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3章 FLOW
22. 雷火一閃、LIKE A SHIT END.(RHYME MIX)
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◇◇◇
22. 雷火一閃、LIKE A SHIT END.(RHYME MIX)
対戦者の途轍もない得物に、一瞬気が動転して試合に乱入しかけたライムだったが、冷静に考えてみれば魔法具などという代物をこの場で全開するような愚考を、名家の娘がするはずは無かった。
詠唱を見てそれは察しており、試合自体には集中していた。
が、結局ライムに読み取れなかった、と言うより解釈できなかった部分があまりに多い。
「空気読めない? 下々の出る幕じゃない
WACKな才 客も減る猿回し
降り注げ 疾き蒼き火霊の葬列
愚者への送別 パレード壮絶」
フロウの呪文詠唱が、本人の得意とする火の魔法を何重にも強化し、複雑化したものであるということは理解できる。
「本来なら火の精を使役する伏句を2節ないし3節は必要とするような魔法を、強化だけで1節で成立させているあたりは、さすがの最注目選手です…! でも―」
理解できないのは、その火が水を被るでも風で吹き消えるでも防壁で弾かれるでもなく、忽然と消えてしまったことだった。
それを成したであろうケイジの呪文詠唱には、そもそも伏句が無い。
「子供とじゃ燃えない 全然やる瀬ない
空気なんざ俺が変える 原型まるで無い
元素を丸洗い 幻想 MUST DIE
意気消沈 息できないくらい DON'T CRY」
相手の攻めに対する意味内容としての反論は、そのまま相手の魔法を弱める。
一般に後攻が有利なのも、後出しの方が対抗策を講じられるからに他ならない。
ケイジの返しは、暗鎖としてはきちんと相手の呪文に対応できているが、如何せん、伏句が無いため、何の力を用いた魔法なのかがわからない。
「燃えない」「原型まるで無い」だけで、あれほどの火柱を解体したというのは無理がある。
「(―やはりこれも雷の属性の魔法なのでしょうか…?だとすれば先日のように、火自体を別の何かに変質させてしまったのかも…? 直接お聞きしても差し支えないものでしょうか…)」
このライムの読みは、当たらずとも良いところを突いていた。
とは言え、ライムにわからないことが、ケイジにわかっているわけは無い。
ケイジはラップをしているつもりしかない。
無自覚ながらケイジは、雷属性の魔法の高電圧によって文字通り空気を変質させていた。
式で示せば「3O2→2O3」。
「空気なんざ俺が変える」「元素を丸洗い」のくだりで、対戦相手の周りの酸素分子をオゾン分子に変えてしまった。
結果、天から降る火礫は一旦強大になったように見えながらも、術者周辺と上空の酸素は本来の速度を超えて急激に使い尽くされ、燃焼を続けられずに霧消した。
吹きさらしの野外会場ならばそこまでには至らなかっただろうが、人がひしめく空気の流れの悪い場所だったことと、フロウ自身の魔法が広域呪文をコート内に範囲指定していたために、空間が閉じていたことが災いした。
そしてその効果は相手の少女の2ターン目にも及ぶ。
ケイジの第4節の「意気消沈 息できないくらい」が干渉し、フロウは周囲に残るオゾンと上昇気流によって呼吸困難に陥る。
「ム…無駄な足掻き… 愚者は我に触れられもしない
裏腹だし 愚者の味方など誰もいない
カハッ…火霊沈まず …業悪の橋を渡れ
何度でも…焼き尽くす 下々の…足すく…ム…」
発動地点には一時的に酸素が無いため、当然発火できない。
その上、本人の呼吸もできないとなれば、術は全く効果を発揮しなかった。
攻められていると認識できていないから、「触れられもしない」は最低限の防御のつもりだったが、そもそも触れない攻撃なのだから効果が無い。
そして柱はほぼ無防備のまま。
むしろ4節まで、よくぞ詠唱したものだった。
元素という概念の無いライムに、これを理解することはまず不可能だった。
が、その後、フロウの柱が倒される因果だけはわかる。
ほぼ意識を失いかけているフロウには、ケイジの説教ラップはさほど意味がなかった。
そのまま放っておいてもじきに膝をつくところだったが、2ターン目を詠唱しきっている以上、ケイジも詠唱を返さなければならない。
「まだお前の中に柱無い 心に電流走らない
抱いてる焦燥 時期尚早 憧れが子供の証拠」
この第1節で相手の柱が攻撃対象となり、続く第2節の呪言乗算によって補強された。
柱は倒れ、そのまま守護者であるはずのフロウを下敷きにした。
「わかるぜ 特別じゃなくみんな通るから がんばれ、
俺たち大人はお前という小さい存在応援してるぜ」
結果として、続くケイジ渾身の説教パートが展開される前に勝負は決まっていた。
大きく理解を超えた光景を目の当たりにした観客たちが静まり返る中、ケイジだけは「大人の器を見せ、若者に一喝してやったぞ」という満足感で高揚している。
「…勝者、…東、K.G…!!」
主審の宣言と共に、会場は歓声と怒号に包まれた。
◇◇◇
(第23話に続く)
22. 雷火一閃、LIKE A SHIT END.(RHYME MIX)
対戦者の途轍もない得物に、一瞬気が動転して試合に乱入しかけたライムだったが、冷静に考えてみれば魔法具などという代物をこの場で全開するような愚考を、名家の娘がするはずは無かった。
詠唱を見てそれは察しており、試合自体には集中していた。
が、結局ライムに読み取れなかった、と言うより解釈できなかった部分があまりに多い。
「空気読めない? 下々の出る幕じゃない
WACKな才 客も減る猿回し
降り注げ 疾き蒼き火霊の葬列
愚者への送別 パレード壮絶」
フロウの呪文詠唱が、本人の得意とする火の魔法を何重にも強化し、複雑化したものであるということは理解できる。
「本来なら火の精を使役する伏句を2節ないし3節は必要とするような魔法を、強化だけで1節で成立させているあたりは、さすがの最注目選手です…! でも―」
理解できないのは、その火が水を被るでも風で吹き消えるでも防壁で弾かれるでもなく、忽然と消えてしまったことだった。
それを成したであろうケイジの呪文詠唱には、そもそも伏句が無い。
「子供とじゃ燃えない 全然やる瀬ない
空気なんざ俺が変える 原型まるで無い
元素を丸洗い 幻想 MUST DIE
意気消沈 息できないくらい DON'T CRY」
相手の攻めに対する意味内容としての反論は、そのまま相手の魔法を弱める。
一般に後攻が有利なのも、後出しの方が対抗策を講じられるからに他ならない。
ケイジの返しは、暗鎖としてはきちんと相手の呪文に対応できているが、如何せん、伏句が無いため、何の力を用いた魔法なのかがわからない。
「燃えない」「原型まるで無い」だけで、あれほどの火柱を解体したというのは無理がある。
「(―やはりこれも雷の属性の魔法なのでしょうか…?だとすれば先日のように、火自体を別の何かに変質させてしまったのかも…? 直接お聞きしても差し支えないものでしょうか…)」
このライムの読みは、当たらずとも良いところを突いていた。
とは言え、ライムにわからないことが、ケイジにわかっているわけは無い。
ケイジはラップをしているつもりしかない。
無自覚ながらケイジは、雷属性の魔法の高電圧によって文字通り空気を変質させていた。
式で示せば「3O2→2O3」。
「空気なんざ俺が変える」「元素を丸洗い」のくだりで、対戦相手の周りの酸素分子をオゾン分子に変えてしまった。
結果、天から降る火礫は一旦強大になったように見えながらも、術者周辺と上空の酸素は本来の速度を超えて急激に使い尽くされ、燃焼を続けられずに霧消した。
吹きさらしの野外会場ならばそこまでには至らなかっただろうが、人がひしめく空気の流れの悪い場所だったことと、フロウ自身の魔法が広域呪文をコート内に範囲指定していたために、空間が閉じていたことが災いした。
そしてその効果は相手の少女の2ターン目にも及ぶ。
ケイジの第4節の「意気消沈 息できないくらい」が干渉し、フロウは周囲に残るオゾンと上昇気流によって呼吸困難に陥る。
「ム…無駄な足掻き… 愚者は我に触れられもしない
裏腹だし 愚者の味方など誰もいない
カハッ…火霊沈まず …業悪の橋を渡れ
何度でも…焼き尽くす 下々の…足すく…ム…」
発動地点には一時的に酸素が無いため、当然発火できない。
その上、本人の呼吸もできないとなれば、術は全く効果を発揮しなかった。
攻められていると認識できていないから、「触れられもしない」は最低限の防御のつもりだったが、そもそも触れない攻撃なのだから効果が無い。
そして柱はほぼ無防備のまま。
むしろ4節まで、よくぞ詠唱したものだった。
元素という概念の無いライムに、これを理解することはまず不可能だった。
が、その後、フロウの柱が倒される因果だけはわかる。
ほぼ意識を失いかけているフロウには、ケイジの説教ラップはさほど意味がなかった。
そのまま放っておいてもじきに膝をつくところだったが、2ターン目を詠唱しきっている以上、ケイジも詠唱を返さなければならない。
「まだお前の中に柱無い 心に電流走らない
抱いてる焦燥 時期尚早 憧れが子供の証拠」
この第1節で相手の柱が攻撃対象となり、続く第2節の呪言乗算によって補強された。
柱は倒れ、そのまま守護者であるはずのフロウを下敷きにした。
「わかるぜ 特別じゃなくみんな通るから がんばれ、
俺たち大人はお前という小さい存在応援してるぜ」
結果として、続くケイジ渾身の説教パートが展開される前に勝負は決まっていた。
大きく理解を超えた光景を目の当たりにした観客たちが静まり返る中、ケイジだけは「大人の器を見せ、若者に一喝してやったぞ」という満足感で高揚している。
「…勝者、…東、K.G…!!」
主審の宣言と共に、会場は歓声と怒号に包まれた。
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(第23話に続く)
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