竜骸を繰るは福音の乙女

こりきさき

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穂村 咲夜 2

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「なんでもないよ、それよりほら。バタバタして朝ご飯食べられなかったでしょ?」


 なんでもないと言う言葉に安堵したのか、一息吐いてベンチに腰掛ける彼女に、鞄から取り出したアルミホイルの包みを3つ渡す。中身は起きない彼女を待つときに藤村家の台所を借りて作ったおにぎりだ。


「わっ!やった!いつもの奴?」

「そ、鮭と沢庵の混ぜご飯」


 鮭のほぐし身と刻んだ沢庵、ごまを混ぜて作ったおにぎり。大して手間のかかるものではないが、ミサの大のお気に入りだったりする。お弁当に何を入れてほしいか聞くと、高い頻度で入れて欲しいと言われる。


「ね!食べても良い?」

「しょうがないなぁ、もうすぐバス来ちゃうから1つだけにしときなよ?」


 満面の笑みに作った甲斐があったと嬉しくなるが、釘はちゃんと刺しておく。でないとバスの中でも脇目も振らずに貪るだろう。ミサはスタイルは良いが、これで結構食べる方だ。食べ盛りの男子と同じ寮をペロリと食べるくせに、無駄な贅肉は全く付かない。体重の100グラムに一喜一憂する女子からは嫉妬と羨望の目で見られているみたいだが、本人は一番付いて欲しい所にも肉が付かないと嘆いてるのを僕は知っている。どこの肉とは明言しないが、限り無く絶壁に近いが辛うじて丘陵はある。とだけ言っておく。どこがとは言わないが。


「はいはーい、わかってるわよーっと」


 早速食べ始めたミサの後ろにまわって、今度は鞄から櫛を取り出す。


「ほら、食べながらでいいから動かないで。今のうちに髪、梳かすだけしちゃうから」

「んー」


おにぎりを頬張るミサの髪を、毛先から順に丁寧に櫛を通す。所々髪が跳ね放題なのは、時間が無く寝癖すら禄に直さずに必需品だけ持って飛び出した結果だ。『まぁ、仮に時間があっても僕がやるのは変わらないんだけどね』
 不器用な ミサとその母である美雪さんに代わり、小さい頃から僕が彼女の髪を毎日せっとしてきたのだ。今ではそこいらの女子よりうまかったりする。中学の時はクラスの女子に頼まれることもちょくちょくあったりして、喜んでいいのか、今ではロープ編みのゆるふわポニーテールとかできる。

 余談だが、母さんと美雪さんが学生の頃は母さんが今の僕の様に美雪さんの髪を毎日セットしていたらしい。そんな二人は僕たちを見ていつも「あんたら若い頃の私達そっくりねぇ」「そうねぇ!二代目目美人姉妹よぉ!」と言っている。本人等曰わく、当時相当モテたらしく町一番の美少女だったらしいが、二代目と言われても全く嬉しくない。というか僕は男だぞ。確かに普通の男子に比べて少し、幾分か…いや、微妙に女顔なのは認めない事は無いこともないけれど、それでも姉妹のくくりはあんまりだと思う。

 髪を梳き終わると、程なくしてバスが来た。朝早い所為か乗客はまばらで5.6人しか乗ってない。いつもならすし詰め状態で滅多に席に座れないが、今日はそれも選び放題だ。少し得した気分になる。


「よっ!おはようお二人さん、相変わらず仲いーな!」


 後方の席にミサと座ると、後からバスに乗ってきた1人から茶化したような声がかかった。


「おはよう、元親(モトチカ)」

 鳴海 元親(ナルミ モトチカ)。クラスメイトの中でも特に気兼ねなく話せる友達だ。裏表の無い性格と物怖じしない明け透けな物言い。地毛が隔世遺伝の金髪で、それを黒く染めてる為、時間が経つと今の彼のように毛先が黒く、頭頂部が金の“逆プリン”の様な髪色になっている。その軽薄そうな性格と奇抜な頭髪のせいで周囲からチャラい認定を受けている彼だが、根は面倒見の良い真面目な奴だったりする。


「おはよう鳴海君、あなたも“相変わらず”騒がしいわね」


ミサが一瞬で外行き様の猫を被り、トゲトゲしく返す。
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みんなの感想(1件)

2017.03.01 ユーザー名の登録がありません

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2017.03.01 こりきさき

感想ありがとうございます!頑張ってモヤモヤしない読みやすいストレスフリーな作品にしてきます!

解除

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