別れることになっても愛があれば逢えるんだよっ

うさみあきら

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第一章

(4) その2-2

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 それから数日過ぎた、ある日の夜のことだった。

「えっ」

 克也は父親と母親が話している会話を、寝室で寝るふりをして聞いてしまった。

 会社から再び人事異動の話が出て、引っ越しをしなければいけない。少なくとも一ヶ月以内。ここに引っ越してきてまだ三ヶ月も経っていないのに……。

 何度も引っ越しを繰り返し、その度に悲しい思いをしてきた克也は、引っ越しというコトバに敏感になっていた。

『また引っ越すんだ……。愛子ちゃんと別れることになる……』

 克也は布団から飛び出して父親に当たりたい衝動に駆られる。しかし、引っ越さなければいけないオトナの事情があることも、克也は子供心ながらに理解していた。
 いつも父親が、すまない、すまない。と何度も母親と克也に頭を下げては引っ越しをしてきた。そんな経緯がある。

 克也はこの夜、ひとりで枕を濡らしていた。


 翌日の下校時、克也が元気が無いのを、いつものように一緒に帰っていた愛子は心配する。

「克也くん、どうしたの? お腹痛いの?」

「ううん、おなかは大丈夫。あのね……」

 克也はたまらず、愛子に、引っ越すかも知れないことを伝える。

「えっ……、克也くん、いなくなっちゃうの?」

 愛子は目を大きく見開く。克也が悲しい目をしてコクリと頷くと、愛子の目から涙がぽろぽろとこぼれ始める。

「やだっ……。かつやくん、行っちゃヤダ……っ……」

 その場で愛子はわんわんと泣き出す。克也も愛子につられて泣き出してしまう。

 そこに、店に行こうとしていた綾香が通りかかる。何事とばかりにふたりに駆け寄って、しゃがみ込む。

「ど、どうしたの? ふたりとも」

「うわーん、克也くん、言っちゃヤダーっ!」

「僕もっ、もう引っ越ししたくないっ……」

 綾香はふたりの肩を抱きよせ、頭をなでながらなだめる。それから二人の手を引いて、愛子の店に何とか辿り着く。

「まぁっ、どうしたの? 愛子、それに、克也くんも……」

 愛子の母が出てきて、泣きじゃくりながら、綾香に手を引かれて来る姿にビックリする。

「私もまだ、よくわかんないんだけど……、どうやら、克也くん、また引っ越すことになるらしくて……」

 綾香は困惑した顔で、帰り道で二人が大声で泣いていたことを愛子の母に伝える。

「えっ? そうなの?」

 母親はびっくりして克也を見る。克也は泣きながらコクリと頷く。

「まだ、引っ越してきて、半年も経ってないのに……。そんな……」

 母親も目を潤ませて、二人を見る。

「克也くんのお家がかなり特殊で、これまでも、何回も、引っ越しを繰り返してきたんです。それは知っていたんですが、今回は私、当事者になっちゃったな……」

 綾女も悲しい目をして、ふたりが泣くのをなだめる。

「あとで、克也くんのお母さんに、詳しく聞いてみるわ。愛子、克也くん、とりあえずお家に入りなさい。」

 母親はふたりを店の奥の家の中へと促す。綾香は二人の手を引いて、猪野家の中へと入っていくのだった。

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