猫被りも程々に。

ぬい

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November

文化祭2日目

文化祭1日目はあれから何事もなく終わり、2日目の今日。

一般公開されているからか、昨日に比べて校内はかなり女子率が高く人口密度が高い。午前中は適当に裏方をしながら暇を潰して昼ご飯を軽く済ませた後、教室に戻るとクラスの皆が何かに群がっていた。

気になって遠くから見るとどうやらミスコンの決勝戦のメンバーが決まったらしく、各自誰かに投票するため投票箱集まっているようだ。

俺も投票するため、きっと参加しているであろう白木の名前を紙に書くと投票箱に向かう。投票ついでに決勝戦メンバーの名前を見ると嫌という程見覚えのある名前と顔があった。

「はぁ!?!?」
「誰かが勝手に入れたらしいぜ。飛び入り参加枠で」

そこ掲載されていたのは橘湊という名前と昨日の俺の写真。
思わず食いつくように前のめりで紙を見つめる。何回瞬きして目を擦っても、その名前と写真は消えることない。どうやら悪い夢ではないらしい。

(写真なんていつ撮られたんだよ…)

カメラ目線ではないその写真はどう考えても許可して撮ったものでない。撮られた角度から色々思い返しているとある一つの可能性が思い浮かんだ。

思い浮かんだ瞬間、すぐ様携帯からある人物の名前を呼び出して通話ボタンを押す。

『橘、決勝戦おめでと!いやー俺もいい線いくと思ったんよな~』
「…久我先輩、今どこですか」
『3年生の教室やけど』

その言葉を聞くと通話を終了し、急いで自分の教室を出た。
人混みに苛立ちながら階段を駆け上がって向かったのは3階。

3年生はABC組は理系、DEF組は文系という風に別れており、出し物は大きく2つで理系クラスは執事喫茶で文系クラスは和装喫茶だと要先輩から聞いたのを思い出しながら理系クラスまで早歩きで足を進める。

案の定、自分の教室の前で燕尾服を着崩して看板を持っている久我先輩を見つけると殴る勢いで迫った。

「どういうことですか!!」
「なんや、橘。決勝戦までいって感動してるん?」
「ちげーわ!なんで許可なく勝手にエントリーしたのか聞いてるんです!」
「優勝出来そうやな~と思ってつい」

駄目だこいつ。早く何とかしないと。
悪びれもなくヘラヘラとした顔で返されて本気で殺意が湧いた。いつか絶対海に沈めてやる。覚えとけ。

「まあまあ~そんなカッカせんとええもん見せたるから」
「何ですか、一体…」

息を切らして怒鳴る俺を宥めるように腕を掴むとそのまま自分たちの教室に連れていかれる。

いつも3つに別れているはずの教室は仕切りが片付けられて1つの部屋になっており、随分と広くなっていた。
内装は本当に教室かと言いたくなるほど手が込んでいて、少しアンティーク調の飾り付けがされており、人で賑わっている。

(…財布、持ってきてないんだが…)

そこで自分がまんまと勧誘されたのだと気が付き、急いでここまで来たので財布を持ってきていないことを久我先輩に伝えようとするも人集りをすり抜け、到着したのは暗幕で仕切られている場所。
そこは生徒の荷物置き場兼着替え場所になっているのか、狭く少し散らかっていた。

そこに居たのは会長1人。
久我先輩と違い、着崩さずにきちんと燕尾服に身を包み、いつもは降ろしている前髪は分けれられている。

「…まだ入っていいなんて言ってないんだけど」
「だっていつまで経っても出てこーへんし」

どうやら丁度白い手袋をはめている途中だった様で俺たちを見るなり会長はいつもの笑顔も忘れて眉を顰めた。

その姿に俺は反応することすら忘れてしまう。当分口をパクパクと動かして、やっと口から出たのは特に捻りもない褒め言葉だった。

「…似、合いますね…」
「せやろせやろ?着せるの説得するん大変やったんやから~」
「あ、あの、会長の着替え終わったんですか…?」

久我先輩が入ったのを見ていたのか、今度はここのクラスの生徒が顔だけ覗かせると会長の姿を見た瞬間、悲鳴のような黄色い声を上げた。

それを合図に人が集まり始めて、渋々と会長は暗幕で仕切られていた空間から出る。笑顔が作れてないのを見ると相当着るのが嫌だったに違いない。

「もうちょいゆっくりしたかったんやけど、まあしゃーないか」
「ここにいても邪魔でしょうし、俺教室戻りますね」
「おう、またな~。後で会長の写真送るわ」

すっかり人が集まって騒がしくなった空間から逃げるように久我先輩に見送られながら教室を後にした。廊下を歩けば時間帯のせいか先程よりも人の密度が少し高くなっている。

(あ、怒るの忘れてた…)

別れた久我先輩にもう少し色々言うつもりだったのにまんまと会長に気を取られてしまったことに気が付き、悔しい気持ちを抑えた。

流石に戻ってまで怒る気力もなく納得出来ないまま教室に帰っていた途中。
文系クラスの賑わいを見てふと要先輩の顔が思い浮ぶ。

(要先輩、恥ずかしいからって当番の時間教えてくれなかったんだよな…)

嫌がる本人に無理矢理聞き出すことはしなかったが、正直要先輩の和装姿は見たかった。ついでだったので通りがけに隣の文系クラスを覗く。

もしかしたら今接客してる姿が見れるかもしれないと期待して扉から眺めてみるも姿は発見できず、諦めて帰ろうと振り向いたら何かに勢いよくぶつかった。

「…要先輩…」
「…湊、なんでここに?」

ぶつかったのは偶然にも要先輩で格好はいつもの制服ではなく書生服。
紫色の着物と灰色の袴に黒い学生帽を被っており、すごく良く似合っていた。縁側で本とか読んでそう。

「用事でたまたま通り掛かったので…書生服すごく似合いますね」
「…恥ずかしいからあんまり見られたくなかったんだけどな」
「まだ接客中ですか?」
「ううん、丁度今から休憩」

折角だから接客してもらおうかと思っていたのに。
偶然姿は見れてもそこまで上手くはいかず少し残念そうにする俺を見兼ねたのか同じクラスの先輩が「あそこの席も空いてるし、接客してあげたら?」と気遣ってくれた。

「そうだね。折角来てくれたし」
「やった。じゃあ俺、財布を教室に置いたままなので取りに行ってきます」
「いいよ、僕に奢らせて」

2階に向おうと思ったが要先輩に引き留められそのまま強引に背中を押され、席に座らされる。財布に取りに行くことは叶わず、要先輩に素直にお礼を言うとメニューを見た。

「甘いもの好きだよね?」
「はい、割と…」

そう要先輩に尋ねられ答えると選ぶ間もなくあっという間に机の上にはあんみつが運ばれてきた。どうやら1番のおすすめメニューらしい。

いただきます、とスプーンを手に取り口に運べば、餡子の甘い風味とフルーツの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。文化祭レベルじゃないほど美味しい。金があるからいい食材でも使っているのだろうか。

「めっちゃ美味しいです」
「良かった」

要先輩は嬉しそうに笑うと俺の向かいの席に座った。
そんな俺たちをチラチラと見てくる周りの視線から察するに接客している時相当人気だったと分かる。周りの人から変わってくれというオーラがすごい。

それからは視線にも慣れ、少し他愛ない話をした後。
あまり長居するのも悪いので食べ終わるなり、要先輩と気遣って貰った先輩に軽く礼をしてから自分の教室へと戻った。

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