虚構の群青

#05 夏白

　　　──真っ青な空の下。


　貴方には、謝らなくてはいけません。きっと、赦して呉れるでしょう。そう云う人です。見渡す限りに真っ白な花が咲いていました。狐の面を被った方が一人、その中に立って居ました。
「もう一度、会いたいと願うのならば。」
　首を横に振ります。私達のお話はもう終わってしまいました。私の命と一緒に。もう二度と。何時か、貴方はそう言っていましたね。異国の言葉に替えて。煙草に書き付けて、吸い込んで。貴方は強い人です。其れで、良いでしょう。
「本当に？」
「ええ。」
　今更私に出来る事はありません。理不尽でも不本意でもお話は終わってしまいました。今更、今更なのです。今更です。泣き崩れる貴方に触れる事すらできなくなった私では。
「一度だけ。一度だけならば、世界を騙せる。」
　狐の面が外れました。知った顔がありました。けれど、だから如何だと言うのでしょう。お話は終わったのです。
「莫迦め。と言っておこうか。」
　口紅が一本。其れだけ。そして、一度だけ。意味はあるでしょうか。理由は必要でしょうか。感情は何だったでしょう。そんな事ばかり考えるから「莫迦め。」と言われるのです。貴方は心配そうに私を見るのです。
「分かりました。一度だけ、でも、此れが最後でも、もう一度、あの人に。」
　真っ白な花が咲いています。私は真っ白な服を着ています。紅を引きました。たった其れだけ。貴方が私に呉れた、とてもとても大切な物。貴方の事ですから恥ずかしがって見もしませんよね。そう思うと自然と笑みが浮かびます。
「言葉は交わせない。」
「必要ありません。」
「視線は、余り合わせると、」
「其れも要りません。此の紅で十分に伝わるでしょう。」
　そうして、私は鳥居をくぐります。貴方の案内は父と、あの子が。一度だけ。一瞬だけ。嗚呼、邪な想いさえあります。けれど、ただ、その一瞬だけを、此の青い空の下で。