転生王子の最愛

夕月ねむ

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転生王子の最愛

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 女神様に加護をもらって、小国の第三王子に転生した。だけど俺は面倒なことは嫌だったから、自分の能力も加護も隠した。うっかり次の王になんてなりたくない。兄上たちには勝たないように、目立たないように。役には立たないけど害にもならない、ひたすらそんな人物を目指した。

 そんな俺でも王子は王子だ。外交を兼ねて他国に留学することになった。実際に外交で働くのは俺について来る文官たちだけど。

 留学先でも、俺は『凡庸』を目指した。でも勉強はした。前世で思い知ったのだ。学んだことは武器になると。学生のうちに色々身につけておくべきだと。こっそり知識は吸収しつつ、周囲にはあまりそれを見せないようにしていた。

 留学開始からひと月ほど経った頃だ。遅れてやってきた別の国の王女に、俺は一目惚れした。スラリとした黒髪の美人で、本人は背の高さがコンプレックスみたいだった。すごく綺麗で格好良いのに。

 だけど、その子は母国のごたごたで命を狙われていた。ある時、護衛の騎士にまで裏切られた彼女を連れて、俺は逃げた。



 ***



 それまで隠していたものの全てを使って、俺は彼女を守り、冒険者のふりをして潜伏した。そのまま全部捨てて本当に冒険者になってしまいたかった。けど、彼女は逃げることを良しとしなかった。

 どうしても母国に帰ると言う彼女を、俺はどうにか送り帰した。信頼できるという相手に託したものの、心配で心配で仕方がなかった。

 俺自身も目立たず暮らすなんてことは無理になった。祖国に連れ戻され、実は顔だけではなかったと、特に魔法の腕前は宮廷魔法士並だったということがバレた。

 兄上にお仕えして魔法士として働くくらいは、まあ、仕方がないから受け入れようか。俺がそう諦めた頃、彼女の国でクーデターがあった。

 クーデターの首謀者は彼女だ。

 すぐにでも駆けつけたかったけど、王子である俺が他国の内紛に手を出したら、下手をすれば自分たちの国にも飛び火する。うちは小国なのだ。本気で戦争なんてしたら滅びてしまう。

 もう王族籍を捨てて彼女に助太刀しよう、父上に絶縁してもらおう、そう決心した時だ。彼女が女王に即位するという知らせが届いた。

 とにかく、生きていてくれたことにホッとして、それなら俺もまだ王子でいようと決めて。大変なことになっているはずの彼女の国に何かできないかと、支援の手段を調べ始めた。うちの国力でできることなんてたかが知れてるけど。

 彼女の即位から数日、父上が思い詰めたような顔をして俺を呼んだ。
「サイラス。お前はフレデリカ陛下を覚えているな?」
「もちろんです」
 フレデリカは彼女の名前だ。潜伏中、男装させて『フレッド』と呼んだのはちょっと申し訳なかったな……。

「婚約の申し入れがあった。お前を王配にと」
「……え」
 王配。女王の伴侶。俺が?
「我が国の立場で断れる話では……」
「ぜひお受けしてください!」
 俺は身を乗り出すようにしてそう言った。

 フレデリカに会える。しかも俺と結婚してくれるらしい。彼女のことは思い出としてしまい込むしかないと思っていたのに。

 元気かな。病気や怪我はしていないかな。きっと忙しいだろう。ちゃんと眠れているだろうか。
 俺が彼女の支えになれるなら、なんでもしてやりたいと思った。



 ***



 久々に会った彼女は、額に大きな傷痕があった。クーデター中の戦闘でついたものらしい。化粧で隠すこともできただろう。でも、その傷痕を見せてくれたことが、俺はなんだか嬉しかった。

 女王になったフレデリカは、寂しそうに笑って言った。
「がっかりしていませんか。こんな傷痕を残してしまって……」
「まさか。とんでもない。その傷は貴女がこの国のために命を賭した結果でしょう。私はこうして貴女にお会いできただけで嬉しいのですよ」

 彼女は相変わらず背が高くて、凛々しくて、でも少し痩せたように見えた。無理もない。国のためとはいえ、家族を手に掛けたのだから。

 俺の婚約者について、あれこれと噂が耳に入ってくる。そのほとんどは、新しい女王は恐ろしい方だというような内容だった。冷酷だとか無慈悲だとか。俺のフレデリカを形容するのに相応しい言葉だとは思えない。

 中には訳知り顔をして「サイラス殿下もお気の毒に」と俺に同情してくるやつもいた。何が気の毒だというんだ。俺は学生時代の恋を叶えてここにいるのに。

「陛下。そろそろお休みになられては?」
 今日も凛々しい婚約者に声を掛ける。書類の前でもう少しだけと渋る彼女の、額の傷痕にそっと口付けた。

「………………ッ!」

 彼女は真っ赤になって狼狽えた。言葉がうまく出ないらしい。恋愛や色事には不慣れでうぶなのだ。

 可愛いなぁ。こんなに可愛らしい人なんだけどな。でもまあ、この愛らしい姿を他の誰かに見せるつもりはない。

 額の傷痕は俺が治癒魔法を使えば消せるだろう。でも、彼女はそれをたぶん望まないと思うから。俺は彼女をその傷ごと愛でると決めている。





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