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#01 幻
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──此の世の。
それが何なのかは分からない。いつも決まった時間に病室の前を通る。巡回の看護師ではない。時間も違うし、実際訊いたらその時間の巡回は無いと言っていた。短い時間だし、然程不快でも大きな足音でもない。精神科の性質上、患者が歩いている可能性もあった。しかし、長く入院している男性によれば一度だけ実害があったらしい。気にしなければ気付きもしない事の方が多いらしいが、一人だけ俺のように気になってしまう奴がいたそうだ。決まった時間に通るのだから確認するのは簡単だ。その時間に廊下に出れば良い。
「結果は?」
男性は首を横に振った。悪い結果になってしまったらしい。
「私も起きていましたが、彼が扉を開ける音以外は聞こえませんでした。襲う音どころか倒れる音さえ聞こえなかったのですが、巡回に来た看護師さんが見付けた時には。」
男性は窓辺のベッドを見た。その犠牲者が使っていたベッドらしい。
「貴方はどうなさいますか?」
妙な感覚があった。部屋の温度も変わったような気がする。この男性は何かを知っている。けれど、止そう。退院すればそれで終わる話だ。医者は一月程度と言っていた。果たして、俺はこの好奇心に打ち勝てるだろうか。
病室。夜中に目が覚めた。時計についたライトのボタンを押す。午前二時四十二分。禁止されている訳ではないが、食堂に行く様な時間ではない。そう思っているとカーテンが揺れた。巡回の看護師が来たらしい。
「あら、眠れませんか?」
もう少し早い時間なら睡眠薬を貰えたのだが、この時間では貰えない。
「ええ、まぁ、仕方ないですよね。」
「そうですねぇ、もう少し早ければお薬も出せたのですが。」
他愛の無い話をして看護師は去って行った。溜め息を吐きながら天井を見上げる。周りに気を使う小声の会話は意外と頭を回してしまうらしい。眠れない。もう一度時間を確認する。午前二時四十二分。目を疑った瞬間、またカーテンが揺れて同じ顔の看護師が現れた。壊れていたのは時計か、時間の方か、未だにはっきりとしない。
「おっと。」
東校舎の端にある木製の階段。放課後に通ると必ず最後の一歩でつんのめる。
「あら、また? 大丈夫?」
友人が心配してくれる。原因は分かり切っていた。一段足りない。他の時間帯にはある筈の最後の一段が、その時間帯にだけ無い。
朝になると食堂に数社分の新聞が届く。一日遅れだが、娯楽の少ない入院生活では有り難い。
その日も退屈を持て余して新聞を捲っていた。新型の流行り病。飛び交うミサイル。国のトップの交代に南で発生した大型の台風も、隔離されたこの場所ではまるで関係の無い、薄い文字の羅列としか思えなかった。ふと、ページ数が目についた。さして厚くない新聞だ、多くても二桁の筈のその数字が三桁あった。黒いインクで印刷されている筈の色も赤だった。三一四。顔を顰め、目を擦っている間に二桁の黒い数字に戻っていた。
その日の昼、急変を起こして亡くなった患者が出た。ここでは珍しい事ではないらしいが、三一四号室。同じ数字だ。流石に気になる。怖くもなった。もう一度見た新聞の中ほど、同じように赤いインクで記されていた数字は、俺の病室のものだった。
異世界に行く方法。誰もが一度は考え、実行した奴も居るかも知れない。調べれば方法は様々。道具を使ったり、特定の時間に決められた場所に行く。中には飛び降りるなんて過激なものもあった。その中にエレベーターを使うものがあった。手順の前後はあるが、大筋は同じだ。夜に一人で行う事。誰にも会ってはいけない事。成功例は聞いた事が無い。当たり前か。異世界に行く方法は書かれていても、戻る方法の記述は殆ど無い。仮に「行って戻って来た。」と言っても与太話として片付けられる。
夏も終わりに近付いた頃、暇を持て余した俺はそれを試す事にした。エレベーターは意外と音が大きい。真夜中に動かせば怪しまれる上に迷惑だ。時間はかなり限定されるし、曜日によって人の出入りは変わる。本当に異世界に行きたいのではなく、こうやって調べている時間を愉しんでいるのかもしれない。思いながら計画を立てる。平日の午後十時からの三十分。人の出入りは少なく、ぎりぎり自然と言える時間帯だ。エレベーターに乗り込み、ボタンを操作する。何度か昇降を繰り返し、成功すれば途中で赤い服の女が乗って来て、次の階で降りる。その女は閉まる扉の越しに振り返り、「さようなら。」と言った。一度上昇したエレベーターの中に雷鳴の様な音が響いた。鉄の箱が落下を始める。止める術は、どうやらありそうにない。
その病院のほぼ中央には吹き抜けがある。光を取り込むためらしく、コンクリートに囲まれた外にあって各階に大きな窓がある。排水溝はあるが扉は無い。メンテや掃除は一階の窓から入る以外になさそうだ。
ある日、同じ病室の患者がその場所に立っていた。不可能ではないが、意味もない。何かをするような場所ではないし、物を落とすなんて事も無いだろう。そもそも各階の窓が開いているところなんて見た事がない。そして、見慣れない青い扉があった。錆は無く、手垢の一つも無さそうだ。ドアノブも無かった。それでも扉は開いた。一階のどこかへ続いているのだろうか。それにしては妙に明るい。男性はふらふらとその光の中へ消えて行った。
病室に戻ると、その男性の居た痕跡が綺麗になくなっていた。リネンの剥がされたベッドに、空の棚。名札も無い。看護師に訊いてもそんな患者は居ないと言われた。初めから居なかったのか、それとも本当に消えてしまったのか、今となっては確認する事さえできない。ただ、俺の記憶の中には確実にその男性は存在していた。
ダイニングと和室が並んでいる。どちらにもベランダに続くガラス戸があるが、和室だけ二枚戸になっている。外側は普通のガラス戸。内側はすりガラスになっていた。妙なのはすりガラスについている鍵だ。一般的な形状ではあるが、何かが貼ってある。白いテープで、読み難いが開放厳禁と書いてある。ロック部を隠す様に貼ってあり、取っ手部分は針金が巻かれていた。流石に怪し過ぎると大家に言ったが、二十四時間換気で開ける必要は無いし、ダイニングから出れるから問題無いと言われた。立地の利便性や築年数からすれば格安だし、選り好みをしている余裕もなかった。契約して家具を運び、生活が整うとさして気にもならなくなった。パソコンを弄りながらビールを呑む。久々の連休だ。防音性も悪くないし、暇な奴を呼んでも良いかも知れない。
何時だろう。流石に和室で寝る気にはならず、もう一つあった洋間にベッドを入れた。和室の反対側、廊下側にあるから音や光が気になるかと思ったが、それ程ではなかった。それでも目が覚めた。まだ慣れていない所為だろうか。安酒を呑み過ぎた所為か。何れ目を閉じていれば眠れるだろう。そう思っていると音が聞こえた。遠い。何かを叩く音だ。もう夢の中なのだろうか。呆けているうちに朝になっていた。
よく晴れていた。遅めの朝食を済ませて洗い物をしながら思い出した。あの音は何だったのだろう。ケトルでお湯を沸かす間にベランダに出てみた。エアコンの室外機があるだけだ。和室のガラス戸の前に立ってみる。ガラス戸は綺麗で、すりガラスのお陰で中は見えない。何も無い、と思いかけて見付けた。ガラス戸の下に毛髪が落ちていた。クリーニングは入室の直前にしたと言っていたが、風で飛んで来たのか、その後に落ちたのか、気にするような量ではないか。
昼過ぎに友人が二人捕まった。待ち合わせて遊びに出て夕飯を済ませるととっぷりと日が暮れた。呑み屋を探しても良かったが、俺の家が近い。結局適当に買い物をして部屋で呑む事になった。
「へぇ、随分綺麗じゃん。これで三万?」
「風呂は狭いなー、あ、追い炊きついてる。」
物色する二人を横目にダイニングに席を作る。
「あれ? 何これ?」
友人があのテープに気付いた。
「さぁ? 換気は充分できてるから開ける必要もないんだとさ。」
「ふぅん。」
呑み始めれば話題にも上らなくなった。他愛の無い話をしながら呑んだ。深い時間になると一人は奥さんが迎えに来てくれて帰った。後で何か買わせられるんだろうな。それならタクシーの方が安いと思うが、他人の家の事情か。もう一人は泊まって行く事になった。シャワーを浴びて俺は洋間のベッドに、友人は和室の来客用の布団で眠った。
どれ位経ったのか、カーテンの隙間から廊下を照らすオレンジ色の光が見える。まだ夜は明けていないらしい。もう一眠りしよう。寝返りを打つと慌てたような足音が聞こえた。扉が開く。
「起きてくれ!」
友人だった。かなり顔色が悪い。
「何だよ、今何時だ?」
「いいから、来てくれよ!」
台所、ダイニング、順に抜ける間に気付いた。音がする。昨日とは違う。ぺたぺたという、手の平で軽くガラス戸を叩くような音。僅かに水音も混じっている。和室の戸を引く。外から街灯の光を受けているすりガラスが赤い。咄嗟に布団を抱えた。
「来い!」
戸を閉めて洋間に転がり込んだ。
「おい、何だよあれ。」
「知るか。お前もここで寝ろ。」
「言われなくてもそうするってば。」
そう言ったところで眠れる筈もない。二人でぽつりぽつりと言葉を交わしながら朝を待った。
夜が明けても朝食を済ませるまで友人は残ってくれた。
「お祓いして貰え。」
そう言い残して帰って行った。
その後ベランダに回ってみたが、変わった様子はない。ただ、毛髪が増えているように見える。和室に戻り、眺める。開放厳禁。テープに手をかける。ゆっくり剥がしかけて、すぐに戻した。ただのテープではなかった。裏側にびっしりと文字とも模様とも言えない物が書きつけられていた。
「やっぱお祓い頼むか。」
小さく呟いた。
それが何なのかは分からない。いつも決まった時間に病室の前を通る。巡回の看護師ではない。時間も違うし、実際訊いたらその時間の巡回は無いと言っていた。短い時間だし、然程不快でも大きな足音でもない。精神科の性質上、患者が歩いている可能性もあった。しかし、長く入院している男性によれば一度だけ実害があったらしい。気にしなければ気付きもしない事の方が多いらしいが、一人だけ俺のように気になってしまう奴がいたそうだ。決まった時間に通るのだから確認するのは簡単だ。その時間に廊下に出れば良い。
「結果は?」
男性は首を横に振った。悪い結果になってしまったらしい。
「私も起きていましたが、彼が扉を開ける音以外は聞こえませんでした。襲う音どころか倒れる音さえ聞こえなかったのですが、巡回に来た看護師さんが見付けた時には。」
男性は窓辺のベッドを見た。その犠牲者が使っていたベッドらしい。
「貴方はどうなさいますか?」
妙な感覚があった。部屋の温度も変わったような気がする。この男性は何かを知っている。けれど、止そう。退院すればそれで終わる話だ。医者は一月程度と言っていた。果たして、俺はこの好奇心に打ち勝てるだろうか。
病室。夜中に目が覚めた。時計についたライトのボタンを押す。午前二時四十二分。禁止されている訳ではないが、食堂に行く様な時間ではない。そう思っているとカーテンが揺れた。巡回の看護師が来たらしい。
「あら、眠れませんか?」
もう少し早い時間なら睡眠薬を貰えたのだが、この時間では貰えない。
「ええ、まぁ、仕方ないですよね。」
「そうですねぇ、もう少し早ければお薬も出せたのですが。」
他愛の無い話をして看護師は去って行った。溜め息を吐きながら天井を見上げる。周りに気を使う小声の会話は意外と頭を回してしまうらしい。眠れない。もう一度時間を確認する。午前二時四十二分。目を疑った瞬間、またカーテンが揺れて同じ顔の看護師が現れた。壊れていたのは時計か、時間の方か、未だにはっきりとしない。
「おっと。」
東校舎の端にある木製の階段。放課後に通ると必ず最後の一歩でつんのめる。
「あら、また? 大丈夫?」
友人が心配してくれる。原因は分かり切っていた。一段足りない。他の時間帯にはある筈の最後の一段が、その時間帯にだけ無い。
朝になると食堂に数社分の新聞が届く。一日遅れだが、娯楽の少ない入院生活では有り難い。
その日も退屈を持て余して新聞を捲っていた。新型の流行り病。飛び交うミサイル。国のトップの交代に南で発生した大型の台風も、隔離されたこの場所ではまるで関係の無い、薄い文字の羅列としか思えなかった。ふと、ページ数が目についた。さして厚くない新聞だ、多くても二桁の筈のその数字が三桁あった。黒いインクで印刷されている筈の色も赤だった。三一四。顔を顰め、目を擦っている間に二桁の黒い数字に戻っていた。
その日の昼、急変を起こして亡くなった患者が出た。ここでは珍しい事ではないらしいが、三一四号室。同じ数字だ。流石に気になる。怖くもなった。もう一度見た新聞の中ほど、同じように赤いインクで記されていた数字は、俺の病室のものだった。
異世界に行く方法。誰もが一度は考え、実行した奴も居るかも知れない。調べれば方法は様々。道具を使ったり、特定の時間に決められた場所に行く。中には飛び降りるなんて過激なものもあった。その中にエレベーターを使うものがあった。手順の前後はあるが、大筋は同じだ。夜に一人で行う事。誰にも会ってはいけない事。成功例は聞いた事が無い。当たり前か。異世界に行く方法は書かれていても、戻る方法の記述は殆ど無い。仮に「行って戻って来た。」と言っても与太話として片付けられる。
夏も終わりに近付いた頃、暇を持て余した俺はそれを試す事にした。エレベーターは意外と音が大きい。真夜中に動かせば怪しまれる上に迷惑だ。時間はかなり限定されるし、曜日によって人の出入りは変わる。本当に異世界に行きたいのではなく、こうやって調べている時間を愉しんでいるのかもしれない。思いながら計画を立てる。平日の午後十時からの三十分。人の出入りは少なく、ぎりぎり自然と言える時間帯だ。エレベーターに乗り込み、ボタンを操作する。何度か昇降を繰り返し、成功すれば途中で赤い服の女が乗って来て、次の階で降りる。その女は閉まる扉の越しに振り返り、「さようなら。」と言った。一度上昇したエレベーターの中に雷鳴の様な音が響いた。鉄の箱が落下を始める。止める術は、どうやらありそうにない。
その病院のほぼ中央には吹き抜けがある。光を取り込むためらしく、コンクリートに囲まれた外にあって各階に大きな窓がある。排水溝はあるが扉は無い。メンテや掃除は一階の窓から入る以外になさそうだ。
ある日、同じ病室の患者がその場所に立っていた。不可能ではないが、意味もない。何かをするような場所ではないし、物を落とすなんて事も無いだろう。そもそも各階の窓が開いているところなんて見た事がない。そして、見慣れない青い扉があった。錆は無く、手垢の一つも無さそうだ。ドアノブも無かった。それでも扉は開いた。一階のどこかへ続いているのだろうか。それにしては妙に明るい。男性はふらふらとその光の中へ消えて行った。
病室に戻ると、その男性の居た痕跡が綺麗になくなっていた。リネンの剥がされたベッドに、空の棚。名札も無い。看護師に訊いてもそんな患者は居ないと言われた。初めから居なかったのか、それとも本当に消えてしまったのか、今となっては確認する事さえできない。ただ、俺の記憶の中には確実にその男性は存在していた。
ダイニングと和室が並んでいる。どちらにもベランダに続くガラス戸があるが、和室だけ二枚戸になっている。外側は普通のガラス戸。内側はすりガラスになっていた。妙なのはすりガラスについている鍵だ。一般的な形状ではあるが、何かが貼ってある。白いテープで、読み難いが開放厳禁と書いてある。ロック部を隠す様に貼ってあり、取っ手部分は針金が巻かれていた。流石に怪し過ぎると大家に言ったが、二十四時間換気で開ける必要は無いし、ダイニングから出れるから問題無いと言われた。立地の利便性や築年数からすれば格安だし、選り好みをしている余裕もなかった。契約して家具を運び、生活が整うとさして気にもならなくなった。パソコンを弄りながらビールを呑む。久々の連休だ。防音性も悪くないし、暇な奴を呼んでも良いかも知れない。
何時だろう。流石に和室で寝る気にはならず、もう一つあった洋間にベッドを入れた。和室の反対側、廊下側にあるから音や光が気になるかと思ったが、それ程ではなかった。それでも目が覚めた。まだ慣れていない所為だろうか。安酒を呑み過ぎた所為か。何れ目を閉じていれば眠れるだろう。そう思っていると音が聞こえた。遠い。何かを叩く音だ。もう夢の中なのだろうか。呆けているうちに朝になっていた。
よく晴れていた。遅めの朝食を済ませて洗い物をしながら思い出した。あの音は何だったのだろう。ケトルでお湯を沸かす間にベランダに出てみた。エアコンの室外機があるだけだ。和室のガラス戸の前に立ってみる。ガラス戸は綺麗で、すりガラスのお陰で中は見えない。何も無い、と思いかけて見付けた。ガラス戸の下に毛髪が落ちていた。クリーニングは入室の直前にしたと言っていたが、風で飛んで来たのか、その後に落ちたのか、気にするような量ではないか。
昼過ぎに友人が二人捕まった。待ち合わせて遊びに出て夕飯を済ませるととっぷりと日が暮れた。呑み屋を探しても良かったが、俺の家が近い。結局適当に買い物をして部屋で呑む事になった。
「へぇ、随分綺麗じゃん。これで三万?」
「風呂は狭いなー、あ、追い炊きついてる。」
物色する二人を横目にダイニングに席を作る。
「あれ? 何これ?」
友人があのテープに気付いた。
「さぁ? 換気は充分できてるから開ける必要もないんだとさ。」
「ふぅん。」
呑み始めれば話題にも上らなくなった。他愛の無い話をしながら呑んだ。深い時間になると一人は奥さんが迎えに来てくれて帰った。後で何か買わせられるんだろうな。それならタクシーの方が安いと思うが、他人の家の事情か。もう一人は泊まって行く事になった。シャワーを浴びて俺は洋間のベッドに、友人は和室の来客用の布団で眠った。
どれ位経ったのか、カーテンの隙間から廊下を照らすオレンジ色の光が見える。まだ夜は明けていないらしい。もう一眠りしよう。寝返りを打つと慌てたような足音が聞こえた。扉が開く。
「起きてくれ!」
友人だった。かなり顔色が悪い。
「何だよ、今何時だ?」
「いいから、来てくれよ!」
台所、ダイニング、順に抜ける間に気付いた。音がする。昨日とは違う。ぺたぺたという、手の平で軽くガラス戸を叩くような音。僅かに水音も混じっている。和室の戸を引く。外から街灯の光を受けているすりガラスが赤い。咄嗟に布団を抱えた。
「来い!」
戸を閉めて洋間に転がり込んだ。
「おい、何だよあれ。」
「知るか。お前もここで寝ろ。」
「言われなくてもそうするってば。」
そう言ったところで眠れる筈もない。二人でぽつりぽつりと言葉を交わしながら朝を待った。
夜が明けても朝食を済ませるまで友人は残ってくれた。
「お祓いして貰え。」
そう言い残して帰って行った。
その後ベランダに回ってみたが、変わった様子はない。ただ、毛髪が増えているように見える。和室に戻り、眺める。開放厳禁。テープに手をかける。ゆっくり剥がしかけて、すぐに戻した。ただのテープではなかった。裏側にびっしりと文字とも模様とも言えない物が書きつけられていた。
「やっぱお祓い頼むか。」
小さく呟いた。
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