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05 慟哭
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それから僕は貪欲に雅彦さんを求めた。男を欲する本能の強さが母譲りのものであったのなら納得がいったし、性を開花させられた悦びで他のことなどどうでもよくなった。
ただ、勉強だけはしっかりしろと雅彦さんに言われたので、それだけは守った。夏が終わり秋になり冬を迎え、僕の成績は安定していた。
雅彦さんの持つありとあらゆる技術を僕はものにして彼を驚かせた。雅彦さんといる時の僕は理性をかなぐり捨てたただの雄で、どんな求めにも応じたし自分からねだった。
「美月くんはほんまにええ子やなぁ……」
そうやって行為の後に髪を撫でられるのが好きだった。美容院に行く金も出してくれたので、僕の金髪は艶々だった。
男と、しかも母の元愛人と恋仲になっていることなど誰にも言えなかった。それがかえって僕の心に火をつけた。
高校で、クラスの奴らと他愛もない話、それこそ恋愛の話なんかになると、僕は心の中で笑った。誰からも愛されるこの姫は中年のオッサンの手によって深いところまで汚されている、その事実がわかれば皆はどんな目で僕のことを見るようになるのだろうか。
そして、文化祭でミスコンが行われた。うちのクラスでは僕が出させられた。黒いドレスを身にまとい金髪を結い上げて壇上に立つ僕は、立派な女王様だった。女子生徒たちを大きく引き離して堂々の一位になった。
模試の判定も余裕。祖父母にも話をつけて、大学進学に向けて準備が整った。雅彦さんは僕の新居に通ってくれると言ってくれた。合格すれば今までよりも二人で過ごせる。勉強には一層身が入った。
クリスマスは一緒に居てくれなかった。娘と面会するのだという。僕はそれを知らされた時聞き分けのいいフリをしたが、当日はやるせなくて久しぶりにゲーセンに行った。
電子音にまみれ、格ゲーに没頭する男共を見ながら缶コーヒーを飲み、日付が変わったので外に出た。
サンタクロースが今ごろプレゼントを配っている頃か、僕のところには来たことないけど、と夜空を見上げた。紫煙をくゆらせ一人立ち尽くす僕はこの世に一人ぼっちになってしまったようで、たまらず雅彦さんに電話をかけた。
「雅彦さん……ごめん、寝てたよな……」
「うん……どうしたんや」
「僕のこと、好き?」
「ああ、好きやで」
「ありがとう、それだけ聞きたかった」
その言葉一つで何とか持ちこたえた。僕の寂しさが伝わったのだろう、次に会った時に雅彦さんはプレゼントをくれた。香水だった。高校二年生のガキがつけるには背伸びしているであろう上品な香りで、それから雅彦さんと会う日はそれをつけるようになった。
母は相変わらずだった。酔っぱらって僕に掴みかかってきたことがあったのでやり返した。母は僕よりももっと小柄だったから簡単なことだった。
「僕はもう出ていくからな。このアバズレ。お前のゆるゆるの股から生まれたと思うと吐き気するわ」
母はぐすぐすと泣いたが放っておいた。これでも僕が乳児の頃はきちんと世話をしてくれていたらしく、お宮参りの写真はあった。赤子の僕を抱いてすました顔をしている母は若くて美しかったけれど、見る影もないオバサンになってしまっていた。
それでも男が切れないのだから大したものだ。僕は女に欲情しない身体になっていたからよくわからなかったが、魔性のようなものがあったのだろう。
寒さが少しずつ和らいだ三月のことだった。いつものように僕は雅彦さんに甘え、四つん這いになって突かれて喘いだ。
「いくっ、いくっ」
何度も絶頂し頭の中はチカチカした。雅彦さんの太いものでないと僕は満足できない、そういう風にさせられていた。
「好き……雅彦さん……一生愛してる……」
終わってタバコを吸いながら、雅彦さんがこう言った。
「美月くん、おれが来るんはこれがもう最後や」
「どういうこと……?」
「転勤決まってん。あっちで新しい子探すわ。美月くんはもう用済み」
僕は一瞬言葉を失い、雅彦さんに言われたことを反すうし、焦った。
「えっ、そんな、待って」
「今まで散々ええ思いさせたったやろ。好きでもなかったけど好きって言ったった。そろそろ飽きてきたし、もう終わりや」
僕がしていたのは一方的な恋煩いだった。雅彦さんの心は最初から僕にはなかったのだ。僕は雅彦さんにすがりついた。
「嫌や、捨てんといて、僕のこと捨てんといて」
「鬱陶しいねん。このエロガキ。初々しさも無くなってもうたし、もう可愛ないわ」
僕は蹴られた。何度も蹴られた。こんな思いをするのなら優しくなどされたくなかった。雅彦さんの言葉を信じていた僕がバカだった。
雅彦さんが去ったリビングの床に長いこと転がっていた。よろよろとスマホを取り出して確認してみると、当然のように着信も連絡も拒否されていた。本当に終わってしまったのだと確信してじんわりと涙が流れ、僕は叫んだ。
「うわぁぁぁ……ああ……」
残されたのはセブンスターの香りだけ。雅彦さんは僕の前からいなくなった。永遠に。
ただ、勉強だけはしっかりしろと雅彦さんに言われたので、それだけは守った。夏が終わり秋になり冬を迎え、僕の成績は安定していた。
雅彦さんの持つありとあらゆる技術を僕はものにして彼を驚かせた。雅彦さんといる時の僕は理性をかなぐり捨てたただの雄で、どんな求めにも応じたし自分からねだった。
「美月くんはほんまにええ子やなぁ……」
そうやって行為の後に髪を撫でられるのが好きだった。美容院に行く金も出してくれたので、僕の金髪は艶々だった。
男と、しかも母の元愛人と恋仲になっていることなど誰にも言えなかった。それがかえって僕の心に火をつけた。
高校で、クラスの奴らと他愛もない話、それこそ恋愛の話なんかになると、僕は心の中で笑った。誰からも愛されるこの姫は中年のオッサンの手によって深いところまで汚されている、その事実がわかれば皆はどんな目で僕のことを見るようになるのだろうか。
そして、文化祭でミスコンが行われた。うちのクラスでは僕が出させられた。黒いドレスを身にまとい金髪を結い上げて壇上に立つ僕は、立派な女王様だった。女子生徒たちを大きく引き離して堂々の一位になった。
模試の判定も余裕。祖父母にも話をつけて、大学進学に向けて準備が整った。雅彦さんは僕の新居に通ってくれると言ってくれた。合格すれば今までよりも二人で過ごせる。勉強には一層身が入った。
クリスマスは一緒に居てくれなかった。娘と面会するのだという。僕はそれを知らされた時聞き分けのいいフリをしたが、当日はやるせなくて久しぶりにゲーセンに行った。
電子音にまみれ、格ゲーに没頭する男共を見ながら缶コーヒーを飲み、日付が変わったので外に出た。
サンタクロースが今ごろプレゼントを配っている頃か、僕のところには来たことないけど、と夜空を見上げた。紫煙をくゆらせ一人立ち尽くす僕はこの世に一人ぼっちになってしまったようで、たまらず雅彦さんに電話をかけた。
「雅彦さん……ごめん、寝てたよな……」
「うん……どうしたんや」
「僕のこと、好き?」
「ああ、好きやで」
「ありがとう、それだけ聞きたかった」
その言葉一つで何とか持ちこたえた。僕の寂しさが伝わったのだろう、次に会った時に雅彦さんはプレゼントをくれた。香水だった。高校二年生のガキがつけるには背伸びしているであろう上品な香りで、それから雅彦さんと会う日はそれをつけるようになった。
母は相変わらずだった。酔っぱらって僕に掴みかかってきたことがあったのでやり返した。母は僕よりももっと小柄だったから簡単なことだった。
「僕はもう出ていくからな。このアバズレ。お前のゆるゆるの股から生まれたと思うと吐き気するわ」
母はぐすぐすと泣いたが放っておいた。これでも僕が乳児の頃はきちんと世話をしてくれていたらしく、お宮参りの写真はあった。赤子の僕を抱いてすました顔をしている母は若くて美しかったけれど、見る影もないオバサンになってしまっていた。
それでも男が切れないのだから大したものだ。僕は女に欲情しない身体になっていたからよくわからなかったが、魔性のようなものがあったのだろう。
寒さが少しずつ和らいだ三月のことだった。いつものように僕は雅彦さんに甘え、四つん這いになって突かれて喘いだ。
「いくっ、いくっ」
何度も絶頂し頭の中はチカチカした。雅彦さんの太いものでないと僕は満足できない、そういう風にさせられていた。
「好き……雅彦さん……一生愛してる……」
終わってタバコを吸いながら、雅彦さんがこう言った。
「美月くん、おれが来るんはこれがもう最後や」
「どういうこと……?」
「転勤決まってん。あっちで新しい子探すわ。美月くんはもう用済み」
僕は一瞬言葉を失い、雅彦さんに言われたことを反すうし、焦った。
「えっ、そんな、待って」
「今まで散々ええ思いさせたったやろ。好きでもなかったけど好きって言ったった。そろそろ飽きてきたし、もう終わりや」
僕がしていたのは一方的な恋煩いだった。雅彦さんの心は最初から僕にはなかったのだ。僕は雅彦さんにすがりついた。
「嫌や、捨てんといて、僕のこと捨てんといて」
「鬱陶しいねん。このエロガキ。初々しさも無くなってもうたし、もう可愛ないわ」
僕は蹴られた。何度も蹴られた。こんな思いをするのなら優しくなどされたくなかった。雅彦さんの言葉を信じていた僕がバカだった。
雅彦さんが去ったリビングの床に長いこと転がっていた。よろよろとスマホを取り出して確認してみると、当然のように着信も連絡も拒否されていた。本当に終わってしまったのだと確信してじんわりと涙が流れ、僕は叫んだ。
「うわぁぁぁ……ああ……」
残されたのはセブンスターの香りだけ。雅彦さんは僕の前からいなくなった。永遠に。
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