高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-

第49話 勘違い、擦れ違い

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【禍津世界樹の洞 第82層  白骨平原アスティアルフィールド ホワイトオークの里 ベクタ】


「こういうのは早い方がいい」

 そう言ってエンリケが持ってきたのは草で出来た腕輪だった。ミサンガとか、そんな風な見た目のシンプルな物だ。
 しかし細かく編んだ草に幾つか等間隔で穴を開けた魔力石が通されている。不思議な色だ。白しかないこの世界で赤や青い石というのは目を引く。

「これが長の証?」
「そう。俺が作ったんだ」

 聞けば長の証というのは新しい長が、盟友の集落の新たな長に向けて作るのだとか。この広大な草原の中から稀に採取できる光る白草を摘み、モンスターを倒した魔力石を削って穴を開ける。魔力を通せば石や草は綺麗な色に光るそうだ。

 そうして出来た証は新たな長へと送られるのだ。

「おめでとう、ハドラー。我が友よ」
「ありがとうエンリケ。これからもよろしく頼む」
「はっはっは! 長としては先輩だからな。いつでも頼れよ?」

 案内された長の家で証を受け取り、ハドラーはガラッハの長になった。あとは無事に戻るだけだ。戻った後もガーニッシュや現幹部らが一悶着を起こしそうで不安だが……。そうなったら僕は動くつもりだ。試練は集落に戻った時点で完了する。あとはどう動こうと僕の勝手だ。

「さて、今日は休め。明日は一日中大騒ぎだ!」

 エンリケの計らいで寝室に案内され、身を清めた後は簡単な夕食をご馳走になった。



 翌朝。部屋の外を人が行き交う足音で目が覚めた。

「んんぅ……」

 彼等は体が大きいから、その分足音も大きい。シンプルに部屋が揺れるのだ。

 寝返りを打ち、目を擦りながら意識して深呼吸を繰り返し、脳を覚醒していく。暗い部屋の天井が見えてきた頃、上体を起こしてベッドから抜けようと体を動かすと、何か柔らかいものに手が触れた。

「……」

 まさかとは思うがこんな漫画的展開があっていいのだろうか。まさか配信で映ってた? 素早くカメラを見るが、寝る前に設定したいつものオートモードで天井付近でふわふわと明後日の方向を映していた。

 次に自分の服装を見る。……うん。全裸とかではない。ちゃんと寝る前と同じ服装だ。一度脱がされて着せられた、なんてこともなく、ちゃんと前後ろも合っている。

「ふぅー……」

 深呼吸し、そーっと手が触れた先を見る。そこにはやっぱりというか、なんというか、まぁそんなこったろうなと思う人物。ヴァネッサが気持ち良さそうに眠っていた。

 元々肌の露出は多い方だがちゃんと服を着てる辺り、そういうこと・・・・・・はなかったように思える。

「起きて、ヴァネッサ」
「んん……ぐぅぅ……」

 肩を揺らすと嫌そうに手を弾かれる。が、パッと目を開けて起き上がった。寝覚めは良い方らしい。不思議そうに僕や周囲を見回している。

「なんでしょうちゃんがいるの?」
「それは僕が聞きたいんだが、まずはそのしょうちゃんってのをやめろ」

 何度も言うが僕をしょうちゃんと呼んでいいのはお母さんだけだ。

「トイレ行って~、帰ってきた」
「帰ってきた場所が違うんだよなぁ」
「どこでも一緒っしょ。あー、よく寝た! 朝ご飯なんだろ~」

 僕が頭を抱えてる横でヴァネッサはさっさと部屋を出て行ってしまった。ポジティブというか、考えなしというか……まぁ、あれくらい適当な方が気楽なのかもな。

 悩んでるのが馬鹿らしくなってきた。僕もさっさと支度をしないといけないので身支度を整えて部屋を出た。やはり行き交うオークの数が多い。今日は一日中宴だとエンリケも言っていたし、その準備に忙しいのだろう。

 邪魔にならないように廊下の端を歩きながら外へ出る。目に飛び込んでくるのは白い空。白い家。白いオーク達。服は白い草で編んだ色褪せた白い服。これがまたちゃんと服として作られているから驚きだ。……と言うとオークを見くびっているようにも聞こえるが、骨と草しかないこの地で立派に生地に仕上げているのだから凄い。何もないからこそ、突き詰めた作業と成果が得られるのかもしれないな。

 その辺を歩いてる住民を捕まえて井戸の場所を聞き、教えられた通りの場所へ行って無事に井戸へ到着した僕は水を引っ張り出して身支度を整えた。最後に新鮮な水を一杯飲み干し、すっきりした顔で振り返る。

「……」
「うわぁ!」

 八咫が仏頂面で立っていた。何も言わず、気配も消して。

「ビックリするだろ……おはよう」
「……」
「なんだよ」

 挨拶も返さない。ジーっと僕を見たまんま、何も言わないから、井戸でも使いたいのかと思って八咫の横を通って帰ろうと思ったら腕を掴まれた。

「……」
「何なんだよ、何か言えよ」
「よくそんな態度が取れるな」
「はぁ?」

 意味が分からない。ねめつけるようにジロリと見上げるが、僕のしょうもない威圧も裸足で逃げ出すような冷たい視線が突き刺さった。

「貴様の部屋からヴァネッサが出てくるところを見た。私にあれだけのことを言っておきながら、手が早いのだな」
「ちょ、ちょっと待って……あれはヴァネッサが部屋を間違えただけだよ。僕は朝までずっと寝てて何もしてないし、された形跡もなかった!」
「どうだかな」
「……なんだよ、信じてくれないのか?」

 正直、ちょっと悔しい。あと、悲しかった。昨日今日出会った奴の行動よりも、僕の言葉を信じてほしいと思った。そりゃ、自分で色欲の女王なんて名乗っていた奴が男の部屋から出てきたら疑うのも分かるけれど、それでも相棒の言葉くらい信じてくれてもいいんじゃないか?

 僕は信用を勝ち取れるように、期待に応えられるようにって頑張ってきたつもりだ。でも結局のところ、つもりはどこまでいってもつもり程度のものだったのかもしれないな。

「……お前だけは、僕を信じてくれると思ってたんだけどな」
「信じてないとは言ってない。ガッカリしているだけだ」
「何が違うんだよ……もういい」

 腕を掴む八咫の手を振り払う。仲違いだけはしたくなかったが……どうしてもいい気分ではなかった。

 1人歩く僕の背中を、八咫が追ってくることはなかった。
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