63 / 129
November
05
「「「あ…」」」
消毒液の匂いがする真っ白な廊下。
3人の声が重なり、状況を理解する。
部屋の前の藤田紫と書かれたプレートから察しの通り、今日は要先輩と紫さんのお見舞いに行く話だった。
恐らく鞄を持って立ち尽くしている目の前の会長も俺達と同じでお見舞いに来たのだろう。
「あら、3人で来てくれたの?」
「さっき偶然会ったから」
逃げ出したい状況だったが当然そういう訳にもいかず、3人で紫さんのいる病室に入るといつもより一段と嬉しそうな声色で笑った。先程まで驚いた顔をしてた要先輩と会長はもうすっかりいつも通りの笑顔で接している。
「湊くんは要とも仲が良かったのねぇ」
「ああ、はい。同じ委員会の先輩で」
「あ、もしかしてあの時のお見舞い通ってたのって要のところ?」
気まずさを感じながらも紫さんの問い掛けに頷くと「こんな偶然ってあるのね」と少しびっくりしたように微笑んだ。
逃げ出したかったはずの時間は明るい紫さんのお陰であっという間に終わり。気が付けば夕方。
病院からの帰り道、俺と会長は勿論、寮生ではない要先輩も帰り道が途中まで同じでなんの会話も無く薄暗い道を歩く。
会長とも先日あんなことがあった後で気持ちが整理しきれてなかったし、更に俺に好意がある要先輩と3人となるとかなり気まずいというレベルではない。
この空気から逃れるため、文化祭の話でもしようかと迷っていると1番初めに言葉を発したのは要先輩だった。
「白木と付き合い始めたんだって?」
きっとわざとだ。
1番今選びたくなかった話題を振った要先輩に俺は鞄を握り締める。そんな俺に対して会長は特に動揺する訳でもなく真っ直ぐ前を見たまま答えた。
「うん。先週あたりから」
「中学以来だよね。凌が誰かと付き合うの」
「そうだっけ」
淡々と続く会話に俺は相槌を打つことも無くただ耳を傾けるだけ。何よりの救いは会長があまり話題を広げることなく簡潔に答えていることだった。
そのお陰か、白木の話はそこまで掘り下げられることも無くすぐに終了し、また静かな時間が戻る。
もうすぐ要先輩と別れる道でようやくこの状況から解放されると安堵した瞬間。
「僕、湊に告白したんだよね」
「ちょ、要先輩…」
「え、言ったらダメだった?」
またもやこのタイミングで有り得ないことを言い出した要先輩に今度は声を上げる。それに対してキョトンとした表情で首を傾げる要先輩に俺は何も言えず唇を震わせた。
駄目っていうか、今ここで話すべき事ではない。それは要先輩だって分かっているだろうに。先程からこの人が何も考えているのか俺にはわからなかった。
「…いいんじゃない?」
要の親衛隊も橘ならいいって言いそうだし。
ただそのまま立ち尽くしてる俺に会長は少し沈黙した後、そう言った。いつもと変わらない声音。でも表情は笑みを浮かべているわけでもなく無表情。
そんな会長を要先輩はじっと少し見つめてから、顔を前に向けて立ち止まる。
「じゃあ、僕こっちだから。また明日ね」
「あ、はい…また明日」
いつの間にか別れる道に着いていたらしい。
あっさりと去っていく要先輩の背中を見送った後、俺と会長はまた寮へ向けて歩き進めた。
「………」
「………」
そこからは会話がある筈もなく、足音だけが鳴り響く。
このまま2人で帰るわけにも行かないので駅付近の公園で自然と別れることになるだろう。早く着いて欲しいと心の底から願った。
「…要に告白されたんだ?」
「…まあ…」
やっと会長が何か話したと思えば先程の要先輩が振った話の続きで気まずさに少し歯切れの悪い返事を返す。そんな俺に構わず会長は話を終えることも無く会話を続けた。
「返事は?」
「返事は…要先輩にまだ答えなくていいって、言われたので…」
「そう」
聞いてきた割には興味がなさそうな素っ気ない返事で特に返す言葉もない。そこからはまたお互い何も話さずに足を動かす。
そうしているうちに公園まではあと5分程度。きっとこのまま何も話さず別れて帰るだろう。
その時まではそう思っていた。
「…なんて答えるつもりだった?」
ぽつりと呟くように言った言葉でその予想は消える。静かな夜道のせいか独り言のように発した声ははっきりと耳に届いた。
この人は俺に一体なんて答えて欲しいのだろう。
まだ先日の出来事が整理しきれてない頭で問い掛けに対しての答えを必死に探す。
11月になったばかりの夜風は冷たく頬を撫でて、時折吹く風の音が騒がしい。
「…橘と会長?」
そんな時間も1人の男子生徒の声で終わりを告げた。
ネクタイの色からして俺と同じ学年の2年生だろう。クラスが違うので数回か見かけた事はあるが名前までは分からない。
「なんで2人で?」
「…たまたま帰る途中に会ったから少し話してた」
「そうなんですね!僕も今から帰るところなんです!」
「そっか。一緒に帰る?」
「はい!」
嬉しそうに頬を染めて会長の隣に移動した彼を見て、変な誤解をされずに済んで良かったという気持ちと先程の質問が有耶無耶になったという気持ちでほっと胸を撫で下ろす。
その後は結構寮まで会長と別れることなく男子生徒と3人で帰宅。
寮に着くなり羨ましそうに群がってきた他の生徒を適当にあしらうと自分の部屋へと戻った。
消毒液の匂いがする真っ白な廊下。
3人の声が重なり、状況を理解する。
部屋の前の藤田紫と書かれたプレートから察しの通り、今日は要先輩と紫さんのお見舞いに行く話だった。
恐らく鞄を持って立ち尽くしている目の前の会長も俺達と同じでお見舞いに来たのだろう。
「あら、3人で来てくれたの?」
「さっき偶然会ったから」
逃げ出したい状況だったが当然そういう訳にもいかず、3人で紫さんのいる病室に入るといつもより一段と嬉しそうな声色で笑った。先程まで驚いた顔をしてた要先輩と会長はもうすっかりいつも通りの笑顔で接している。
「湊くんは要とも仲が良かったのねぇ」
「ああ、はい。同じ委員会の先輩で」
「あ、もしかしてあの時のお見舞い通ってたのって要のところ?」
気まずさを感じながらも紫さんの問い掛けに頷くと「こんな偶然ってあるのね」と少しびっくりしたように微笑んだ。
逃げ出したかったはずの時間は明るい紫さんのお陰であっという間に終わり。気が付けば夕方。
病院からの帰り道、俺と会長は勿論、寮生ではない要先輩も帰り道が途中まで同じでなんの会話も無く薄暗い道を歩く。
会長とも先日あんなことがあった後で気持ちが整理しきれてなかったし、更に俺に好意がある要先輩と3人となるとかなり気まずいというレベルではない。
この空気から逃れるため、文化祭の話でもしようかと迷っていると1番初めに言葉を発したのは要先輩だった。
「白木と付き合い始めたんだって?」
きっとわざとだ。
1番今選びたくなかった話題を振った要先輩に俺は鞄を握り締める。そんな俺に対して会長は特に動揺する訳でもなく真っ直ぐ前を見たまま答えた。
「うん。先週あたりから」
「中学以来だよね。凌が誰かと付き合うの」
「そうだっけ」
淡々と続く会話に俺は相槌を打つことも無くただ耳を傾けるだけ。何よりの救いは会長があまり話題を広げることなく簡潔に答えていることだった。
そのお陰か、白木の話はそこまで掘り下げられることも無くすぐに終了し、また静かな時間が戻る。
もうすぐ要先輩と別れる道でようやくこの状況から解放されると安堵した瞬間。
「僕、湊に告白したんだよね」
「ちょ、要先輩…」
「え、言ったらダメだった?」
またもやこのタイミングで有り得ないことを言い出した要先輩に今度は声を上げる。それに対してキョトンとした表情で首を傾げる要先輩に俺は何も言えず唇を震わせた。
駄目っていうか、今ここで話すべき事ではない。それは要先輩だって分かっているだろうに。先程からこの人が何も考えているのか俺にはわからなかった。
「…いいんじゃない?」
要の親衛隊も橘ならいいって言いそうだし。
ただそのまま立ち尽くしてる俺に会長は少し沈黙した後、そう言った。いつもと変わらない声音。でも表情は笑みを浮かべているわけでもなく無表情。
そんな会長を要先輩はじっと少し見つめてから、顔を前に向けて立ち止まる。
「じゃあ、僕こっちだから。また明日ね」
「あ、はい…また明日」
いつの間にか別れる道に着いていたらしい。
あっさりと去っていく要先輩の背中を見送った後、俺と会長はまた寮へ向けて歩き進めた。
「………」
「………」
そこからは会話がある筈もなく、足音だけが鳴り響く。
このまま2人で帰るわけにも行かないので駅付近の公園で自然と別れることになるだろう。早く着いて欲しいと心の底から願った。
「…要に告白されたんだ?」
「…まあ…」
やっと会長が何か話したと思えば先程の要先輩が振った話の続きで気まずさに少し歯切れの悪い返事を返す。そんな俺に構わず会長は話を終えることも無く会話を続けた。
「返事は?」
「返事は…要先輩にまだ答えなくていいって、言われたので…」
「そう」
聞いてきた割には興味がなさそうな素っ気ない返事で特に返す言葉もない。そこからはまたお互い何も話さずに足を動かす。
そうしているうちに公園まではあと5分程度。きっとこのまま何も話さず別れて帰るだろう。
その時まではそう思っていた。
「…なんて答えるつもりだった?」
ぽつりと呟くように言った言葉でその予想は消える。静かな夜道のせいか独り言のように発した声ははっきりと耳に届いた。
この人は俺に一体なんて答えて欲しいのだろう。
まだ先日の出来事が整理しきれてない頭で問い掛けに対しての答えを必死に探す。
11月になったばかりの夜風は冷たく頬を撫でて、時折吹く風の音が騒がしい。
「…橘と会長?」
そんな時間も1人の男子生徒の声で終わりを告げた。
ネクタイの色からして俺と同じ学年の2年生だろう。クラスが違うので数回か見かけた事はあるが名前までは分からない。
「なんで2人で?」
「…たまたま帰る途中に会ったから少し話してた」
「そうなんですね!僕も今から帰るところなんです!」
「そっか。一緒に帰る?」
「はい!」
嬉しそうに頬を染めて会長の隣に移動した彼を見て、変な誤解をされずに済んで良かったという気持ちと先程の質問が有耶無耶になったという気持ちでほっと胸を撫で下ろす。
その後は結構寮まで会長と別れることなく男子生徒と3人で帰宅。
寮に着くなり羨ましそうに群がってきた他の生徒を適当にあしらうと自分の部屋へと戻った。
あなたにおすすめの小説
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
【柳原学園】いやいや、俺は『俺様生徒会長』だから
西園 斎
BL
家の都合で『俺様』を演じてる生徒会長が、生徒会やら風紀やら教師やらから好かれるお話。
演技俺様会長総受け(愛され)/後固定CP
*10年以上前の作品を、やや加筆修正していきます