猫被りも程々に。

ぬい

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August

02

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「…流石に狭いな」
「お互い平均身長はありますからね」

「みてー!水鉄砲!」

俺と会長は向かい合う形になり、その真ん中に愛梨が入る。
結局流されるように3人で湯船に詰め込まれたがとにかく狭い。入る前はあれだけ躊躇したが入ってしまえば狭い以外は割と平気だった。

水鉄砲やらアヒルのおもちゃやらで一頻り遊んでそろそろ出るかと思い始めた頃、浴室の外から母が「愛梨ー!」と呼ぶ。
恐らくお風呂から出た後の面倒を見に来たのだろう。

呼ばれたのを合図に愛梨が元気よく浴室から出ると同然だが浴室で二人きり。
外にはいるので母がいるので出ることも出来ない。

「……」
「……」

特に話す会話もなく、急に気まずくなってきた。
早く母さんが出て行ってくれないもんかと考えていると会長が口を開く。

「何キロ?」
「…はい?」
「体重」
「ああ、大体55くらいですかね」

唐突すぎてなんの話か分からなかった。
この前の身体測定の結果を思い出しながら答えると納得したような表情の会長の髪の毛からポタリと雫が音を立てる。

「なんで急に?」
「いや、思った以上に細いなと思って」
「会長何キロですか」
「65くらい」

脱いだ時に意外としっかりした体つきとは思ったけど10キロも違うのか。そりゃ、愛梨も軽々と持ち上げられますわ。

「身長何センチですっけ」
「178」
「意外とありますね」

171センチと178センチの男が2人で一般家庭の浴槽に入ってれば窮屈に感じるのも当たり前。さっきまでよく3人で入っていたもんだと思ったが、今思い返すと狭すぎて愛梨ずっと立っていた。座るスペース無かったから立ってたのか。

「何してんの?」
「身体向き逆の方が広いのかなって」
「なるほど」

向かい合うよりも同じ向きで入った方が広いような気がして、身体の向きを変えてみる。向かい合うのもなんか嫌だったし。
軽い思いつきのつもりだったが、確かに目の前が壁になって視界的にはさっきより幾分かマシ。体感的には広いっちゃ広いが…。

「…分かってて止めませんでしたね」
「だって俺的にはそうしてくれた方が広いもん」

確かに会長は足を伸ばせるようになっただろう。
俺もさっきより楽ではあるが精神的な意味ではキツい。だって先程とは当たる面積が大幅に違う。

背中から感じる人肌に悩んだが、見える体勢よりはこっちの方がマシだという結論に落ち着いてそのままの体勢で我慢することにした。

「もう出ていいわよー」
「先にどうぞ」
「どうも」

二人一緒に出ても混雑しそうなので会長に譲る。
出やすいように前に身体をずらして会長が出ていった後、ようやく俺は足を伸ばせた。

(…意外と平気だったな)

入る前はなんとなく嫌だったが、入ってみればこんなもんかと言った感じで。
愛梨にまた誘われてもすんなり了承する程度には抵抗は無くなっていた。普通の感覚が戻ったような気がしてなんだがほっとする。

暫く経って扉が閉まる音が聞こえた頃。
ようやく俺は浴室から出てタオルを手に取り、髪の毛を乾かした。
それからはリビングに向かって、適当にテレビを見ていると母と父がお風呂を終えて愛梨と寝室に向かう。それと同時に会長と一緒に俺の部屋に移動した。

まだ時間的には寝るのに早く、暇を持て余していたところに会長が鞄から筆記用具と問題集を取り出す。

「机借りてもいい?」
「勉強道具持ってきてたんですね」
「一応受験生ですから」

この人はこれ以上頭良くなってどうするんだ。
ペラペラとページを捲る姿にそんなことを思ったが、俺もそれに付き合うことにした。ここ2日色々忙しくて勉強出来なかったし、丁度良かったかもしれない。

学校用の鞄から俺も問題集を取り出し、机に広げる。

「夏休みの課題?」 
「そうです。会長のは?」
「俺のは受験のやつ。3年生は受験で課題出てないから」

会長の問題集を覗くと俺の課題とは違い、めちゃくちゃ難しい問題が並んでいた。しかも物理。
直ぐに考えるのも嫌になって大人しく自分の問題集に戻る。

「物理とってないんだっけ?」
「とってないです。選択科目は生物と地学なので」
「へえ、俺と正反対だ」
「ってことは物理と化学ですか?」
「うん」

そう言えば模試の時に選んでた学部、理系だったもんな。
まあこの人の場合、文系でも問題ないんだろうが。というか苦手な科目ってあるんだろうか。

「会長って苦手な科目あります?」
「ない」
「あ、そうですか…」

3秒で会話が終わった。
何か一つでも人間らしいところはないかと探してみたがその一言で諦めてシャーペンを手に取る。問題を進めようとページを捲っていると会長が「ああ、でも」と口を開いた。

「現代文は湊の方が得意だと思うよ」
「…謙遜ですか?」
「いや真面目な話」

何を根拠に言ってるのか分からないが、会長がそう言うんだからそうなんだろうと思うことにする。
それからは眠くなるまで机に向かった。課題に飽きたら適当に教科書をながめたり、数学の問題を解いてみたり。

そうしているうちに寝ようと電気を消した頃には2時を回っていた。
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