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#05 日々
しおりを挟む──酷く有り触れた日常。
「巷に雨が降る……。」
君は憂鬱そうに窓の外を眺めながら陶器のカップを傾けた。
「まぁ、私の心に涙は降って居ないがね。」
其れは其れで寂しい気もする。
「おや、泣いて欲しかったかね?」
かちゃり、陶器のカップがコーサーに降りた。君はにやりと笑って居た。
「君の所為だよ。全く、こんなものを引っ掛けて何が愉しいんだか。」
ものではない。
「君、嗚呼、君よ、そんな言葉ばかり使わないで呉れ。」
そして君は髪を掻いた。
「亦離したく無くなるじゃないか。君には、」
僕には何も無い。君だけしか。
「だから、嗚呼、言うだけ無駄か。良いよ、じゃあ、私に如何して欲しい?」
もう一度カップに手を着けた君に告げる。
「だから、嗚呼、もぉ、良いかい? 私は面倒臭い女だよ? 否、その形すら、」
充分に魅力的だと思う。周りの眼が悪いだけだ。
「責任、取って貰うからな。」
容易い、とは言わずに置こう。
「ねぇ、君よ、嗚呼、矢張り言うだけ無駄か。」
解かって居るのに其れを口にする。
「嗚呼、解かって居るよ。其れでも君は。」
雨が降り出した。
「おや、窓は閉めようか。」
「いや、」
「そうだね、匂いは悪く無い。」
君は手を止めた。俺は黙ったまま、外を眺める。雨が町を、世界を塗り替えて行く。
「そう言えば君は水溜りができる瞬間を見て居たね。」
結局其の瞬間には立ち会えなかったが。
「くくっ、滑稽だね。でも、」
柔らかい熱が寄り添った。
「素敵じゃないか。君、意外とロマンチストなのだね?」
余り好きでは無い。
「そう厭そうな顔をするなよ。私は好きだよ。」
初春、雨、濡れた土とアスファルトの匂い。また水溜りが出来る瞬間は見逃してしまった。
「私の所為とでも言いたげだねぇ?」
肩を寄せた君が僕を見上げる。
「そうかもな。」
「くくっ、良いよ。甘んじて受けよう。君の興味を引けたのなら、」
するり、熱が寄り添う。外にはいつの間にか出来た水溜り。まぁ、悪くはないか。
(了)
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