シスターズ

笹森賢二

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#04 午後

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   ──一手。



 二6歩と突き出す。応じるように八4歩と突き出す。二5歩、八5歩と続いた所で克己が天井を仰いだ。
「お茶でも淹れましょか?」
 紫は平然として居る。
「ああ、その間に考えるとしよう。」
 角に金を寄せれば相掛かりに入る。其れでも、一手だけ其れを壊す手段がある。
「抹茶で宜しかったですか?」
「ああ。」
 克己は手慣れた手付きでさらに歩を押し上げた。五手爆弾。かつては悪手と言われた手だ。
「成程、兄様らしいですね。さて。」
 紫は端正な顎に指を当てた。其れからゆっくりと歩を取り去った。二3歩と打ち込めば八6からの逆襲で先後が換わる。打ち込むしか無い先手の代わりに後手は其のまま歩が成り込む。
「八4? 紫も難しい手を覚えたな。」
「ええ。ツバキさんと指してるので。」
 克己の歩は成り込むが紫の飛車は機動兵器の様に中央に周る。当然の様に金で受けた克己を見て紫は飛車を戻す。角を捕る克己を横目にさらに紫は歩を突き出す。有効な手が無い。克己は再度天井を見上げた。駒得はしているが決定打が無い。其れでも克己は銀を手にした。
「あ。」
 紫がぽとりと駒を落した。二2銀が激痛と気付いた。
「此れしか無いな。スピードで勝ったら君の勝ちだ。」
 此のまま殴り合ってもするすると克己の王は逃げて行く。
「分かり易い所まで指しますか?」
「いや? 紫が納得するトコ迄で良いよ。」
「では、此処で。有難う御座いました。」
「有難う御座いました。」
 互いに頭を下げて、春の縁側に寝転んだ。
「ふふっ、愉しいですね。」
「ああ。紫が相手だからな。」
 一瞬だけ紫が克己を睨んだ。
「其れ、ツバキさんにもスケアさんにも稔さんにも言ってますよね?」
「秀一と翼にも、蒼玉にもか。」
 瞬間。紫が克己の耳を噛んだ。
「痛ってぇつの。」
「兄様が悪いんです。」
 陽射しは強さを増して、二人を包んだ。
(了)
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