ラップが魔法の呪文詠唱になる世界に転生したおじさん、うっかり伝説級の魔法を量産してしまう

paper-tiger

文字の大きさ
23 / 57
3章 FLOW

22. 雷火一閃、LIKE A SHIT END.(RHYME MIX)

しおりを挟む
◇◇◇
22. 雷火一閃、LIKE A SHIT END.(RHYME MIX)


対戦者の途轍もない得物に、一瞬気が動転して試合に乱入しかけたライムだったが、冷静に考えてみれば魔法具などという代物をこの場で全開するような愚考を、名家の娘がするはずは無かった。

詠唱を見てそれは察しており、試合自体には集中していた。
が、結局ライムに読み取れなかった、と言うより解釈できなかった部分があまりに多い。



「空気読めない? 下々の出る幕じゃない 

 WACKな才 客も減る猿回し

 降り注げ き蒼き火霊の葬列

 愚者への送別 パレード壮絶」 



フロウの呪文詠唱が、本人の得意とする火の魔法を何重にも強化し、複雑化したものであるということは理解できる。

「本来なら火の精を使役する伏句フックを2節ないし3節は必要とするような魔法を、強化だけで1節で成立させているあたりは、さすがの最注目選手です…! でも―」

理解できないのは、その火が水を被るでも風で吹き消えるでも防壁で弾かれるでもなく、忽然と消えてしまったことだった。

それを成したであろうケイジの呪文詠唱には、そもそも伏句フックが無い。



「子供とじゃ燃えない 全然やる瀬ない

 空気なんざ俺が変える 原型まるで無い 

 元素を丸洗い 幻想 MUST DIE 

 意気消沈 息できないくらい DON'T CRY」



相手の攻めに対する意味内容としての反論は、そのまま相手の魔法を弱める。
一般に後攻が有利なのも、後出しの方が対抗策を講じられるからに他ならない。

ケイジの返しは、暗鎖アンサーとしてはきちんと相手の呪文に対応できているが、如何せん、伏句フックが無いため、何の力を用いた魔法なのかがわからない。

「燃えない」「原型まるで無い」だけで、あれほどの火柱を解体したというのは無理がある。


「(―やはりこれも雷の属性の魔法なのでしょうか…?だとすれば先日のように、火自体を別の何かに変質させてしまったのかも…? 直接お聞きしても差し支えないものでしょうか…)」

このライムの読みは、当たらずとも良いところを突いていた。
とは言え、ライムにわからないことが、ケイジにわかっているわけは無い。
ケイジはラップをしているつもりしかない。


無自覚ながらケイジは、雷属性の魔法の高電圧によって文字通り空気を変質させていた。


式で示せば「3O2→2O3」。
「空気なんざ俺が変える」「元素を丸洗い」のくだりで、対戦相手の周りの酸素分子をオゾン分子に変えてしまった。

結果、天から降る火礫は一旦強大になったように見えながらも、術者周辺と上空の酸素は本来の速度を超えて急激に使い尽くされ、燃焼を続けられずに霧消した。

吹きさらしの野外会場ならばそこまでには至らなかっただろうが、人がひしめく空気の流れの悪い場所だったことと、フロウ自身の魔法が広域呪文をコート内に範囲指定していたために、空間が閉じていたことが災いした。


そしてその効果は相手の少女の2ターン目にも及ぶ。

ケイジの第4節の「意気消沈 息できないくらい」が干渉し、フロウは周囲に残るオゾンと上昇気流によって呼吸困難に陥る。



「ム…無駄な足掻き… 愚者は我に触れられもしない

 裏腹だし 愚者の味方など誰もいない

 カハッ…火霊沈まず …業悪の橋を渡れ

 何度でも…焼き尽くす 下々の…足すく…ム…」



発動地点には一時的に酸素が無いため、当然発火できない。
その上、本人の呼吸もできないとなれば、術は全く効果を発揮しなかった。

攻められていると認識できていないから、「触れられもしない」は最低限の防御のつもりだったが、そもそも触れない攻撃なのだから効果が無い。
そして柱はほぼ無防備のまま。

むしろ4節まで、よくぞ詠唱したものだった。


元素という概念の無いライムに、これを理解することはまず不可能だった。

が、その後、フロウの柱が倒される因果だけはわかる。


ほぼ意識を失いかけているフロウには、ケイジの説教ラップはさほど意味がなかった。
そのまま放っておいてもじきに膝をつくところだったが、2ターン目を詠唱しきっている以上、ケイジも詠唱を返さなければならない。



「まだお前の中に柱無い 心に電流走らない

 抱いてる焦燥 時期尚早 憧れが子供の証拠」



この第1節で相手の柱が攻撃対象となり、続く第2節の呪言乗算ライムによって補強された。
柱は倒れ、そのまま守護者であるはずのフロウを下敷きにした。



「わかるぜ 特別じゃなくみんな通るから がんばれ、

 俺たち大人はお前という小さい存在応援してるぜ」



結果として、続くケイジ渾身の説教パートが展開される前に勝負は決まっていた。


大きく理解を超えた光景を目の当たりにした観客たちが静まり返る中、ケイジだけは「大人の器を見せ、若者に一喝してやったぞ」という満足感で高揚している。



「…勝者、…東、K.G…!!」



主審の宣言と共に、会場は歓声と怒号に包まれた。




◇◇◇
(第23話に続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...