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第90層 紫黒大森林 -ヘルフォレスト-
第23話 ダークエルフが住まう森
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【禍津世界樹の洞 第94層 紫黒大森林 ダークエルフの里 ヴィザルノート】
安置から階段を上った先は森の中だった。しかし原生林という感じは一切なくて、人の手が入りながらも整理された綺麗さがあった。
見れば足元は草が抜かれ、綺麗に踏み締められている。歩きやすい。左右の木々は剪定され、並木道のようだ。
改めて自分が通ってきたところを振り返ると、民族的な像のような物も置かれていた。
「なんだこれ」
「ダークエルフが信奉するカラスの神だな」
言われて見ると嘴のようなものと翼ようなものも見える。
「それってお前じゃねぇか」
「実際そうなる。だからこそここを選んだというのもあるが……ほら、話をすれば……」
「え? ……うわぁ!!」
ギュドッ! という音と共に足元に黒い矢……? が突き刺さった。多分これは矢だ。矢羽根が見える。正確に言えば矢羽根しか見えない。もう1歩踏み込んでたら足の甲から矢羽根が生えていた。ていうか地面に矢が刺さる音じゃねぇよもう!
「誰だ!?」
声のする方を見る。見て気付く。樹の上だ。先程見惚れていた並木道の木、1本1本に1人、綺麗な銀髪を生やし、軽装の鎧に身を包んだ褐色の人間が一斉に僕に、僕達に弓を構えていた。絵に描いたようなダークエルフだ……。
思わず僕は両手を上げた。
「怪しい者ではないです……」
「それは無理があるんじゃないか。貴様程怪しい者はダンジョンにいない」
「黙ってろって……!」
再びありえない効果音で矢が足元に刺さる。また爪先ギリギリだ。それで気付いた。彼等はわざと足を外して射っているんだ……。なんという腕の持ち主だろうか。
「待て……もしや八咫様では?」
と、窮地にもかかわらず感動していると木の上にいたダークエルフの1人が下まで下りてきた。構えていた弓から矢を外し、ジッと僕達を……いや、八咫のことを見ていた。
「如何にも」
何が如何にもだよと心の中でぼやく。しかしそんな演技がかった台詞一つで目の前のダークエルフは片膝をついていた。
その行動を見てか、樹上にいたダークエルフの皆さんも下りてきて目の前の人と同じように片膝をついて礼をしていく。総勢15名。見ていると僕もそうした方がいいような気がしてきた。
「貴様は動かんでいい。王は臣下の礼を受け取る義務がある」
「はは、臣下って、そんな大袈裟な」
ちょっと現実感がなくて笑っちゃったが、この場で笑ってるのは僕だけだった。とっても気まずい……。
「無礼を謝罪いたします。王よ、お越しいただき感謝します」
一番最初に木から下りてきたダークエルフが顔を上げる。よく見れば女性だった。
「あ、あぁ……歓迎感謝します」
う、緊張のせいでちょっと皮肉っぽい言い回しになってしまった。そんなつもりは一切ないのだが……!
しかしダークエルフの女性は気にも留めずといった様子で自己紹介を始めた。
「私はダークエルフ族の長老を務めさせていただいてるアイザと申します」
「アイザさん。長老様でしたか。僕は将三郎です。どうぞよろしくお願いします」
「アイザさんなどとそんな……どうぞアイザと呼び捨ててください」
美人を呼び捨てにするのは気が引けるが……。
「分かりました。アイザ、よろしくお願いします」
「敬われる立場でもありませんので敬語もやめていただけると嬉しいのですが……」
「いや、さっきの弓の腕は達人を越えたものを感じました。これを敬わずにはいられません。敬語は続けさせてもらいます」
タメ口なんて生意気なこと出来る訳がない。後ろからあの弓でズドン、なんてなったらおしまいだ。矢羽根まで埋まる威力だ。僕の体なんて簡単に貫通するだろう。
ここは保身の為にも敬語を貫かせてもらおう。王の身を案じる詭弁として!
「……分かりました。立ち話も失礼なので、まずは私共の家で歓迎の場でもと思うのですが、どうでしょう?」
これを断るのは失礼だ。矢が飛んでくる。
「嬉しいです。是非お邪魔させてください」
そう答えるとアイザは嬉しそうに頬を緩めてくれた。ナイスコミュニケーションだぞ、将三郎!
「こちらです。どうぞ!」
立ち上がったアイザを中心にダークエルフ達が歩き出す。自然と僕を中心に囲むようにフォーメーションが組まれ、なんだか本当に重要な人物になったかのような錯覚に陥る。
僕なんか全然、寝落ちして最下層に放り込まれた馬鹿なので、こんな歓迎は背中が痒くなる思いだ。
案内されたのは木造の大きな建物だった。屋根の上から垂れる蔦や、窓際に置かれた鉢で咲く花がボタニカルな雰囲気を醸し出していて、とても良い。こういう家に住みたいよな……。
「どうぞ」
「お邪魔します……わぁ……!」
家の中も素敵だった。外観同様に草花に溢れ、所々に下げられたランタンの灯りがそれらを照らしていてめちゃくちゃ素敵だ。それに家の中に地下水か何かを引いているのか、チョロチョロと流れる水の音がする。
音の方を見てみると、小さな小さな川のようになっている場所があった。そこにもまた鉢が置かれ、水耕栽培がされていた。何かの草だろうか。ほのかに光っているように見える。
「良いお家ですね!」
「ありがとうございます。植物を育てるのが趣味でして……」
ちょっと照れ臭そうに笑うアイザ。弓を構えたら鬼神の如き強さなのにガーデニングが趣味とは……可愛らしいな。
カラフルな植物を通り過ぎ、通されたのは大広間だ。ここは会議か何かする場所なのか、先程のように植物に溢れてはいない。……が、抑えきれない趣味が部屋の端で繁茂していた。
「すぐに料理が運ばれてきます。それまでここでゆっくりなさってください」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ今日は来てくださってありがとうございます」
それから本当にすぐに食事が運ばれてきた。驚いたのは何もなかった広間の床から木が伸びて大きなテーブルが作られたことだ。魔法なのは分かるが、とても幻想的だった。
一緒に生えてきた椅子に座り、目の前に豪勢な料理が並べられていく。長テーブルのはダークエルフ族のお偉いさんのような風体をした者達も着席し、慣れない僕はお誕生日席で緊張して固まっていた。
「本日は新たな王、将三郎様の歓迎をさせていただきます。料理と酒を楽しんでいただけたら幸いです」
視線が一斉に僕へと向けられる。歓迎とは言っているが、その視線は僕を品定めしている目だ。無論、歓迎ムードの視線もあった。主にアイザからだが。
僕は立ちあがり、全員の顔を見ながら喋る。
「皆さんお忙しいなか集まってくださり、ありがとうございます。そして突然の来訪で迷惑をお掛けして申し訳ありません。まだ右も左も分かりませんが、八咫より王として認められました。名は将三郎と申します。今後とも仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
皆が無言だった。怖い。本当、こういうの慣れてないし即興の台詞だったから失敗したかもしれない。
と、やらかした感いっぱいで帰りたくなったところで皆が置かれたカップに手を伸ばした。配られたカップの中には赤い液体が注がれている。僕でも分かる。この後にやることは……。
「新たな王に」
「新たな王に!」
乾杯だった。これなら僕でもできるぜ。
「ありがとうございます。皆の健康と武運に!」
硬い空気は乾杯の音頭で和らいだ。良かった……安心して料理を楽しめそうだ。
着席すると近くに座っているアイザがにこりと笑ってくれた。それに笑みを返せる余裕だけは、何とか取り戻していた。
安置から階段を上った先は森の中だった。しかし原生林という感じは一切なくて、人の手が入りながらも整理された綺麗さがあった。
見れば足元は草が抜かれ、綺麗に踏み締められている。歩きやすい。左右の木々は剪定され、並木道のようだ。
改めて自分が通ってきたところを振り返ると、民族的な像のような物も置かれていた。
「なんだこれ」
「ダークエルフが信奉するカラスの神だな」
言われて見ると嘴のようなものと翼ようなものも見える。
「それってお前じゃねぇか」
「実際そうなる。だからこそここを選んだというのもあるが……ほら、話をすれば……」
「え? ……うわぁ!!」
ギュドッ! という音と共に足元に黒い矢……? が突き刺さった。多分これは矢だ。矢羽根が見える。正確に言えば矢羽根しか見えない。もう1歩踏み込んでたら足の甲から矢羽根が生えていた。ていうか地面に矢が刺さる音じゃねぇよもう!
「誰だ!?」
声のする方を見る。見て気付く。樹の上だ。先程見惚れていた並木道の木、1本1本に1人、綺麗な銀髪を生やし、軽装の鎧に身を包んだ褐色の人間が一斉に僕に、僕達に弓を構えていた。絵に描いたようなダークエルフだ……。
思わず僕は両手を上げた。
「怪しい者ではないです……」
「それは無理があるんじゃないか。貴様程怪しい者はダンジョンにいない」
「黙ってろって……!」
再びありえない効果音で矢が足元に刺さる。また爪先ギリギリだ。それで気付いた。彼等はわざと足を外して射っているんだ……。なんという腕の持ち主だろうか。
「待て……もしや八咫様では?」
と、窮地にもかかわらず感動していると木の上にいたダークエルフの1人が下まで下りてきた。構えていた弓から矢を外し、ジッと僕達を……いや、八咫のことを見ていた。
「如何にも」
何が如何にもだよと心の中でぼやく。しかしそんな演技がかった台詞一つで目の前のダークエルフは片膝をついていた。
その行動を見てか、樹上にいたダークエルフの皆さんも下りてきて目の前の人と同じように片膝をついて礼をしていく。総勢15名。見ていると僕もそうした方がいいような気がしてきた。
「貴様は動かんでいい。王は臣下の礼を受け取る義務がある」
「はは、臣下って、そんな大袈裟な」
ちょっと現実感がなくて笑っちゃったが、この場で笑ってるのは僕だけだった。とっても気まずい……。
「無礼を謝罪いたします。王よ、お越しいただき感謝します」
一番最初に木から下りてきたダークエルフが顔を上げる。よく見れば女性だった。
「あ、あぁ……歓迎感謝します」
う、緊張のせいでちょっと皮肉っぽい言い回しになってしまった。そんなつもりは一切ないのだが……!
しかしダークエルフの女性は気にも留めずといった様子で自己紹介を始めた。
「私はダークエルフ族の長老を務めさせていただいてるアイザと申します」
「アイザさん。長老様でしたか。僕は将三郎です。どうぞよろしくお願いします」
「アイザさんなどとそんな……どうぞアイザと呼び捨ててください」
美人を呼び捨てにするのは気が引けるが……。
「分かりました。アイザ、よろしくお願いします」
「敬われる立場でもありませんので敬語もやめていただけると嬉しいのですが……」
「いや、さっきの弓の腕は達人を越えたものを感じました。これを敬わずにはいられません。敬語は続けさせてもらいます」
タメ口なんて生意気なこと出来る訳がない。後ろからあの弓でズドン、なんてなったらおしまいだ。矢羽根まで埋まる威力だ。僕の体なんて簡単に貫通するだろう。
ここは保身の為にも敬語を貫かせてもらおう。王の身を案じる詭弁として!
「……分かりました。立ち話も失礼なので、まずは私共の家で歓迎の場でもと思うのですが、どうでしょう?」
これを断るのは失礼だ。矢が飛んでくる。
「嬉しいです。是非お邪魔させてください」
そう答えるとアイザは嬉しそうに頬を緩めてくれた。ナイスコミュニケーションだぞ、将三郎!
「こちらです。どうぞ!」
立ち上がったアイザを中心にダークエルフ達が歩き出す。自然と僕を中心に囲むようにフォーメーションが組まれ、なんだか本当に重要な人物になったかのような錯覚に陥る。
僕なんか全然、寝落ちして最下層に放り込まれた馬鹿なので、こんな歓迎は背中が痒くなる思いだ。
案内されたのは木造の大きな建物だった。屋根の上から垂れる蔦や、窓際に置かれた鉢で咲く花がボタニカルな雰囲気を醸し出していて、とても良い。こういう家に住みたいよな……。
「どうぞ」
「お邪魔します……わぁ……!」
家の中も素敵だった。外観同様に草花に溢れ、所々に下げられたランタンの灯りがそれらを照らしていてめちゃくちゃ素敵だ。それに家の中に地下水か何かを引いているのか、チョロチョロと流れる水の音がする。
音の方を見てみると、小さな小さな川のようになっている場所があった。そこにもまた鉢が置かれ、水耕栽培がされていた。何かの草だろうか。ほのかに光っているように見える。
「良いお家ですね!」
「ありがとうございます。植物を育てるのが趣味でして……」
ちょっと照れ臭そうに笑うアイザ。弓を構えたら鬼神の如き強さなのにガーデニングが趣味とは……可愛らしいな。
カラフルな植物を通り過ぎ、通されたのは大広間だ。ここは会議か何かする場所なのか、先程のように植物に溢れてはいない。……が、抑えきれない趣味が部屋の端で繁茂していた。
「すぐに料理が運ばれてきます。それまでここでゆっくりなさってください」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ今日は来てくださってありがとうございます」
それから本当にすぐに食事が運ばれてきた。驚いたのは何もなかった広間の床から木が伸びて大きなテーブルが作られたことだ。魔法なのは分かるが、とても幻想的だった。
一緒に生えてきた椅子に座り、目の前に豪勢な料理が並べられていく。長テーブルのはダークエルフ族のお偉いさんのような風体をした者達も着席し、慣れない僕はお誕生日席で緊張して固まっていた。
「本日は新たな王、将三郎様の歓迎をさせていただきます。料理と酒を楽しんでいただけたら幸いです」
視線が一斉に僕へと向けられる。歓迎とは言っているが、その視線は僕を品定めしている目だ。無論、歓迎ムードの視線もあった。主にアイザからだが。
僕は立ちあがり、全員の顔を見ながら喋る。
「皆さんお忙しいなか集まってくださり、ありがとうございます。そして突然の来訪で迷惑をお掛けして申し訳ありません。まだ右も左も分かりませんが、八咫より王として認められました。名は将三郎と申します。今後とも仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
皆が無言だった。怖い。本当、こういうの慣れてないし即興の台詞だったから失敗したかもしれない。
と、やらかした感いっぱいで帰りたくなったところで皆が置かれたカップに手を伸ばした。配られたカップの中には赤い液体が注がれている。僕でも分かる。この後にやることは……。
「新たな王に」
「新たな王に!」
乾杯だった。これなら僕でもできるぜ。
「ありがとうございます。皆の健康と武運に!」
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