高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-

第52話 長の帰還

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 王様として八咫に任命されてから数日。短い間ではあるが色んなことがあった。突然のことで戸惑ったこともあったし、失敗もあった。勿論、成功したこともあった。良いことも悪いことも全部ひっくるめて僕の経験だ。後悔もあるし反省もある。全部ひっくるめて大事な思い出。

 そんな僕の王様としての歴史に、新たな1ページが刻まれる。

「うおおおおおお!!! 一番の臣下は我等ノート族だーーーーー!!!!」

 転がしたエンリケに片足を乗せ、天へと向けて突きあげられた拳。それに呼応するように盛り上がるオーク達。その場の9割の者が、大盛り上がりをしていた。

「ぐぅ……あんたが1番だ……アイザ殿……っ」

 転がされたエンリケはエンリケで、妙な役回りになっているにも関わらず、まんざらでもなさそうに口角を上向きに歪め、悔しそうに笑っていた。

「王よ……」
「僕に振るなよ。……僕が原因の一端ではあるけれどさ」

 いつの間にか隣に座っていたハドラーに肘で突かれるが、それを肘で返す。原因の一端ではあるが、こうなってしまった最大の原因はお酒だ。お酒さえ飲まなければ……いや、飲みすぎなければ、こうはならなかったはずだ。

 まぁ、酔いというのはいつかは醒めるものだ。時間が経てば全員正気に戻ってくれると信じて、僕は目の前の面倒ごとから目を逸らし、手に持っていた酒を一口で飲み干した。



 薄い雲に覆われてようやく姿を見せた白く丸い太陽が天辺に差し掛かろうとする頃、僕達はベクタを出発した。

 翌朝近くまで続いた宴のお陰でガラッハへの出発は昼近くになってしまった。主に僕や八咫、ハドラー達以外が正常に戻るの待ちだった。

「何かあった時は駆けつけるぞ、王よ」
「その時はよろしく頼むよ」
「王の身はアイザ殿、任せたからな」
「勿論です。一番の臣下ですから!」

 ドン、と張った胸を叩くアイザ。酷い酔いのようだったけれど、復活は早かった。しかし酔っていた時のノリは忘れていないらしく、ちゃんとアイザ達ノート族が僕の一番の臣下ということになっていた。

 変に揉めたくないから順位とかつけたくはないが、確かに一番傍にいる臣下は誰かと聞かれればやっぱりアイザが一番に出てくる。八咫の眷属ではあるが、こうして階層を越えてまでついてきてくれているのだからどうしても信頼度は高くなってしまう。

 それにヴァネッサも加わる。業腹だ業腹だとぼやいていた八咫も先程、ヴァネッサを正式に眷属に加えた。どういう手続きや仕組みがあったのかは分からないが、これでアイザとヴァネッサが八咫の眷属となり、安地階層を越えた移動が可能になった。

 女性ばかり増えていくのが気になるところだが、男衆はみんな各部族にとって重要なポジションで替えの利かない立場にいる者が多過ぎた。

 アイザは娘に引き継ぐことができたからよかったものの……ということはハドラーが長になったらお役御免になったガーニッシュが……?

「いや、あの性格じゃあな……」
「どした、しょうちゃん」
「しょうちゃん言うな」

 覗き込んでくるヴァネッサを押し返す。こいつは何回言っても直んないな……。

「これからハドラーの集落に帰って、それからまたベクタ方面に向かって移動して70層台に向かうよ」
「ふーん。それって結構大変だね」
「まぁ、時間は掛かるかな」

 試練の為に行って戻って片道7日の2週間。更にまたベクタまで来て3週間。その先の安地が80層だから徒歩で2日か。約1ヶ月掛かると思えば大移動だ。ガラッハに戻った後は僕達だけだから無茶な移動をしてもいいが、それでも3週間は掛かるだろう。

 しかしヴァネッサの提案がその時間を大幅に短縮させた。

「飛べばよくない? みんな乗っけるよ~」

 大きな白い鳥に変化したヴァネッサの移動力は物凄いものだった。広い背中に乗って移動するのは初めての経験だったが、ヴァネッサが風魔法の扱いに長けていたお陰で防壁を張って空気抵抗もなかったので快適だった。左右で羽ばたく大きな翼も見ていて格好良かったし、見下ろしたどこまでも続く白い草原や、眼前に広がる大きな空も、正直どんな映画よりも感動するレベルだった。

 魔導カメラを通して景色を見たリスナーもとても喜んでいた。皆、景色に見惚れてコメントが少なくなるくらいだったから僕としても鼻が高かったな。

『景色代 5000』
『やば 6000』
『すげーーー! 5000』

 感動投げ銭もいただいて、一石二鳥でした。

 7日掛かった道を空を飛ぶことでモンスターとの遭遇もなく、その日の夜にはガラッハに到着していた。見た感じ変化はない。ガーニッシュが八つ当たりしていたということは一旦、なさそうだ。

 ガラッハの上空を旋回してから入口の門の前に降り立つと、ラストハルピュイアの襲撃と勘違いしたのか武器を手にしたオーク達が押し寄せてきた。殺気だらけのホワイトオークの集団にテンションが上がったヴァネッサが人型になり、交戦しようとするのを必死で止めた。

「戻ったぞ!」

 長の証を巻いた腕を上げ、ハドラーが堂々と集落へと入っていく。急展開に急展開を重ねられて呆気に取られていた住民達は、最終的に朗報だけを受け入れ、武器を天へと突きあげて咆哮した。

 ハドラー達は互いに抱き合い、成功を噛み締めている。住民達も次期長が正式に戻ってきたことで大いに喜んでいた。

 そんな住民の壁を割って入ってきたのはガーニッシュだ。つい1週間前に見たように白骨の大剣を背負い登場したガーニッシュは住民が静まり返る中、ジッとハドラーの腕を見る。

「……」
「これからガラッハは俺達が率いる。父上は安心して引退してくれ」
「……」

 ハドラーの言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、暫く腕輪を見た後に、次に僕をジッと睨んだ。恨みや妬み、嫉み。殺気。そんな色んな感情がこもった視線を正面から受け止め、僕も同じく無言を貫いた。

 かち合う視線を外したのはガーニッシュだ。そのまま踵を返し、長の家へと戻っていくのを全員が無言で見送った。
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