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第一章
(1) その1-1
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夢だったら覚めないで欲しい。
愛子は強く思う。
そして、もう、この手を二度と離さない。
握られている手を強く握り返す。
思いを受けるように克也は、愛子の腕を引き寄せる
振り向いて克也は、愛子に向かって笑顔を見せる。
ああ……。間違いない。あの時の笑顔と一緒。
愛子も克也に向かって微笑み返す。
ふたりは綾女の家に向かって軽い足取りで走る。
あの時の思いを遂げるために。
――あの時も、こんないい天気だった。
学校から帰る途中に見つけたヒミツの場所。
愛子は雨が降っていない日には、必ずここに寄り道をしていた。
広々とした河原の端にひっそりと咲き誇っていた菜の花畑。
昔、この河原で菜の花を栽培し、菜種の油を作っていたと、地元に住んでいて、ある程度年齢が高い人であれば、誰でも知っていたことだった。
だが、地元のそういった言い伝えなどは住む人間が変わることによって淘汰されていくのが世の常で、ここに菜の花畑があったことを知っている人もこの界隈では、ほんの一部となっていた。
愛子にとっては、ワタシが見つけたヒミツの場所だったが、彼女の母親も父親も、この場所のことは知っていて、愛子の帰りが遅いと間違いなく、この河原にいるのが分かっていた。
この日も、愛子の帰りが遅いので、母親が河原まで迎えに来ていた。
「愛子ー、そろそろ日が暮れるから、帰るよー」
母親が愛子に呼びかける。
「うん、もうちょっとー!」
「これから買い物行くんだけど、愛子の好きなもの、早くしないと買ってあげないよ」
「えー、やだーっ!」
「じゃ、早く上がってきなさい」
愛子はワンピースの裾をポンポンっとはたくと、母親のもとに駆けていく。その時、
河原の堤防に沿って作られた道路を、一台の軽自動車が走っていくのが、愛子の目に見えた。
――克也は、ウンザリしながら車の外を見ていた。
もう何度目の引っ越しなんだろう。せっかく、兄やんと、ユウ姉と仲良くなって、これからもたくさん遊べるって思っていたのに……。
それから、あのお姉さんとも……。
そこで「あること」を思い出した克也は、思わず股間を両手で押さえる。
「ん? 克也? トイレか?」
運転していた父親が克也に声を掛ける。
克也はかぶりをふって、違うことを意思表示する。
「ん、この辺りだと車止める場所ないから、早めに言うんだぞ」
克也はコクリと頷いて、再び車から外を眺める。
大きな川に沿ってずっと車は走ってきていた。同じような景色にウンザリしていたところだったが、突然克也は身を乗り出して、一点を凝視し始める。
「克也? 危ないからちゃんと座ってなさい」
母親が促す声も聞こえなかったのか、克也はある一点だけを見つめていた。
「あの子……、ユウ姉に似てる」
克也が見ていたのは、別れたばかりのユウ姉に似た、白いワンピースがよく似合う、ツインテールの女の子が、黄色い花に囲まれて楽しそうに遊んでいる姿であった。
「またあえるかな……」
女の子の姿が見えなくなると、克也はつぶやきながら、車のシートに座り直す。
克也の淡い希望は、数日もしないうちに叶うことになる。
愛子は強く思う。
そして、もう、この手を二度と離さない。
握られている手を強く握り返す。
思いを受けるように克也は、愛子の腕を引き寄せる
振り向いて克也は、愛子に向かって笑顔を見せる。
ああ……。間違いない。あの時の笑顔と一緒。
愛子も克也に向かって微笑み返す。
ふたりは綾女の家に向かって軽い足取りで走る。
あの時の思いを遂げるために。
――あの時も、こんないい天気だった。
学校から帰る途中に見つけたヒミツの場所。
愛子は雨が降っていない日には、必ずここに寄り道をしていた。
広々とした河原の端にひっそりと咲き誇っていた菜の花畑。
昔、この河原で菜の花を栽培し、菜種の油を作っていたと、地元に住んでいて、ある程度年齢が高い人であれば、誰でも知っていたことだった。
だが、地元のそういった言い伝えなどは住む人間が変わることによって淘汰されていくのが世の常で、ここに菜の花畑があったことを知っている人もこの界隈では、ほんの一部となっていた。
愛子にとっては、ワタシが見つけたヒミツの場所だったが、彼女の母親も父親も、この場所のことは知っていて、愛子の帰りが遅いと間違いなく、この河原にいるのが分かっていた。
この日も、愛子の帰りが遅いので、母親が河原まで迎えに来ていた。
「愛子ー、そろそろ日が暮れるから、帰るよー」
母親が愛子に呼びかける。
「うん、もうちょっとー!」
「これから買い物行くんだけど、愛子の好きなもの、早くしないと買ってあげないよ」
「えー、やだーっ!」
「じゃ、早く上がってきなさい」
愛子はワンピースの裾をポンポンっとはたくと、母親のもとに駆けていく。その時、
河原の堤防に沿って作られた道路を、一台の軽自動車が走っていくのが、愛子の目に見えた。
――克也は、ウンザリしながら車の外を見ていた。
もう何度目の引っ越しなんだろう。せっかく、兄やんと、ユウ姉と仲良くなって、これからもたくさん遊べるって思っていたのに……。
それから、あのお姉さんとも……。
そこで「あること」を思い出した克也は、思わず股間を両手で押さえる。
「ん? 克也? トイレか?」
運転していた父親が克也に声を掛ける。
克也はかぶりをふって、違うことを意思表示する。
「ん、この辺りだと車止める場所ないから、早めに言うんだぞ」
克也はコクリと頷いて、再び車から外を眺める。
大きな川に沿ってずっと車は走ってきていた。同じような景色にウンザリしていたところだったが、突然克也は身を乗り出して、一点を凝視し始める。
「克也? 危ないからちゃんと座ってなさい」
母親が促す声も聞こえなかったのか、克也はある一点だけを見つめていた。
「あの子……、ユウ姉に似てる」
克也が見ていたのは、別れたばかりのユウ姉に似た、白いワンピースがよく似合う、ツインテールの女の子が、黄色い花に囲まれて楽しそうに遊んでいる姿であった。
「またあえるかな……」
女の子の姿が見えなくなると、克也はつぶやきながら、車のシートに座り直す。
克也の淡い希望は、数日もしないうちに叶うことになる。
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