高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

文字の大きさ
59 / 81
第70層 黒刻大山脈 -クロノマウンテン-

第59話 魔法の訓練

しおりを挟む
 八咫との修行が始まった。一応、ジーモン達には手が足りなくなったら遠慮なく声を掛けるように言っておいてあるので、何かあればすぐにそっちを対応するつもりだ。

「さて……何から始める?」
「やっぱ魔法だな!」

 【王剣リョウメンスクナ】は重さを自由に変えられる剣ということで、実際に使ったこともあるので操作自体は可能だ。

 それよりも早くものにしなければならなかったのが魔法だ。エミから貰った魔本【エンティアラの雷光】は今もベルトに留められ、僕の腰にぶら下がっている。そいつを取り外し、適当に開いてそっと上へ持ち上げてやると、自然と宙に浮く。

「魔法を魔法として扱えなきゃ、宝の持ち腐れだからな」
「この先、出現するモンスターはこれまでのように知性と理性を兼ね備えてるとは限らない。悪い方向に知恵が働く者もいれば、丸っ切り知性も感じないような獣も出てくる。雑に言えば有象無象。烏合の衆だ。しかし、純粋に数の暴力というのは文字通り力だ。それら悉くを処理する為には、魔法という手段は時に剣よりも強い」

 八咫の言葉を聞きながら、カオスオークと戦った時を思い出す。
 あの堅牢な陣地を一撃で壊滅させたエンティアラ族の魔法は、確かに凄まじかった。あの魔法は複数人が同時に発動させた魔法だったが、アイザはあれを僕1人でも発動できるという。

 ならば、手に入れたいじゃないか。努力で手に入る力が目の前にあるのに、それに手を伸ばさないなんて選択肢はない。

「よし、まずは何からすればいい!?」
「焦るな。じっと、頭の中でイメージするんだ。天を裂き迸る雷光。地を割り轟く稲妻を」
「なるほど。それなら任せてくれ。こちとら文化的人間だ。アニメに映画、漫画に小説。ゲームにドラマ。イメージ材料は無限にあるぞ」

 とは言え、まずは小さなものから始めていこう。目を閉じてイメージしよう。

 身近な小さな電撃魔法。攻撃されると驚き、攻撃できれば嬉しくなる。ドアノブを触った時とか、人とすれ違った時とか、下敷きで頭を擦った時とか……。

 そんな身近な魔法である静電気を、指先から発生するようにイメージしてみる。

 するとバヂッと聞き慣れた嫌な音が聞こえた。反射的に肩が跳ね、痛みすら思い出してしまうあの懐かしくも聞きたくない音。

「流石だな」
「まぁこれくらいはな」

 青い電気が指を覆い、渦巻くようにバチバチと鳴り続ける。それを絶やさず、まるで小さな小さな龍が指という塔をぐるぐると旋回するように静電気を操り続けた。

「続けろ。そうやって雷を操る術を身につけるんだ」
「わかった。できるだけ長くやってみる」

 それからは自分との戦いだった。集中力の続く限り、静電気の集合体を操る。指の周りをぐるぐると旋回させ、指と指の間を縫うように八の字に動かしてみたり、時には指先から指先は跳ねるように動かしたり……。

 正直言ってすぐに自由自在に動かすことができて暇になってしまった。驕るつもりはないが結構簡単なんだなと思いながら、指だけを移動させていた電気を手のひらも含めた範囲で少しずつ広げていく。

「これくらいならできそうだな」
「調子に乗ってると感電するぞ」
「それは嫌だな……」

 集めた静電気の量を考えるとドアノブに触れようとして怯む程度の痛み以上の刺激がありそうだった。

 そいつは勘弁願いたいので少しずつ空気中に放電していき、手のひらから電気成分を流した。パッパと手を振り、そっとベルトの金具に触れてみるがバヂッとした音と痛みは起きなかった。

「それが基礎の基礎だな。これは電撃魔法に必ず、すべての属性において基礎の訓練になる。種火、水滴、砂粒、空気……それらを扱える素質が王の特異体質でもある。いつかは全属性魔法も使えるようになるだろう。遠い未来だがな」
「精進するよ」

 少し休憩してから再び静電気を集める作業に没頭する。日が暮れるまで作業と休憩を繰り返す頃には全身に張り巡らせることもできるようになった。密度が足りなくて薄っぺらい電気の鎧だが、触れようとした相手を驚かせることくらいはできそうだった。

 しかしこうして【エンティアラの雷光】の力を引き出せはしたが、どうなんだろう。魔法としては扱えているのだろうか?

 サンダーだとか、そういった魔法区分はあるはずだ。市販のメーカー品だって、読めばファイヤーボールといった感じの魔法を扱えるようにはなる。いつかはダンジョンで原本を見つけて本格的な魔法使いになる……というのが大体のルートなのだが、僕は特殊過ぎて何も参考にならない。

 僕は宿で借りている自室に戻ってきてリスナーに色々と聞きながら指先に静電気を
纏わせていた。この程度ならば、それ程難しくもなかった。遊んでいるだけで練習にもなるし、リスナーも雑に喜んでくれるので映える。

「しかし僕も早く使いこなしたいけれど、こういうのは地道な努力が大事だしな。いきなり王様になって全属性を扱える基礎ができた身で言うのも変な話だけどさ」

『これからは敵も弱くなる一方だし練習の場は沢山ある』

「そうなんだよ。逆に弱すぎてもアレだけど、言葉も通じなくなってくるししょうがないところはあるよね。でもこういう浅いところに裏ボスとかいたりするじゃん。ゲームなら」

 リスナー達もそういった展開には覚えがあるようで、口々に頷く言葉が流れていく。

「八咫よりも強い裏ボスとか出てきたら流石に負けるなぁ。やっぱ魔法の習得は最優先だな。で、相談なんだけれど、リスナーの中に魔法使える人いない? 静電気より強い電気とか扱えるようになれば魔法の腕も伸びると思うんだ。アドバイスくれ」

 コメント欄にはエアプリスナーの適当なアドバイスがどんどん流れてくる。まぁ最初から期待値は低かったが、視聴者数も増えれば適当な人間も増えるのは当然で。その中から有能リスナーを見つけ、助かるコメントを拾い上げるのは配信者の腕である。

『糸を太くするイメージでやってみるのは?』

「あぁ、糸を太くするイメージか。それはいいかもしれない。静電気って結局細くて短いイメージが強くてな……紐状のグミくらいになれば扱う技術力も上がりそうだ」

 僕は拾ったアドバイスを参考にイメージを強くし、静電気に力を込めていく。バチッバチッと弾けるような音を鳴らしていた静電気は、次第にバヂヂッ、といった連続した音へと変わっていく。音が長くなる程に、電気の長さは伸び、太さも増していく。

「おぉー、こんな感じか」

 太く、長くなる程に扱うのは難しくなる。見えないところで接触することにも気を付けなければいけないし、末端まで意識しなければならくなる。お陰様でこのやり方で訓練することで昼間以上に電気の……魔力の扱いに慣れてきた。

『本光ってない?』

「うん?」

 リスナーに言われて浮かせた状態で放置していた魔本を見てみる。本というか、正確には本の中のページの一部だ。意識して見ると勝手にページが捲れ、光る箇所でぴたりと止まる。

「……えっ、読める!」

『おい読むな』
『声に出すなあああああ』
『魔法発動するぞ!!』

「わ、ぅ……あぶねぇ……普通に読みそうになった」

 光ってたら思わず読みたくなるじゃんね……。急に早くなったコメント欄のお陰で助かった。この、【流転する紫電コンティニュアム・ボルト】という魔法がどういう魔法か分からないが、少なくとも屋内でぶちかましていい魔法ではないだろう。

「まぁ、明日の楽しみに取っておくかぁ。そろそろ寝る」

 『おやすみー』と流れるコメント欄を眺めながらいつも通り、魔導カメラをオートモードにして部屋の中をふわふわさせ、布団に潜る。

 良い歳して新しい魔法がどんなものか気になって少し寝付けなかったが、それでも昼間の疲労のお陰でいつの間にかすっかり眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...