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第一章
(3) その2-1
しおりを挟むそれから同じ学校に通うことになった愛子と克也は、登下校も毎日一緒にするようになり、学校から帰ってきて早々に愛子の生花店で過ごしたり、近くの公園に遊びに行ったりするようになっていた。
ある日の下校時、愛子は寄り道をして、克也を河原のほとりにある「ヒミツの場所」へと案内する。
「きれい……」
鮮やかに黄色い花を咲き誇らせ、菜の花の群れが、小さなふたりを包み込む。
「ふふっ、克也くんも気に入った?」
「うん。すごいねー」
「ワタシの、ヒミツの場所だよっ」
「ヒミツ?」
「うん」
克也は、ヒミツという言葉に反応し、顔を赤くしてしまった。
「克也くん?」
棒立ちになって顔を赤くしてうつむいている克也の反応が不思議で、愛子は克也の顔を下から覗き込む。
「どうしたの?」
克也は、愛子が、ヒミツというコトバに秘められた意味を知らないのだということに気がついた。
「ね、ねぇ、愛子ちゃん」
「なに?」
「ヒミツって、どういうコトすることか知ってる?」
「んー……、ナイショのこと?」
「うん……、そうなんだけど、もっと……、ハズカシイコトすることだよっ」
「ハズカシイコト?」
克也の頭には、お姉さんが教えてくれた、「ヒミツ」のことしか頭に浮かんでいなかった。
「どんなコト?」
純粋な目で克也の目を覗き込んで答えを求める愛子。克也は顔を真赤にしながら答える。
「ハダカになって……、くっつきあったり……」
「えっ? どうしてハダカになるの?」
愛子の純粋無垢な質問に克也は戸惑いながらも正直に答える。
「ハダカで、くっつくと、キモチイイんだよっ」
「うーん……、良くわかんないけど、そうなんだっ。ね、克也くんは、ヒミツのこと、したいの?」
克也はさらに顔を真赤にして、コクリと頷く。
「うーん、でも、お外でハダカになるのは寒いし、恥ずかしいからなぁ……」
愛子は、克也の求めに応じようと小さな頭を巡らせる。
「あ、愛子ちゃん」
「ん?」
「ハダカにならなくても、ヒミツのこと、できるよ」
克也はお姉さんに教えてもらった、「服を着ててもできるヒミツ」のことを思い出す。
「でも、これは、大好きな人にしか、やっちゃダメなんだって」
「そっかぁー」
愛子は克也の目を見て、満面の笑みで素直なコトバを紡ぐ。
「ワタシ、克也くんのこと、だーいすきっ!」
克也も、愛子の思いに応えるように、素直なコトバを吐き出す。
「ほ、ボクも、愛子ちゃんのこと、大好きだよっ!」
克也は思い切って、自分の気持を吐露して、愛子との距離を縮めると、両手でその小さな身体を抱きしめる。愛子は、克也の思いも付かない行動にビックリする。
「か、カツヤくん?」
「愛子ちゃんっ!」
それから克也は、お姉さんに教えてもらった、唇を唇で重ね合わせるコト。それを愛子にぎこちなくする。
「ん……、んむぅ……」
愛子はびっくりしながらも、必死な克也の動作を受け入れる。
『カツヤくん、ワタシのこと、こんなに好きなんだっ!』
愛子も重ねた唇をぎゅっと押し付ける。思わぬ愛子の反応に克也はびっくりして、バランスを崩し、後ろに倒れ込んでしまう。菜の花の群れがクッションになって克也の背中を支え、ふわっと黄色い花びらが方々に舞い上がる。愛子も克也と一緒にぽふっと倒れ込んで、克也を押し倒すような形になる。
「わぁっ……、きれいっ!」
愛子は舞い上がった黄色い花びらが、ひらひらと落ちる様子に見とれていた。それから、克也に向かって笑顔で言う。
「ふふっ、ヒミツのこと、しちゃったねっ!」
克也は一瞬キョトンとしていたが、愛子につられて、笑顔を返していた。
「ふふっ、ヒミツっ、克也くんと、ふたりだけのヒミツだよっ」
愛子はとても嬉しそうに、克也の手をとってブンブン振り回す。克也も愛子の笑顔を見て嬉しくなる。と同時に、このままこの手を離したくないという衝動にも駆られていた。
そうしてふたりが笑い合っていると、愛子の母親がいつものように迎えに来る。
「愛子ーっ、克也くーん、買い物に行くから上がってきなさーい!」
「はーいっ!」
ふたりは体を起こして立ち上がると、ポンポンっと、お互いの体についた花びらや土埃を払い合って、愛子の母親のもとに駆けていくのだった。
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