猫被りも程々に。

ぬい

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November

文化祭1日目

昨日よりも騒がしい校内。
内装もいつものシンプルな風景ではなく、カラフルに飾り付けられていて学園の敷地に入る前の門には文化祭と大きな字で書かれている。

長くて忙しかった準備期間も終わり、本日はいよいよ文化祭1日目。
1日目の今日は一般開放はされておらず、生徒から貰えるチケットを持っている人のみ。つまりは保護者や身内のみ入場可能な日で学園内は様々な年齢層の人で溢れていた。

文化祭も当然図書委員長の俺は校内の見回りがあり、一昨日くじ引きを引いたのだが今回は運良くペアの相手は風紀委員の1年生。

1日目の午前中は見回りの当番だったが、特に何事も無く平和に時間が過ぎ、クラスに戻ると今度は文化祭の裏方の当番の時間が待っている、筈だった。

「うわー似合うじゃん。普通に可愛いわ」
「橘って意外と化粧映えする顔してるんだな」
「…どうも…」

鏡に映った姿の自分は記憶の中の姉にそっくりで眉を顰める。
やけにヒラヒラとしたワンピースは制服よりも風通しが良く、それが逆に気持ち悪い。頭も黒くて長いカツラのせいで重く動かしにくかった。

なぜこんな状況になったかというと午前中に変なものでも食べたの女装する予定の生徒が腹痛で倒れてしまい、人数が足りなくなったらしい。
そこで代役を探していたが、そこで運悪く体格の似ている俺が見回りから帰ってきてしまったという訳だ。

そりゃあもう土下座する勢いでクラスの奴らから頼まれ、勿論断りきれる訳も無く。

「よし、橘は客引きな」
「客引きって何すんの」
「この看板持って立っとくだけ。それだけで今のお前なら絶対いける」

褒められているのかもしれないが素直に喜べない。
でも接客するよりは遥かにマシなので抵抗することもなく看板を受け取ると適当には校内を練り歩くことにした。

(帰りたい…)

地獄のような時間。
チラチラと視線が痛くて、トイレに何度に逃げ込もうと思ったか。もしかしたら接客の方がマシだったかもしれない。

その状況も30分程経てばだんだん慣れてきて、たまにナンパのような真似事をしてくる生徒を適当にクラスの場所まで案内したり、あしらったりしていると後ろから聞き覚えのある声に話し掛けられた。

「…湊?」
「いやいや、要くん。確かに橘に似とるけどこんなべっぴんさん橘な訳…いってぇ゛!」

俺の姿を見るなり、物凄く失礼なことを言う久我先輩を思い切り少しヒールのある靴で足で踏み付ける。腕についている腕章を見て、今回の見回りは久我先輩と現在副委員長という肩書きになっている要先輩がペアだったことを思い出した。

「一瞬誰だかわかんなかった。可愛いね」
「ありがとうございます」
「ほんまや…よく見ると橘や…」

珍獣でも見るかのようにまじまじと見てくる久我先輩に対し、要先輩はにっこりといつもと変わらない笑みを浮かべる。どっちの対応も落ち着かない。どうせなら笑い飛ばしてくれる方が良かったのに。

「裏方って言ってなかったっけ?」
「その予定だったんですけど、女装する予定の子が体調崩しちゃって」
「なるほど。じゃあ今日限定なんだ?」
「そうですね、10分後には元に戻ってると思います」
「そっか。残念だなぁ…」

言葉通り要先輩は残念そうに眉を下げる。隣の久我先輩はその話を聞いて今がチャンスとでも思ったのか、俺に許可を取ることもなく携帯を取り出して写真を撮り始めた。
もうこの人混みで抵抗するのも面倒なのでそのまま無視しておく。

「そういえば久我先輩は行かなくていいんですか?」
「どこに?」
「2年生の教室。理久、今接客当番ですよ」
「は!?明日の12時ちゃうの!??」
「いや、今日の13時からだったと思いますけど…」

黙って写真を撮られるのもアレだったので今女装姿で接客しているであろう理久の話を出すと久我先輩は手を止めて、瞬きを数回。
その反応でなんとなく予想がつく。今俺めちゃくちゃ不味いこと言ったかもしれない。

「最悪や!騙された!」
「どうしたの?」
「要くん、2階行くで」
「え、ああ、うん」

どうやら理久は久我先輩に見られたくないからと嘘の時間を教えていたらしい。何も知らずに口を滑らせてしまい、教室にいるであろう彼に心の中で謝っておくことにした。
連絡しようかとも思ったが、あの速さだと俺が送ったメッセージに気付くよりも先に久我先輩が教室についているだろう。

(理久も大変だな…)

他人事のように嵐のように去っていった要先輩と久我先輩を見送り俺はそのまま真っ直ぐ廊下を突き進む。

すると今度は後ろから「ママーーーー!!!!」と小さな女の子の声がして、誰かがぶつかる感触がした。

声を聞いた瞬間、すぐに誰か分かったがその人物達には今日が文化祭だとは伝えていないし、入場チケットも渡した記憶がなかったので状況が掴めない。

「あ、いり…なんで…」
「…なぎさ?」

俺の腰に抱きついているのは愛梨で、目の前で目を見開いたまま姉の名前を呟いて静止しているのはどう見ても自分の母親。
お互い見合わせて、時が一瞬止まる。

「うっそ…その声、あんた湊?渚かと思ったわ…」
「や、つかなんでここにいんの?チケット渡してなくね?」
「じゃ~ん!チケットは凌くんから貰いました。あんた絶対送ってこないと思ったから頼んだのよ」

ああ、なるほど。
母が見せつけるように2枚のチケットをヒラヒラと揺らすのをみてやっと状況が把握出来た。とりあえず許可無く人の親にチケットなんか渡すなと言いたい。

「で凌くんは?せっかくだし凌くんの制服姿見たいわ~」
「その件なんだけど…」
「あ、パパだ」

俺の事など大して興味が無い母にまずはこの学園の異常な実態について説明しようとしたが、それは愛梨の一言で出来なかった。

(…まずい…)

早く愛梨を止めないと。
そう思った俺が手を伸ばした時には既に遅く、人を掻い潜りながら遠くにいる会長に走って向かうと俺の時と同様思い切り抱き着く。

「パパ、久しぶり!!」
「…愛梨ちゃん、ほんとに来たんだ」
「うん、ばぁばと遊びに来たの!」

一瞬吃驚した様子ではあったが、チケットを渡した本人だからか直ぐに状況を把握したらしく愛梨の頭を撫でた。
周りで見ていた生徒は当然ザワついて「会長、その子は…?パパって…」「嘘、隠し子?」等の声が聞こえる。色々まずい。どうしよう。

当分誰も会長に話し掛けることなくコソコソ話していたが、どうしても気になって仕方なかった様子の生徒が尋ねる。

「か、会長、その子は一体…?」
「ちょっと知り合いの子で…」
「あのねあのね!さっきママがあっちに…」
 
気がつけば俺は母さんの腕を握り締めて走っていた。
ヒールに加えて元々そんなに早くない足だが、少し遠くにいけば人混みに紛れて見えなくなる。愛梨を置いてきてしまったが、会長がきっといい感じにフォローしてくれるに違いない。

「あれ、ママーー??」と大きく呼ぶ声がしたが、構うことなく角を曲がって、少し人気がなくなった階段の踊り場で止まると母さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

「母さんも流石に飲み込めないわ、この状況」
「…だから来て欲しくなかったんだよ」

周囲の反応でようやくこの学園の異常さを理解したらしい。
とりあえず客引きは中断し、携帯を取り出すと会長に簡潔に今の状況のメッセージを打った。

時間的にはもうクラスの当番の交代の時間で母を連れて1度自分の教室へ戻り、着替えの入った荷物を持つと携帯が通知音と共に震える。  

確認するまでもなくメッセージを送ってきたのは会長で[生徒会室]とだけ書かれた文章を確認すると母と共に向かいの校舎に向かった。

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