよ!

 絶対、他の女子が聞いたら私のこと好きなんだって勘違いしちゃう。

 ドキドキする気持ちを抑えながら、その仕事のことを聞いた。

「そう言えば、エルンストってどんな仕事をしてるの?
 王城にいるってことは、ここで働いてるんだよね」

「そうです。
 私の仕事は一言で言えば、兵士というところでしょうか。敵と戦うことが仕事です」

「えっ? 兵士?」

 ドキドキしてた気持ちが一気に引いた。
 失礼だとわかってても、ついエルンストの身体を見てしまう。
 
 ローブっていうのかな、ゆったりとしたワンピースみたいなのを着ている。
 足にはズボンを履いてるけど、脚の線が出る密着性のあるものだから、女性並みに脚が細いのがよくわかる。
 座ってるからはっきりとはいえないけど、たぶん身長は175センチくらいあるんじゃないかな。
 でも絶対、その身長の平均体重には届いていない。

 剣より楽器のほうが断然似合う。
 兵士と言われるより、音楽家だと言われたほうがよっぽどしっくりくる体型をしていた。

 それに何より。

 ーー目が見えてないもん。

 それは戦うには致命的な欠点のように思えた。だって、見えないのに向かってくる敵とどう戦うというのか。
 私の脳裏に、エルンストが剣も振るえずに、敵に倒される姿が浮かんだ。
 危険すぎる。

「目が見えてないのに、って思いましたか?」

「!」

 まさにそう思っていたときに、エルンストに指摘されて、思わず言葉をつまらせた。
 図星だと思わせたらダメだって思うのに、適当な言葉が出てこない。

「……ご、ごめんなさいっ!」

 私は頭を下げた。
 謝られたら、余計にエルンストを傷つけるんじゃないかと思うけど、他にどうすればいいのかわからなかった。
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