4 / 4
#04 午後
しおりを挟む──一手。
二6歩と突き出す。応じるように八4歩と突き出す。二5歩、八5歩と続いた所で克己が天井を仰いだ。
「お茶でも淹れましょか?」
紫は平然として居る。
「ああ、その間に考えるとしよう。」
角に金を寄せれば相掛かりに入る。其れでも、一手だけ其れを壊す手段がある。
「抹茶で宜しかったですか?」
「ああ。」
克己は手慣れた手付きでさらに歩を押し上げた。五手爆弾。かつては悪手と言われた手だ。
「成程、兄様らしいですね。さて。」
紫は端正な顎に指を当てた。其れからゆっくりと歩を取り去った。二3歩と打ち込めば八6からの逆襲で先後が換わる。打ち込むしか無い先手の代わりに後手は其のまま歩が成り込む。
「八4? 紫も難しい手を覚えたな。」
「ええ。ツバキさんと指してるので。」
克己の歩は成り込むが紫の飛車は機動兵器の様に中央に周る。当然の様に金で受けた克己を見て紫は飛車を戻す。角を捕る克己を横目にさらに紫は歩を突き出す。有効な手が無い。克己は再度天井を見上げた。駒得はしているが決定打が無い。其れでも克己は銀を手にした。
「あ。」
紫がぽとりと駒を落した。二2銀が激痛と気付いた。
「此れしか無いな。スピードで勝ったら君の勝ちだ。」
此のまま殴り合ってもするすると克己の王は逃げて行く。
「分かり易い所まで指しますか?」
「いや? 紫が納得するトコ迄で良いよ。」
「では、此処で。有難う御座いました。」
「有難う御座いました。」
互いに頭を下げて、春の縁側に寝転んだ。
「ふふっ、愉しいですね。」
「ああ。紫が相手だからな。」
一瞬だけ紫が克己を睨んだ。
「其れ、ツバキさんにもスケアさんにも稔さんにも言ってますよね?」
「秀一と翼にも、蒼玉にもか。」
瞬間。紫が克己の耳を噛んだ。
「痛ってぇつの。」
「兄様が悪いんです。」
陽射しは強さを増して、二人を包んだ。
(了)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる