猫被りも程々に。

ぬい

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August

03

「ただいまー」
「おかえり!ふたりとも!」
「福引き、何当たった?」

家に帰るとまず迎えてくれたのは愛梨。
晩御飯を用意した母は俺たちの帰りよりも福引きの結果
のようで開口一番そう聞かれ、すっかり忘れていたことを思い出す。

「あっ、忘れてた」
「…なにやってんのよ、もー…」

テレビを見ながら晩御飯を待っている父の隣に座れば、皿に盛られたハンバーグとサラダが並ぶ。味噌汁にご飯も並ぶといよいよお腹が鳴ってしまいそうなくらい魅力的だった。

「今日何してたの?」
「鈴木たち遊んだ」
「鈴木って同じ中学の鈴木くん?」
「うん」

全員着席した後、手を合わせて食事に向かう。
ハンバーグを一口食べると中から肉汁が滲み出る。久々の母のハンバーグは身体に染み渡るほど美味い。

今日あった話を掻い摘んで話せば、母さんは興味津々な様子で食べ進めていた。父さんは話を聞いてるのかいないのかただ黙々とご飯を口に運んでいる。

「じゃあ、今日は中学の子達と遊んできたのね」
「女の子達が会長気に入ったみたいで半ば無理矢理」
「へえ。どうだった?いい子いた?」

どうやら俺よりも会長から話を聞きたいらしい。
会長は突然振られた話にも関わらず「みんないい子でしたよ」と微笑み、その様子に思わず顔を顰める。

(よくそんなこと言えたな…)
 
さっきまでうんざりしてたくせに。
家に帰る前の会話を今ここで流してやりてーわ。
そんなことを思いながら味噌汁を啜っていると隣の父はもう食べ終わったらしい。立ち上がって流しに食器を置くといつものようにソファーに座る。

「凌くんはどういう子が好きなの?」
「…そうですね…どういう子だろ…」
「ほら過去にいいなーと思った子とか。湊なんか小学生の頃…」
「おい、やめろ」

この人はちゃんと噛んで食べてるんだろうかと父を心配をしている隙に、母が小さい頃の恥ずかしいネタを会長に話そうとしていた。なんで人の許可なくそういう話するかな。

思わず止めに入った俺に少し不服そうな顔をしたが、無理矢理強行しようとはせず「まあ、中学も男子校だと難しいかー」と会長との会話に戻る。

それからは特に話も広がりもなく。
次に口を開いたのは無言でテレビの音を聞きながら食べ進め、食器を下げようと立ち上がった瞬間だった。

「あんたが女の子だったら良かったんじゃない?」
「…なんだよ、急に」 
「凌くんの相手よ。母さん、湊みたいな子がいいと思うわー」

まだその話続いてたのか。
先程までの無言は真面目に会長に合う相手を探していたらしい。

会話を返す気にもならないとその言葉を無視し、俺は台所に向かう。
暫く沈黙だったからそこで会話が終わったと思いきや、今度は会長は何やら神妙な顔つきで口を開いた。

「確かにいいかもしれませんね」
「でしょでしょー!」
「一緒にいて楽ですし」

急に盛り上がりを見せる会話に苦笑いを浮かべる。
突っ込んだら負けなんだ、こういうのは。

「あーもう残念。私が女の子に産んであげてたら結婚出来たのに」と悔しがる母にしねーよと言いたいのをぐっと堪えて早くこの話題に飽きる願いながらお茶を流し込む。

「まあ俺は男でも構いませんけどね」
「…ほんとに?じゃあ貰ってくれる?」
「…まじでいい加減にして…」

それも叶わず母の悪ノリに付き合う会長とまたそれに付き合う母。
無視するのも我慢の限界で、いよいよ頭痛がしてきたので2人は放置して逃げるように俺はいつもより早いお風呂へと向かった。


「びっ、くりした」
「ノックしたんだけど、聞こえなかった?」

それからお風呂を出て、丁度髪を乾かしている途中。
着替えを持った会長が入ってきて、それに気づかなかった俺は思わず声を上げた。

どうやらノック音はドライヤーの音で掻き消されてしまったらしい。髪の毛を乾かす俺に構わずお風呂に入る準備をする会長を横目で見る。

「母さんの悪ノリに付き合うのも程々にしてくださいよ」
「悪ノリって何が?」

大体乾かし終わったタイミングでそう話し掛けると予想外にも聞き返された。
会長ならすぐに察して何かしら返してくるかと思ったが、惚けてるのか本気なのかわからない返され、「結婚とかなんとか。うちの母ああ見えて結構本気ですよ」と続ける。

(あの人、冗談でああいうこと言うタイプじゃないからな…)

だからタチが悪い。
傍からみたら冗談だと思うことも結構本気で思っていたりする。今回だって多分男だけど会長くらい完璧な人ならぜひ貰ってくれとでも思ってそうで怖い。

会長からの返事を待っていたのに何故かそこから会話に間が空いた。

不審に思った俺が振り返れば、すっかり上は脱ぎ終わっていて、ズボンに手を掛けているところだった。そのまま見てる訳にもいかず、返答のない会長を置いて洗面所の扉に手を掛ける。

「…俺も本気のつもりだったんだけどね」

まるで沈黙なんでなかったかのように自然に返ってきた言葉に振り返って会長の顔を確認した。いつものようにからかうのも大概にしてくださいよ、と返そうと思ったからだ。

でも振り返った時の表情は想像とは違って無表情。
薄ら笑いでも浮かべていると思ったのに。

想定していなかった表情につい怒るのも忘れてしまう。
狭い室内は先程の入浴の名残で空気がほんのり湿っている。何故か少しずつ距離を詰めてくる会長に後退りした。
背中にあたる木の板の温度がひんやりと伝わり、そこでやっと後退る前にドアに手を掛けて出ればよかったのだと気付く。でももう手を掛けるのも難しいくらい会長との距離が近くて叶わない。

綺麗な顔と前回入浴した時にはあんまり見てないようにしていた引き締まった身体が嫌にも視界に入ってきて、なにか声を発そうにも中々出てこなかった。
それでも頑張って、言葉を絞り出そうとしたその瞬間。

「ーーーなんて。びっくりした?」

近付いてくる顔は耳元に。
いつものからかったような口調で囁かれ、咄嗟に表情を確認すれば会長が意地の悪い笑みを浮かべていた。
そして「この前のお返し」と放心状態の俺の背中を押して洗面所から追い出されるように扉が閉まる。

「マジで有り得ねえ!!!!!最低!!!死ね!!!」

俺の声は廊下だけではなくリビングにまで響き渡った。

「コラ!死ねとか言わない!」と母親が顔を覗かせてきたが「うっせー!」と一言。これ以上は構う余裕もない。この前のお返しって多分パパとからかったやつだ。だからってこんなことするか、普通。

おさまらない怒りにいつもより足音を響かせながら、俺は二階にある自分の部屋へと向かったのであった。

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