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第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-
第45話 色欲の女王
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上空では見たことないサイズの鳥がゆったりと旋回を続けていた。下から見ただけでもかなりのサイズがある。あんなの、油断してようがしてなかろうが逃げられないし結局戦うことになっていたんじゃないか?
「ハドラー、大丈夫か?」
「……死ぬかもしれません」
「……」
窮地だからこそでてくる冗談だと思いたかったが、ハドラーの顔は青褪めていた。溜め込んだ空気を鼻から吐き出し、ハドラーの肩を叩く。
「死にそうになったら迷わず介入する。その時は諦めて助けられてくれ。試練は次回頑張ってもらうことになる」
「恩に着ます、王よ。……お前達、聞こえたな? 全力で立ち向かえ! いざとなったら我らが王が助けてくれる!」
信頼されてるなぁ。僕にあれが倒せるか分からないけど、アイザも八咫もいる。頑張ればやれるはずだ。
アイザは既に弓に矢をつがえながら待機している。八咫は人間モードで腕を組みながら鳥を見上げていた。同じ鳥類ということで何か通じる物があるのかもしれない。敵意か好意かは分からないが。
「あれは何てモンスターなんだ?」
「ラストハルピュイア」
「ラスト? ……あぁ、最後のじゃなくて、色欲か」
ラースヴァイパーが憤怒の蛇なら、あの鳥は色欲か。なんだか嫌だな。安直で。
しかしハルピュイア……ハーピーの方が馴染みが深いか。ハーピーと言えば半人半鳥のイメージだ。あれは完全に鳥だが……。
「半分鳥、半分人なら、どっちかに寄せられるだろう?」
「……? ごめん、その仕組みはよく分からない」
「鳥は人間にはなれない。人間は鳥になれない。半人半鳥なら、どちらにでもなれるということだ」
「あぁ……目から鱗だわ」
半々という考えだとイメージ的にどっちつかずだと思考が凝り固まっていた。なるほど、そういう考え方もあるのか……。そうなると八咫はどうなんだろう。半人半鳥半神? いや、導きの神を自称していたから半々システムとは別枠か。
「そら見ろ、下りてきたぞ」
「大きいですね……いざという時、倒せるかどうか」
「エンティアラの魔法があれば楽勝だよ。雨も降ってないし」
雨天時に雷の魔法は使えないが、今日は恐ろしいくらいに晴れている。これもラストハルピュイアの権能のようなものだろうか。
高度を下げたラストハルピュイアはその大きな翼で自身を覆い隠し、一気に開く。突風に草原が根元から倒れ込んでいく。まるで衝撃波だ。飛ばされないように、抜いた剣を地面に突き立ててしがみつく。その僕にアイザが隠れるようにしがみつく。八咫は依然として仁王立ちのままだ。
風になびく長い黒髪を横目に、前方の様子を伺う。
「なっ……!?」
巨大な竜巻が発生していた。地と天を繋ぐような長い竜巻はギュッと収束して細い糸のようになっていく。どこかで見た光景だ。それをやって見せた本人をチラっと見ると、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。仮面で顔の下半分は隠れているが、めちゃくちゃ嫌そうな目で竜巻を睨んでいた。
「ふふふ……」
誰かが笑っている。
「あーはっはっはっはー!」
高笑いと共に竜巻が弾けた。その中から現れたのは先程までの巨大な白い鳥ではない。むしろ真逆の存在が現れた。
半人半鳥。鳥から人へ。大きな姿から、小さな姿へ。
「貴様らー! ここは私様の縄張りだぞ! 出てかんかい!!」
小さな体に大きな羽根を生やした白い髪の女の子が、仁王立ちで縄張りを主張していた。羽毛と同じ白い髪が地面にまで長々と伸びているのが鳥形態の尾羽のようだ。
あれと戦うのかと困惑していた僕だが、僕以外は誰も油断していなかった。ハドラー達は武器を構えているし、アイザは鋭い目で一挙一動を見張っているし、八咫は嫌そうな目で睨んでいた。
「……」
無言でジリジリと距離を詰めるアレッド。盾に身を隠しながら近寄る様は立派なタンクだ。ラストハルピュイアを取り囲むようにハドラー達が配置したところで、ラストハルピュイアが大きな溜息を吐いた。
「はぁー、全然油断しないじゃん。幼女姿駄目かぁ。……なら、ちゃんとした姿で戦うしかない、か」
どこまでも呑気な口調だが、その目だけは誰よりも鋭かった。再び起こった竜巻が、今度はぐるぐると移動し始める。アレッドやハドラー達を襲うように地面を抉りながら進む竜巻。皆、間一髪のところでそれを回避していた。
「我が名はヴァネッサ! 天地を統べる色欲の女王ラストハルピュイア! さぁ、戦おう! 己の領地を守る為に死力を尽くして戦おうぞ!!」
竜巻が弾け、中から現れたのは妖艶な女性だった。白い髪は幼女時とは逆に短くなり、代わりに腰に巻いた布が尾羽のように長い。姿かたちは変わっても、鳥の姿をモチーフにしているのは変わらないらしい。
それにしても……目に毒とはこういうことを言うのかもしれない。出るところは出て、引っ込むところは引っ込むというのをちゃんと見たのは初めてかも。流石は色欲の女王。さっきの幼女とはまったく違う姿だが、成長した姿だと言われたら、確かに面影はあるかもしれない。
人間的成長以外に特筆すべき違いと言えば、背中に生えていた大きな翼は消えていることだろう。代わりに腕から直接、白い羽根が生えていた。鳥人間には邪魔な翼はなく、あの腕の羽根の力で飛んでいるのだとしたら脅威だ。鳥のように飛ぶ人間なんて恐ろし過ぎる。
「さっきからころころ姿変えやがって、いったいどれが本物の姿なんだ!?」
「どれもが私様だよ! 全てが私様、全てを支配するのも私様! 私様私様私様私私私私私私!! 私様こそが最強なのだー!!!」
「クソッ!」
八咫の前でよくもまぁそんな大言壮語を……あぁ、だからさっきから八咫の機嫌が悪いのか。
痺れを切らしたブルーノが大剣で斬りかかる。だがラストハルピュイア……ヴァネッサはそれを舞うように躱す。伸ばした指をくい、と曲げると突風がブルーノを吹き飛ばした。
ヴァネッサの背後へキーロがその素早い動きで一気に詰め寄り、二対の剣を振り下ろす。
「風の動きで見えているよ!」
しかしその攻撃も躱される。そのまま蹴りを放ち、吹っ飛ばされたキーロは地面を転がっていく。風の動きというからには何か大気の動きを読んでいるのかもしれない。
「あの翼だ」
「翼?」
「羽毛が細かい空気の動きを感知しているんだ。だからどこから攻撃しても感知される」
「なるほど……」
あの羽毛を全部毟らないと勝てないのか。しかし毟ろうとしても感知されて躱される……。これは難しい相手だな。あれを攻略する為には……と色々考えている間も戦闘は進む。
「ウオラァアア!!」
「遅い遅い!」
ハドラーの鋭い突きを避けたヴァネッサは槍に手を添え、ハドラーの勢いを利用して軽々と吹っ飛ばす。嘘みたいな大回転でハドラーが飛んでいく下をアレッドが盾を構えて突進する。
「ぬうううん!」
「軽い軽い!」
真正面からの盾の突進を、ヴァネッサは躱すのではなく受け止めた。てっきり、完治能力が高い分、本体の防御性は低いと思っていたのだが、あれを受け止めるのは相当頑丈だ。
「嘘でしょ……」
「嘘じゃなーいよ、っと!」
「ぐあぁああ!!」
腰を落とし、盾に向かってすらっとした綺麗な指を揃えて向け、グッと握り、一気に正拳突きを放つ。その一撃は盾を砕き、驚くことにアレッドもまた、ハドラーのように嘘みたいな勢いで吹っ飛んでいった。映画とかで見たことある。確か……
「寸勁か」
「それだ。なんであんなに吹っ飛ぶんだよあれで」
「そういう技だ」
なんだ、そういう技か。なら仕方ないか。しかしあっという間に全員が吹き飛ばされたな……。全員が全員、吹き飛ばされている。腕を斬られたりとか、足を落とされたりとか、体に風穴を開けられたりとか、そういった血を見るようなことがなかった。
だからかな……僕は彼女も話せばわかるタイプのように思えた。
「後は貴様らだけか! さぁ掛かってこい!」
流麗な動きで何か武術のような構えを取り、くいくいと手招きをするヴァネッサ。その仕草を見ても、先程の強さを思い返しても、やはり僕は彼女が殺戮を好むタイプのモンスターには見えなかった。
「ハドラー、大丈夫か?」
「……死ぬかもしれません」
「……」
窮地だからこそでてくる冗談だと思いたかったが、ハドラーの顔は青褪めていた。溜め込んだ空気を鼻から吐き出し、ハドラーの肩を叩く。
「死にそうになったら迷わず介入する。その時は諦めて助けられてくれ。試練は次回頑張ってもらうことになる」
「恩に着ます、王よ。……お前達、聞こえたな? 全力で立ち向かえ! いざとなったら我らが王が助けてくれる!」
信頼されてるなぁ。僕にあれが倒せるか分からないけど、アイザも八咫もいる。頑張ればやれるはずだ。
アイザは既に弓に矢をつがえながら待機している。八咫は人間モードで腕を組みながら鳥を見上げていた。同じ鳥類ということで何か通じる物があるのかもしれない。敵意か好意かは分からないが。
「あれは何てモンスターなんだ?」
「ラストハルピュイア」
「ラスト? ……あぁ、最後のじゃなくて、色欲か」
ラースヴァイパーが憤怒の蛇なら、あの鳥は色欲か。なんだか嫌だな。安直で。
しかしハルピュイア……ハーピーの方が馴染みが深いか。ハーピーと言えば半人半鳥のイメージだ。あれは完全に鳥だが……。
「半分鳥、半分人なら、どっちかに寄せられるだろう?」
「……? ごめん、その仕組みはよく分からない」
「鳥は人間にはなれない。人間は鳥になれない。半人半鳥なら、どちらにでもなれるということだ」
「あぁ……目から鱗だわ」
半々という考えだとイメージ的にどっちつかずだと思考が凝り固まっていた。なるほど、そういう考え方もあるのか……。そうなると八咫はどうなんだろう。半人半鳥半神? いや、導きの神を自称していたから半々システムとは別枠か。
「そら見ろ、下りてきたぞ」
「大きいですね……いざという時、倒せるかどうか」
「エンティアラの魔法があれば楽勝だよ。雨も降ってないし」
雨天時に雷の魔法は使えないが、今日は恐ろしいくらいに晴れている。これもラストハルピュイアの権能のようなものだろうか。
高度を下げたラストハルピュイアはその大きな翼で自身を覆い隠し、一気に開く。突風に草原が根元から倒れ込んでいく。まるで衝撃波だ。飛ばされないように、抜いた剣を地面に突き立ててしがみつく。その僕にアイザが隠れるようにしがみつく。八咫は依然として仁王立ちのままだ。
風になびく長い黒髪を横目に、前方の様子を伺う。
「なっ……!?」
巨大な竜巻が発生していた。地と天を繋ぐような長い竜巻はギュッと収束して細い糸のようになっていく。どこかで見た光景だ。それをやって見せた本人をチラっと見ると、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。仮面で顔の下半分は隠れているが、めちゃくちゃ嫌そうな目で竜巻を睨んでいた。
「ふふふ……」
誰かが笑っている。
「あーはっはっはっはー!」
高笑いと共に竜巻が弾けた。その中から現れたのは先程までの巨大な白い鳥ではない。むしろ真逆の存在が現れた。
半人半鳥。鳥から人へ。大きな姿から、小さな姿へ。
「貴様らー! ここは私様の縄張りだぞ! 出てかんかい!!」
小さな体に大きな羽根を生やした白い髪の女の子が、仁王立ちで縄張りを主張していた。羽毛と同じ白い髪が地面にまで長々と伸びているのが鳥形態の尾羽のようだ。
あれと戦うのかと困惑していた僕だが、僕以外は誰も油断していなかった。ハドラー達は武器を構えているし、アイザは鋭い目で一挙一動を見張っているし、八咫は嫌そうな目で睨んでいた。
「……」
無言でジリジリと距離を詰めるアレッド。盾に身を隠しながら近寄る様は立派なタンクだ。ラストハルピュイアを取り囲むようにハドラー達が配置したところで、ラストハルピュイアが大きな溜息を吐いた。
「はぁー、全然油断しないじゃん。幼女姿駄目かぁ。……なら、ちゃんとした姿で戦うしかない、か」
どこまでも呑気な口調だが、その目だけは誰よりも鋭かった。再び起こった竜巻が、今度はぐるぐると移動し始める。アレッドやハドラー達を襲うように地面を抉りながら進む竜巻。皆、間一髪のところでそれを回避していた。
「我が名はヴァネッサ! 天地を統べる色欲の女王ラストハルピュイア! さぁ、戦おう! 己の領地を守る為に死力を尽くして戦おうぞ!!」
竜巻が弾け、中から現れたのは妖艶な女性だった。白い髪は幼女時とは逆に短くなり、代わりに腰に巻いた布が尾羽のように長い。姿かたちは変わっても、鳥の姿をモチーフにしているのは変わらないらしい。
それにしても……目に毒とはこういうことを言うのかもしれない。出るところは出て、引っ込むところは引っ込むというのをちゃんと見たのは初めてかも。流石は色欲の女王。さっきの幼女とはまったく違う姿だが、成長した姿だと言われたら、確かに面影はあるかもしれない。
人間的成長以外に特筆すべき違いと言えば、背中に生えていた大きな翼は消えていることだろう。代わりに腕から直接、白い羽根が生えていた。鳥人間には邪魔な翼はなく、あの腕の羽根の力で飛んでいるのだとしたら脅威だ。鳥のように飛ぶ人間なんて恐ろし過ぎる。
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「どれもが私様だよ! 全てが私様、全てを支配するのも私様! 私様私様私様私私私私私私!! 私様こそが最強なのだー!!!」
「クソッ!」
八咫の前でよくもまぁそんな大言壮語を……あぁ、だからさっきから八咫の機嫌が悪いのか。
痺れを切らしたブルーノが大剣で斬りかかる。だがラストハルピュイア……ヴァネッサはそれを舞うように躱す。伸ばした指をくい、と曲げると突風がブルーノを吹き飛ばした。
ヴァネッサの背後へキーロがその素早い動きで一気に詰め寄り、二対の剣を振り下ろす。
「風の動きで見えているよ!」
しかしその攻撃も躱される。そのまま蹴りを放ち、吹っ飛ばされたキーロは地面を転がっていく。風の動きというからには何か大気の動きを読んでいるのかもしれない。
「あの翼だ」
「翼?」
「羽毛が細かい空気の動きを感知しているんだ。だからどこから攻撃しても感知される」
「なるほど……」
あの羽毛を全部毟らないと勝てないのか。しかし毟ろうとしても感知されて躱される……。これは難しい相手だな。あれを攻略する為には……と色々考えている間も戦闘は進む。
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「遅い遅い!」
ハドラーの鋭い突きを避けたヴァネッサは槍に手を添え、ハドラーの勢いを利用して軽々と吹っ飛ばす。嘘みたいな大回転でハドラーが飛んでいく下をアレッドが盾を構えて突進する。
「ぬうううん!」
「軽い軽い!」
真正面からの盾の突進を、ヴァネッサは躱すのではなく受け止めた。てっきり、完治能力が高い分、本体の防御性は低いと思っていたのだが、あれを受け止めるのは相当頑丈だ。
「嘘でしょ……」
「嘘じゃなーいよ、っと!」
「ぐあぁああ!!」
腰を落とし、盾に向かってすらっとした綺麗な指を揃えて向け、グッと握り、一気に正拳突きを放つ。その一撃は盾を砕き、驚くことにアレッドもまた、ハドラーのように嘘みたいな勢いで吹っ飛んでいった。映画とかで見たことある。確か……
「寸勁か」
「それだ。なんであんなに吹っ飛ぶんだよあれで」
「そういう技だ」
なんだ、そういう技か。なら仕方ないか。しかしあっという間に全員が吹き飛ばされたな……。全員が全員、吹き飛ばされている。腕を斬られたりとか、足を落とされたりとか、体に風穴を開けられたりとか、そういった血を見るようなことがなかった。
だからかな……僕は彼女も話せばわかるタイプのように思えた。
「後は貴様らだけか! さぁ掛かってこい!」
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