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第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-
第47話 (仮)を付ければ大体丸く収まる
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「静電気だよ」
「セイデンキ?」
ヴァネッサに勝てた仕組みを教えてやる。うつ伏せのまま器用に首を傾げたヴァネッサがバネのように跳ね起き、僕の前に胡坐をかいた。
僕が彼女に勝てたのは、腕の翼による感知能力を無効化したからだ。その仕組みが静電気だ。【エンティアラの雷光】を使い、魔法とも言えない魔法ではあったが電撃を照射し続け、周囲の大気を帯電させ、ヴァネッサの攻撃を避ける際に敢えて接触し、摩擦させることで羽毛の機能を壊した。
「……よく分からん!」
「分からんかぁ~」
「でも負けたのは分かる! やるやんけ!」
立ち上がったヴァネッサにバシバシと背中を叩かれる。凄く痛い。
よっこいしょ、と立ち上がる。グランと戦って以来、思ったように体が動くようになった。今回に関しては目と魔法が上手く使えるようになった気がする。魔法はもっともっと上手になるはずだ。
「ヴァネッサのお陰で僕も強くなれたよ。戦ってくれてありがとう」
「うむうむ。私様も知見を得た! よし、それじゃあ行こうか~」
戦って負けて、でも気持ち良く別れることができた。敵対している訳ではないけれど、こういう関係もスッキリしてて良いかもしれないな。
尻に付いた土を払い、僕は充足感を胸に抱きながら八咫とアイザの元に戻る。今回は結構上手くやれたし、八咫も褒めてくれるんじゃないかな……なんて八咫を見るが、不思議な事にめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。しかも不思議な事に、視線は僕の後ろへと向けられている。
振り返るとそこにはニコニコ顔のヴァネッサが立っていた。
「ん?」
「うん?」
お互いに首を傾げる。別れたはずだけど……行く方向が一緒なのかな。
「行くんじゃろ?」
「行くけど……」
「はよ行こうや」
「……えっ、一緒に?」
「もち!」
頭が混乱してきた。何でだ……僕が勝ったからついてくるってことか? そんな昔話みたいなことがあるのか?
でもこれ、どうしよう。ヴァネッサはついてくる気満々だが、階層の移動はできない。モンスターは安全地帯に入れない。
アイザのように八咫の眷属にならないと先には進めない。
そうか、だから出会った時から八咫は嫌そうな顔をしていたのか。ラストハルピュイアを知っていたから、こうなることも予想できたのかもしれない。八咫はずーっとしかめっ面だ。でもヴァネッサをここで置いていくとホワイトオーク相手に八つ当たりをしかねない。今後の事を考えたら、できれば連れて行きたいが……。
「……八咫」
「嫌だ」
「でもほら、機嫌損ねたらホワイトオーク達に迷惑かけるかもしれないし」
「関係な……くはない……」
「だろ? お願いできるか?」
八咫は僕達に背を向け、黙り込んだ。情が湧いているわけでもないのに眷属にするのはやっぱり抵抗があるのかな……眷属というのがどういうものか、はっきりとは理解できてはないが、より近しい身内と思えば今日出会ったばかりの敵を招き入れるのは難しいのかもしれない。
「わかった。じゃあ、しばらく一緒に行動してから考えよう」
「そうだな。私にも眷属にするかどうかの権利がある。ヴァネッサよ、我が寵愛に見合う立ち回りをしてみせろ」
「よく分からんけれど、私様、結構好かれやすい方だよ! よろしくね!」
突然出会い、圧倒的な強さを見せ、それに打ち勝ち、気付いたら一緒に行動することになっていた。
よく分からない奴だが……ヴァネッサが仲間(仮)になった。
【禍津世界樹の洞 83層 白骨平原】
少し進んで83層に到着したので休むことにした。ハドラー達は無事だ。気を失っていたようだが、起こせばすぐに立ち上がっていた。驚いたが、多少の切り傷や打撲であれば一晩寝れば治るとのことで納得した。流石に骨折や切断となれば大事だが、そうでもない限り動けるとは、やはりオークは頑丈だ。こうしてあの戦闘の場からここまで自分達の足で歩いてきたのだから凄い。
ヴァネッサは元気いっぱいだった。地面にしゃがんで何かを見てるのかと思えば、急に走り出したり、突然見えない何かと戦い出したり、普通に歩いたり。
でも情緒不安定という訳ではなく、単に落ち着きがないだけのようだ。ハドラー達にも気さくに絡んでいき、あっという間に仲良くなっていた。これに関してはハドラー達もまた、気持ちの良い奴等だと思えた。全力で戦い、負け、それでもまだお互いに生きて切磋琢磨する関係というのはとても貴重だ。
こうして種族ごとに各層が分かれているせいで他種族との交流が持てないのがこのダンジョンの良い所でもあり、悪い所でもある。部族同士の結びつきは強くなるかもしれないが、文化の停滞や成長の限界は無視できない大きなデメリットだ。
「俺達にも翼があればな……」
「あの感知能力は魅力的だよね!」
なんて会話が聞こえるが……多分、そういうことなんだけど、そうじゃないと僕は思う……。
皆が寝静まった頃、僕はコメント欄を眺めながらリスナーと雑談をしていた。好きな食べ物、嫌いな天気。外では何があったとか、誰々があーだこーだ……。
「たまにはFPSとかもしたくなるよなぁ……でも全然やってないから全然弾が当たらんのよな。でもわちゃわちゃしてすっごい楽しい。RPGも最近はグラフィックが凄く綺麗だから没入感が凄くて……帰ったら新作とかやりたいなぁ」
話す内容はどの話題も、いつの間にか最後は帰ったらしたいことになっていった。死亡フラグみたいだねってコメントも流れたけれど、僕は全然そうは思わない。希望を持つことは何よりも強い。絶望が力になる時もあるかもしれないけれど、それはまだ僕には早い。
今、生きている。仲間も増えた。ならやりようはいくらでもあるはずだ。
まずは明日、ベクタまで無事に到着する。ハドラー達が今回のことで試練をどう思っているかは分からないけれど、生きているのだからいくらでもやり直しはできるはずだ。
「そろそろ寝るわ……また明日も、配信見てくれよな」
そう言ってオートモードの魔導カメラを手で押す。ふわりと揺れたカメラは中空を漂い、どこまでも続く草原や、夜空を映していた。
「セイデンキ?」
ヴァネッサに勝てた仕組みを教えてやる。うつ伏せのまま器用に首を傾げたヴァネッサがバネのように跳ね起き、僕の前に胡坐をかいた。
僕が彼女に勝てたのは、腕の翼による感知能力を無効化したからだ。その仕組みが静電気だ。【エンティアラの雷光】を使い、魔法とも言えない魔法ではあったが電撃を照射し続け、周囲の大気を帯電させ、ヴァネッサの攻撃を避ける際に敢えて接触し、摩擦させることで羽毛の機能を壊した。
「……よく分からん!」
「分からんかぁ~」
「でも負けたのは分かる! やるやんけ!」
立ち上がったヴァネッサにバシバシと背中を叩かれる。凄く痛い。
よっこいしょ、と立ち上がる。グランと戦って以来、思ったように体が動くようになった。今回に関しては目と魔法が上手く使えるようになった気がする。魔法はもっともっと上手になるはずだ。
「ヴァネッサのお陰で僕も強くなれたよ。戦ってくれてありがとう」
「うむうむ。私様も知見を得た! よし、それじゃあ行こうか~」
戦って負けて、でも気持ち良く別れることができた。敵対している訳ではないけれど、こういう関係もスッキリしてて良いかもしれないな。
尻に付いた土を払い、僕は充足感を胸に抱きながら八咫とアイザの元に戻る。今回は結構上手くやれたし、八咫も褒めてくれるんじゃないかな……なんて八咫を見るが、不思議な事にめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。しかも不思議な事に、視線は僕の後ろへと向けられている。
振り返るとそこにはニコニコ顔のヴァネッサが立っていた。
「ん?」
「うん?」
お互いに首を傾げる。別れたはずだけど……行く方向が一緒なのかな。
「行くんじゃろ?」
「行くけど……」
「はよ行こうや」
「……えっ、一緒に?」
「もち!」
頭が混乱してきた。何でだ……僕が勝ったからついてくるってことか? そんな昔話みたいなことがあるのか?
でもこれ、どうしよう。ヴァネッサはついてくる気満々だが、階層の移動はできない。モンスターは安全地帯に入れない。
アイザのように八咫の眷属にならないと先には進めない。
そうか、だから出会った時から八咫は嫌そうな顔をしていたのか。ラストハルピュイアを知っていたから、こうなることも予想できたのかもしれない。八咫はずーっとしかめっ面だ。でもヴァネッサをここで置いていくとホワイトオーク相手に八つ当たりをしかねない。今後の事を考えたら、できれば連れて行きたいが……。
「……八咫」
「嫌だ」
「でもほら、機嫌損ねたらホワイトオーク達に迷惑かけるかもしれないし」
「関係な……くはない……」
「だろ? お願いできるか?」
八咫は僕達に背を向け、黙り込んだ。情が湧いているわけでもないのに眷属にするのはやっぱり抵抗があるのかな……眷属というのがどういうものか、はっきりとは理解できてはないが、より近しい身内と思えば今日出会ったばかりの敵を招き入れるのは難しいのかもしれない。
「わかった。じゃあ、しばらく一緒に行動してから考えよう」
「そうだな。私にも眷属にするかどうかの権利がある。ヴァネッサよ、我が寵愛に見合う立ち回りをしてみせろ」
「よく分からんけれど、私様、結構好かれやすい方だよ! よろしくね!」
突然出会い、圧倒的な強さを見せ、それに打ち勝ち、気付いたら一緒に行動することになっていた。
よく分からない奴だが……ヴァネッサが仲間(仮)になった。
【禍津世界樹の洞 83層 白骨平原】
少し進んで83層に到着したので休むことにした。ハドラー達は無事だ。気を失っていたようだが、起こせばすぐに立ち上がっていた。驚いたが、多少の切り傷や打撲であれば一晩寝れば治るとのことで納得した。流石に骨折や切断となれば大事だが、そうでもない限り動けるとは、やはりオークは頑丈だ。こうしてあの戦闘の場からここまで自分達の足で歩いてきたのだから凄い。
ヴァネッサは元気いっぱいだった。地面にしゃがんで何かを見てるのかと思えば、急に走り出したり、突然見えない何かと戦い出したり、普通に歩いたり。
でも情緒不安定という訳ではなく、単に落ち着きがないだけのようだ。ハドラー達にも気さくに絡んでいき、あっという間に仲良くなっていた。これに関してはハドラー達もまた、気持ちの良い奴等だと思えた。全力で戦い、負け、それでもまだお互いに生きて切磋琢磨する関係というのはとても貴重だ。
こうして種族ごとに各層が分かれているせいで他種族との交流が持てないのがこのダンジョンの良い所でもあり、悪い所でもある。部族同士の結びつきは強くなるかもしれないが、文化の停滞や成長の限界は無視できない大きなデメリットだ。
「俺達にも翼があればな……」
「あの感知能力は魅力的だよね!」
なんて会話が聞こえるが……多分、そういうことなんだけど、そうじゃないと僕は思う……。
皆が寝静まった頃、僕はコメント欄を眺めながらリスナーと雑談をしていた。好きな食べ物、嫌いな天気。外では何があったとか、誰々があーだこーだ……。
「たまにはFPSとかもしたくなるよなぁ……でも全然やってないから全然弾が当たらんのよな。でもわちゃわちゃしてすっごい楽しい。RPGも最近はグラフィックが凄く綺麗だから没入感が凄くて……帰ったら新作とかやりたいなぁ」
話す内容はどの話題も、いつの間にか最後は帰ったらしたいことになっていった。死亡フラグみたいだねってコメントも流れたけれど、僕は全然そうは思わない。希望を持つことは何よりも強い。絶望が力になる時もあるかもしれないけれど、それはまだ僕には早い。
今、生きている。仲間も増えた。ならやりようはいくらでもあるはずだ。
まずは明日、ベクタまで無事に到着する。ハドラー達が今回のことで試練をどう思っているかは分からないけれど、生きているのだからいくらでもやり直しはできるはずだ。
「そろそろ寝るわ……また明日も、配信見てくれよな」
そう言ってオートモードの魔導カメラを手で押す。ふわりと揺れたカメラは中空を漂い、どこまでも続く草原や、夜空を映していた。
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