高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-

第37話 でかい奴はぶっ飛ばして分からせろ

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【禍津世界樹の洞 第89層  白骨平原アスティアルフィールド ホワイトオークの里 ガラッハ】


 ハドラーの案内で集落の前までやってきた。ここもまた、カオスオークの前線基地のように集落の内と外を防壁で隔てていた。だが使われている物は木ではなく、骨だ。丸太のように太い骨が隙間なく植えられ、防壁の役割をしていた。

 いったい何の骨を使ってるんだ……こんな太くて大きな骨、見たことがない。だが弧を描いた形状は何となく肋骨を思わせた。仮にこれが肋骨だったら、少なくとも人間よりはかなり大きな生き物のものだが。

 集落に近付いてくる恐れ知らずを退治しに行ったはずのハドラーが、その人物を連れて帰ってきたことで騒ぎになっていた。出入口となるスペースの左右で槍を手にしていたオークはハドラーの真意が読めず戸惑っている。

 その出入口の傍には見張り用と思われる櫓も建てられていた。骨で作られた櫓の、これまた骨で作られた梯子を上った先の小さなスペースでオークが弓に矢をつがえる準備をしたままこちらを見ていた。

「長老は?」

 ハドラーが門番に声を掛ける。

「や、屋敷にいらっしゃるかと……」
「すぐに呼んでくれ!」

 ハドラーが声を上げる。すると櫓の上にいたホワイトオークがすぐに下りて集落へと引き返していった。

 しばらくすると、背中に立派なでかい剣を背負った全身が古傷だらけのでかいオークがやってきた。グランもそこそこの巨体だったし、カオスオークもなかなかでかかったが、このオークはそれ以上だ。それに、なんというか……密度が違った。何か大きな金属の塊をギュッと人型サイズに押し固めたような、そんな圧があった。

「……そこにおられるのは八咫様か」

 地鳴りのような低く響く声が聞こえた。僕が王様じゃなかったら泣いて許しを請うだろう。

「あぁ。貴様がホワイトオークの長老か?」
「如何にも。して、そちらが王か」

 鋭い視線が僕を捉えた。正直、裸足で逃げ出したくなる。だがここで逃げていては平らかなる王にはなれない。意を決した僕はジッとホワイトオークの長老、ガーニッシュの目を見て答えた。

「八咫に認められ、王となった。将三郎だ。よろしく頼む」
「……ふぅ。小さいな」

 初手でディスられた。お前より大きな生き物なんて象か鯨くらいだと言い返したい気持ちをグッと堪える。

「小さき者は弱い。弱い者は王にはなれぬ」
「私が認めたのだ。彼は王としての資質があるとな」
「八咫様が認めたとしても、それに仕えるかどうかの判断は、俺の裁量だ」
「不遜が過ぎるぞ」

 ちら、と八咫が僕を見る。

「しかし、そこまで言ったのなら責任を持て」
「そのつもりだ」

 僕を置いて勝手に話の流れを持っていきやがった。この流れの行き着く先を、僕は知っている。まぁ、どうせこうなると思っていた。

 知っていたさ。こういうでかい奴は力を示さないと従わないと。力で捻じ伏せて、ようやくスタートラインに立てると。

「そういうことなら、実力を示せば認めてくれるってことかな」

 腰に下げたスクナヒコナに触れる。しかしガーニッシュは呆れたように笑うだけだった。

「ははは、そんな玩具で強がられてもな……」
「無礼な……!」

 アイザが代わりに怒ってくれるが、それを手で制す。

「剣とは、こういう物だ!」

 ガーニッシュは背負っていた大きな白い大剣を振り回し、地面に叩きつける。草を裂き、舞い上がる土煙を八咫の羽ばたきが掻き消した。

「玩具を壊してしまっては、申し訳がないからな」

 随分舐め散らかしてくれるな……別に僕は王様だからといって偉ぶりたい訳ではないことは散々リスナーの皆さまには伝えてきたが、流石にここまで言われれば腹も立つ。

「ふむ。まぁ、その大剣からしてみればこちらの王の武器は貧相に見えなくもないな」
「おい八咫、お前、あっちの味方か?」
「勘違いするな。見た目は大事と言いたいだけだ」

 言ってることの意味がわからず首を傾げていると、八咫が自身の翼に嘴を突っ込み、羽根を一つ引き抜いた。痛そうな顔でそれを見ていると、ふいっとその抜いた羽根をこちらへ投げた。

 風に揺れる羽根はゆらゆらと舞い上がり、ガーニッシュの背丈よりも高く飛んでいく。見上げるくらいに羽根が小さくなっていき、やがて黒い点になった。

 何がしたいんだと思い、八咫の方を見ようとして首筋がぞわりと泡立つ。

「ッ!?」

 後方へジャンプして下がる。僕のいた場所に影があった。それはみるみるうちに大きくなり、ズドン! と大きな音を立てて1本の黒い大剣が突き立った。

 日の光を受けて青黒く輝く姿は王剣スクナヒコナを思わせる。しかし腰に下げた剣よりも巨大だった。漫画かアニメでしか見ないようなサイズ感だ。

「これなら見劣りしないだろう」
「こんなの、僕に扱えってのかよ……」
「貴様なら扱えるだろう。何せこれも王剣だからな」

 二羽のカラスが背中合わせで止まるようなデザインの鍔。そのカラスが広げた互いの片翼が両刃を形成している。片翼同士なので刃と刃の間にはスリットが出来ていて向こう側が見える。そしてカラスの鍔からは長い柄が伸びていた。

 不思議なデザインだ。なんでこんなややこしい形をしているのだろうと思いながら見ていて気付いた。これ、遠目で見ると抜けた羽根のように見える。

「【王剣リョウメンスクナ】。これならそこのつけ上がったオークをねじ伏せ、納得させられるだろう」
「リョウメンスクナ……これが、僕の新しい王剣か」

 柄を握り、地面から引き抜いてみて驚いた。スクナヒコナの時もそうだったが、見た目以上に軽い。持った重さとしてはスクナヒコナと同じくらいの重量だ。お陰様で僕でも難無く持ち運びできそうだ。

「……ふん。初めて触った剣で、この集落で最も強い戦士である俺を倒し、認めさせられるのか?」
「ご尤もな意見だな。僕も不安だったが……触れてみてすぐわかった」

 ブン、と大剣を振り、リョウメンスクナを下段に構える。

「すぐにでもあんたを空までぶっ飛ばせそうだよ」
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