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36.初めての
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夕食は、エディの手から食べさせられることになった。流石にカトラリーは使ってくれたけど。ひとつずつ運ばれて、おとなしく口を開ける。
しっかりとした味のムニエル。ニジマスに近い川魚で少し癖があるけどそれが美味しい。スープは優しい味付け。細かく切られた野菜が舌で潰れるくらい柔らかく煮込まれている。
パンはバゲットに似ていて麦の香りが強い。エディの手で千切られて、口に押し込まれた。香ばしいベーコンとシンプルな味付けの野菜のグリル。ザガロワ産の野菜なのかな。素材の味が濃い気がする。
デザートとして添えられたモモのような果物は、瑞々しくて果汁が滴るような代物で……エディはそれを直接自分の手でつまんだ。僕はその指を舐め、エディは僕の口元を舐めた。
エディの香りが濃くなって、僕の身体に熱が灯る。もっと触れたい。触れて欲しい。これでまだ発情期じゃないなんて。
「エディ……僕ね、発情期ってずっと薬で抑えてきたんだ」
「ああ、そうらしいな。フェリックスに聞いた」
「最初の発情期も、すぐに抑制剤を飲まされて、ちゃんと発情期を過ごしたことがないんだ」
だから怖い。自分がどうなってしまうのかわからない。
「じゃあ、今までに誰かが君を慰めたことはないんだね?」
「あるわけない。全部、初めてだよ」
エディが嬉しそうに笑う。僕はエディの肩に額を押し付けた。
「僕には前世の記憶があるでしょう? あちらの世界には第二性ってなくてね。男女だけだったんだ。前世の僕は女性だったんだよ。ベータの女性に近いかなぁ」
「……そうか。じゃあ、君は性別が変わってしまったんだね」
「うん。発情期、みたいなものもなかったし。前世で僕が過ごした国は、女性が結婚しなくても一応はひとりで生きられる環境だった。結婚を強要されることは、あまり、なくて」
これを口にするのは少し恥ずかしいんだけど。
「恋愛結婚が一般的な国で。だけど、以前の僕は、恋愛からは縁遠かったんだ」
地味でおとなしくて、モテる方ではなかった上に、人を好きになるということが理解できなかった。人間として好ましい相手はいても、恋人になりたいとは思えなくて。告白されて付き合ってみた人はいたけど、同じ気持ちを返すことはできずに、軽いキスだけで別れた。
「だから……その。僕は……前世の記憶の中でも、誰かと、身体を重ねたことって、一度も……」
ぶわりと。甘いフェロモンの香りが強くなった。
「……ぁ……エディ……」
匂いを感じただけだった。それなのに。快感に近い何かが背筋をゾクゾクと走って、僕はエディに縋りついた。
「ごめん、ヒューイ。俺はこれ以上待てない」
エディのフェロモンが。くらくらする甘い香りが、僕の発情を煽り、促してくる。もっと欲しがれと、もっと乱れろと。
「エディ……怖い……僕……」
自分が自分じゃなくなるみたいで。
「大丈夫。俺に任せてくれればいい」
エディは上着を脱ぐとそれを僕に抱えさせた。
「ちょっとだけ待ってて」
エディは少しだけ廊下に顔を出すとすぐに戻ってきた。
「札を出してきた。君の発情期が始まったってわかるように」
「……マイヤ先生は、あと二、三日って」
「うん、俺がそんなに待てないから、早めたんだよ。嫌だった?」
「嫌、じゃない……けど」
「けど?」
「そんなこと、できるの……」
「俺なら可能だ。高位のアルファだから」
そう、なのか。不思議ではある。けど、エディのフェロモンに煽られたのは確かだった。
「……こわい」
少し触れられただけでこんなに熱くて、どうなってしまうのだろう。
「初めてだもんね。優しく、大事にするからね」
ちゅ、と額にキスをされて、抱き上げられた。
まだほとんど使われていない自室を横切って寝室へと運ばれる。身体が熱い。息が上がる。頭がぼんやりしてきた気がする。
ベッドの縁に座らされ、恭しいくらいの手つきで靴を脱がされた。そのまま靴下も取られて、エディは僕の足の指にキスをした。そんな所に顔を近付けないで欲しいんだけど。
「あの、エディ? 先にお風呂とか……」
「待てない」
あまりにもきっぱりと断言されて、僕は諦めた。
抱えていた上着を取られて、僕はほんの少しだけ抵抗した。何かに縋っていたかったのだ。
エディが耳元で囁く。
「そんなに名残惜しそうな顔しないで。抱きつくなら俺にしてよ」
その声が、吐息が、僕の何かをぐずぐずと崩していく。それはきっと、理性だったり、羞恥心だったりするのだろう。今の僕はきっと物欲しげな顔をしている。
「ああ……また匂いが強くなった」
エディが満足そうに呟き、僕のジレを脱がせた。シャツのボタンも外されていく。少しひんやりとした空気は、火照った肌には心地良いくらいだった。
熱い。切ない。苦しい。足りない。満たされたい。本能が目の前のアルファが欲しいと叫んでいる。
シャツが完全に脱がされた。肌を晒すことへの羞恥は、触れて欲しいという欲の前に、薄れて消えた。
「……エディ」
甘ったるい声。自分のものじゃないみたい。
愛しいアルファが嬉しそうに笑う。
「もう少しだけ待って。ゆっくり、君を可愛がらせてね」
再び抱き上げられて、そっと横たえられる。
自身の靴とシャツを手早く脱ぎ捨てたエディがベッドに上がってきた。
エディの手が僕のベルトを外し、下着の腰の紐も解かれて一気に剥ぎ取られた。全てを晒すのはさすがに恥ずかしくて、顔を背ける。
「可愛い……すごく、綺麗だ」
エディが覆い被さってきて、濃厚なフェロモンが僕を包んだ。
孕まされたい、なんて。そんなこと、今までは一度だって思ったこと、なかったのに。
しっかりとした味のムニエル。ニジマスに近い川魚で少し癖があるけどそれが美味しい。スープは優しい味付け。細かく切られた野菜が舌で潰れるくらい柔らかく煮込まれている。
パンはバゲットに似ていて麦の香りが強い。エディの手で千切られて、口に押し込まれた。香ばしいベーコンとシンプルな味付けの野菜のグリル。ザガロワ産の野菜なのかな。素材の味が濃い気がする。
デザートとして添えられたモモのような果物は、瑞々しくて果汁が滴るような代物で……エディはそれを直接自分の手でつまんだ。僕はその指を舐め、エディは僕の口元を舐めた。
エディの香りが濃くなって、僕の身体に熱が灯る。もっと触れたい。触れて欲しい。これでまだ発情期じゃないなんて。
「エディ……僕ね、発情期ってずっと薬で抑えてきたんだ」
「ああ、そうらしいな。フェリックスに聞いた」
「最初の発情期も、すぐに抑制剤を飲まされて、ちゃんと発情期を過ごしたことがないんだ」
だから怖い。自分がどうなってしまうのかわからない。
「じゃあ、今までに誰かが君を慰めたことはないんだね?」
「あるわけない。全部、初めてだよ」
エディが嬉しそうに笑う。僕はエディの肩に額を押し付けた。
「僕には前世の記憶があるでしょう? あちらの世界には第二性ってなくてね。男女だけだったんだ。前世の僕は女性だったんだよ。ベータの女性に近いかなぁ」
「……そうか。じゃあ、君は性別が変わってしまったんだね」
「うん。発情期、みたいなものもなかったし。前世で僕が過ごした国は、女性が結婚しなくても一応はひとりで生きられる環境だった。結婚を強要されることは、あまり、なくて」
これを口にするのは少し恥ずかしいんだけど。
「恋愛結婚が一般的な国で。だけど、以前の僕は、恋愛からは縁遠かったんだ」
地味でおとなしくて、モテる方ではなかった上に、人を好きになるということが理解できなかった。人間として好ましい相手はいても、恋人になりたいとは思えなくて。告白されて付き合ってみた人はいたけど、同じ気持ちを返すことはできずに、軽いキスだけで別れた。
「だから……その。僕は……前世の記憶の中でも、誰かと、身体を重ねたことって、一度も……」
ぶわりと。甘いフェロモンの香りが強くなった。
「……ぁ……エディ……」
匂いを感じただけだった。それなのに。快感に近い何かが背筋をゾクゾクと走って、僕はエディに縋りついた。
「ごめん、ヒューイ。俺はこれ以上待てない」
エディのフェロモンが。くらくらする甘い香りが、僕の発情を煽り、促してくる。もっと欲しがれと、もっと乱れろと。
「エディ……怖い……僕……」
自分が自分じゃなくなるみたいで。
「大丈夫。俺に任せてくれればいい」
エディは上着を脱ぐとそれを僕に抱えさせた。
「ちょっとだけ待ってて」
エディは少しだけ廊下に顔を出すとすぐに戻ってきた。
「札を出してきた。君の発情期が始まったってわかるように」
「……マイヤ先生は、あと二、三日って」
「うん、俺がそんなに待てないから、早めたんだよ。嫌だった?」
「嫌、じゃない……けど」
「けど?」
「そんなこと、できるの……」
「俺なら可能だ。高位のアルファだから」
そう、なのか。不思議ではある。けど、エディのフェロモンに煽られたのは確かだった。
「……こわい」
少し触れられただけでこんなに熱くて、どうなってしまうのだろう。
「初めてだもんね。優しく、大事にするからね」
ちゅ、と額にキスをされて、抱き上げられた。
まだほとんど使われていない自室を横切って寝室へと運ばれる。身体が熱い。息が上がる。頭がぼんやりしてきた気がする。
ベッドの縁に座らされ、恭しいくらいの手つきで靴を脱がされた。そのまま靴下も取られて、エディは僕の足の指にキスをした。そんな所に顔を近付けないで欲しいんだけど。
「あの、エディ? 先にお風呂とか……」
「待てない」
あまりにもきっぱりと断言されて、僕は諦めた。
抱えていた上着を取られて、僕はほんの少しだけ抵抗した。何かに縋っていたかったのだ。
エディが耳元で囁く。
「そんなに名残惜しそうな顔しないで。抱きつくなら俺にしてよ」
その声が、吐息が、僕の何かをぐずぐずと崩していく。それはきっと、理性だったり、羞恥心だったりするのだろう。今の僕はきっと物欲しげな顔をしている。
「ああ……また匂いが強くなった」
エディが満足そうに呟き、僕のジレを脱がせた。シャツのボタンも外されていく。少しひんやりとした空気は、火照った肌には心地良いくらいだった。
熱い。切ない。苦しい。足りない。満たされたい。本能が目の前のアルファが欲しいと叫んでいる。
シャツが完全に脱がされた。肌を晒すことへの羞恥は、触れて欲しいという欲の前に、薄れて消えた。
「……エディ」
甘ったるい声。自分のものじゃないみたい。
愛しいアルファが嬉しそうに笑う。
「もう少しだけ待って。ゆっくり、君を可愛がらせてね」
再び抱き上げられて、そっと横たえられる。
自身の靴とシャツを手早く脱ぎ捨てたエディがベッドに上がってきた。
エディの手が僕のベルトを外し、下着の腰の紐も解かれて一気に剥ぎ取られた。全てを晒すのはさすがに恥ずかしくて、顔を背ける。
「可愛い……すごく、綺麗だ」
エディが覆い被さってきて、濃厚なフェロモンが僕を包んだ。
孕まされたい、なんて。そんなこと、今までは一度だって思ったこと、なかったのに。
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