高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第90層 紫黒大森林 -ヘルフォレスト-

第28話 道理と理由

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 ヴィザルエンティアラに来てから2日が経過した。

 幸いにもまだオーク達の襲撃はない。ただ、エミの部下の隊長達のお陰で奴等の基地的な場所は見つけられた。そこを攻める為に作戦を再確認していた。

 この場にいるのはアイザ率いる弓兵部隊ノート族。エミ率いる魔法部隊エンティアラ族。

 そして王命に応じてくれた者がいる。お酒の早飲みでエミに勝ったグランだ。彼が率いるブラスカ族は剣の扱いに長けているとのことで、白兵部隊になってもらった。

 更にジェスタという男が来てくれた。彼は偶然にも隠密を得手とする部族、【イラ族】の首長を務めていた。
 先の歓迎会では姿が見えなかったが、聞けば元から影が薄いのだとか。ちゃんと参加してくれていたのに挨拶できずに申し訳ないと謝罪したところ、受け入れてくれたので良い人である。

「まず僕が率いる隠密部隊が攪乱する。基地内が混乱したところで、エミのエンティアラ族が魔法攻撃。大打撃を与えたところにグラン達が殲滅を担当。討ち漏らしはアイザ達弓兵部隊が担当してもらう。これが大まかな作戦概要だ。質問ある人!」

 全員の顔を見る。それぞれが違った表情をしていた。その中でも一番気になったのはしかめっ面のグランだ。

「……質問はなさそうだな。今の作戦をそれぞれに伝えてほしいから一旦解散しよう」

 頷いた面々が各部族の精鋭を集めた陣地に戻っていく。僕はその中のグランの背中に声を掛ける。

「グラン、ちょっと来てくれ」

 ピタリと止まったグランがゆっくりと振り返る。しかしそのまま動こうとしない。仕方なく手招きすると、嫌々戻ってきた。

「……ちょっと顔に出過ぎかなって」
「儂は歓迎はしたが、お主を王と認めた訳ではないのでな」

 まぁ、そんなことだろうなとは思ってた。掟破りの外界の王。快く認めてもらえるとも思っていない。

 しかし一つだけ疑問があった。

「なら、何で来た?」
「……」
「やってきた傍から掟を蔑ろにし、決して強くもないただの人間が偉そうに指揮を執るここへ、何故来たんだ?」
「……場所を変えよう」

 くい、とグランが顎で村の外を指す。僕は頷き、グランの後ろをついていく。しばらく歩いて着いた場所は集落の外だった。ここへ来た時よりは煙は少なくなっているが、まだ数本、細々とした白煙が立ち昇っていた。

 立ち止まったグランがこちらへ振り返った。そしてその場に腰を下ろす。それに習い、たまたま燃え残った丸太の上に僕も腰を下ろした。

「儂は村で一番強い」

 グランはバン、と膝を叩いてそう言い放った。

「何なら、ダークエルフ族で一番、強い!」

 空に向かって叫ぶように、彼はそう言ってのけた。

「誰も強い! 生まれてこの方負けたことがない! なのに何故儂が貴様の言いなりにならなきゃいけない!?」
「……」
「儂の気持ちはそれしかない。なのに体は勝手に動いた。突き動かされた。儂が、気付けばここへ来ていた。それがわからん」

 腕を組んだグランは本当に分からないといった顔でジーっと燃えカスを見つめていた。

「多分、本能で王となる者に従うように決められているんだと思う」
「そんな雑な理由で儂を支配されては困る!」
「しかしそれ以外に説明がつかない。僕だって自分が強いとは思っていない。これは本当に心の底から思ってる。僕は弱いことは僕が一番知っている」
「お主が我等に勝るものなどない。儂らの研鑽の日々を軽く見られては困る」

 憤慨するグランに、僕は首を横に振った。膝の上に肘を置き、真剣な目付きでグランを見つめる。

「軽く見たことなんて一度もない。君達は素晴らしい種族だと思っている。だから助けたい。掟を破ってでも。グランはそうは思わないのか?」
「掟なんぞどうでもいい!」

 予想外の言葉に思わず背筋が伸びた。掟を重んじるダークエルフの口からそんな言葉が出てくるとは、流石に予想していなかった。

「だが儂は首長だ。一番強いから首長になった。強さには責任が伴う。だから、皆の手本となる為に掟を破る訳にはいかなかった。だから静観していたのだ……その儂の意志が書き換えられたように、お主の命に従っていた……やはり、お主が王だからなのか?」

 認めたくない。信じたくない。認めようと、信じようとしてる自分を消すように腕を振るう。しかしどうあってもそれができないとも頭のどこかで理解している。グランの目は右に、左にと忙しなく動くが、最終的に一点を見つめていた。

 それは王剣スクナヒコナだった。

「剣を抜け、将三郎」
「グラン……」

 戦う意味がない。そう言おうとして遮られる。

「意味がないなんて、そんな無慈悲なことを言ってくれるな。理由が必要なのだ。儂が貴様に従う道理が必要なのだ。何故なら、儂は一番強いのだから!」

 背中に背負っていた大剣を抜き、構える。分厚い刃は研がれ、空気すら裂きそうな迫力があった。

「……分かった。これでグランが納得してくれるなら、僕はお前の為に剣を抜こう」

 久しぶりに鞘から抜いたスクナヒコナの青黒い刃をグランに向ける。

「本気で掛かってこい! 行くぞォ!」

 剣を振り上げ、飛び込むように向かってきながら一気に鉄塊が振り下ろされる。

 靴の力で右に飛び、それを避ける。巻き上がる灰が周囲を包んだ。その間に【夜鴉のコート】のフードを被る。コートに備わったアビリティ【黎明の影ドーンシャドウ】が僕の存在感を薄れさせた。

「き、消えた……いや、微かに音がするぞ、甘いな!」

 横薙ぎに大振りで僕を狙うグランだが、それを受ける僕ではない。しゃがんで避けた後に素早く移動し、剣が振り切られた先、剣を持った腕が伸びきった真下へと潜り込む。

 一瞬、グランと目が合う。

「う……!?」
「ッ!」

 剣を持っていない手で僕を殴ろうと拳を振り上げるが、それが振り下ろされるよりも早く、スクナヒコナの石突でグランの手首の中心を強く突く。

「ぐぁっ……!」

 鋭い痛みに怯むが、剣は取り落とさない。流石だ。だが大きな隙だ。

 靴の力を発動させる。だが移動の為には使わない。その力を体を回転させることで蹴りの威力へと転化する。

 その威力を乗せた一撃がグランの顎を蹴り抜いた。

「……ッ、……ッ!」

 言葉にならない声で呻き、よろけるように後退したグランが尻もちをついた。口から嘘みたいな量の血を流しながらグランが僕を睨む。

 フードを取り、姿を現しながら僕もグランを見返した。

「これで僕はお前の理由になれるか?」
「……」

 グランは答えず、血塗れの歯を見せ、ニヤリと笑った。

 そしてそのまま、後ろへ倒れた。
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